第18話『体育祭⑧-玉入れ-』

 日差しも強くなっていき、体育祭が始まったときに比べて結構暑くなってきた。レジャーシートにいるだけでも少し汗を掻き始めてきたので、こまめに水分補給をしていく。

 暑くなってきているけど、体育祭は問題なく進行している。終盤に近づいているので、気温に比例するかのように会場の熱気が増してきていて。

 緑チームは変わらず1位だけど、青チームとの差はあまり変わらず。3位と4位の赤チームと黄色チームも着実に点数を重ねている。どんな結果になるのかまだまだ分からない。

 グラウンドを見てみると……ライン引きで4つの円が描かれており、その真ん中には各チームの色の画用紙を持った係の生徒が立っている。


『ここで招集連絡です。玉入れに出場する生徒のみなさんはグラウンドに入ってください。グラウンドには各チームの色の画用紙を持っている生徒がいます。その周りには白線で円が描かれています。その円の外側で待機してください』


 次の種目は鈴木と海老名さんが出場する玉入れか。2人とも、午後になってからは初めての種目だし、海老名さんは最初の種目の100m走以来。だから、随分と久しぶりに競技に参加する気がした。


「おっしゃあ、行くぞぉ! 今日は玉だけど、投てき種目だからオレが本領発揮するときが来たぜ! 一緒に頑張ろうな、海老名!」

「ええ! 頑張りましょう、鈴木君」


 鈴木と海老名さんはレジャーシートから立ち上がると、右手でグータッチする。2人ともやる気十分のようだ。特に鈴木。

 俺達は鈴木と海老名さんに「頑張れ」とエールを送り、右手でグータッチした。2人は右利きだから、玉を投げるパワーを少しでもあげるつもりで。

 鈴木と海老名さんは玉入れに参加するクラスメイトと一緒にグラウンドを出て、緑色の画用紙を持つ係の女子生徒のところへ向かっていった。


「鈴木の奴、かなり気合いが入ってたな」

「本領発揮だって言っていたもんな」

「槍と玉では大きさも重さも全然違いますが、鈴木君ならやってくれそうな感じが凄くしますね」

「そうだね、あおいちゃん。理沙ちゃんの活躍にも期待してる。中学の玉入れのときは何個もカゴに入れていたから」

「そうだったんですね。私が通った小学校中学校全てで玉入れはありましたし、定番種目ですよね」

「そうだね。中学だけじゃなくて小学校のときもあったし。ね、リョウ君」

「あったな」


 ただ、玉入れはそんなに得意じゃなかったな。力加減が難しくて、入ってもせいぜい2個くらいだった。他の生徒が投げた玉と当たってしまうときもあったし。

 グラウンドを見てみると、赤、青、黄色、緑の4色の玉入れカゴが、それぞれのチームの画用紙を持つ生徒の近くに置かれる。レジャーシートに座っているのもあって、カゴがかなり高い場所にあるように見えるな。ただ、背の高い鈴木なら結構入れられそうな高さだと思えて。


「鈴木なら結構入れられそうな高さだな」

「俺も同じことを考えてた」

「麻丘もか」


 ははっ、と道本と笑い合う。その笑い声はあおいや愛実、佐藤先生にも広がっていった。もしかしたら、彼女達も同じようなことを考えていたのかもしれない。

 立っている生徒達の間からだけど、白線の内側には緑色の玉が置かれていくのが見える。


『次の競技は玉入れです。各チーム、自分のチームの色の玉を、同じ色のカゴに入れてください。制限時間は3分です。カゴに入れることのできた玉の数と、1位から4位までの順位ポイントが得点になります』


 つまり、他のチームを大きく引き離せる可能性もあれば、逆転されて2位以下に転落してしまうこともあるのか。終盤戦だし、この玉入れが戦況に大きく左右する可能性は高そうだ。


「よーし、みんな玉入れ頑張ろうぜ!」


 鈴木が元気よく声かけをすると、クラスメイト中心に緑チームの結構な数の生徒が『おー!』と大きな声で返事している。綱引きで大活躍して、一生懸命に声を掛けていたのを覚えていたからだろうか。

 鈴木の声かけのおかげで、緑チームの雰囲気はなかなかいい。これなら、玉入れで高得点を取ることに期待できそうだ。


『まもなく玉入れスタートです。スターターピストルの音が鳴るまでは、白線の外側にいてください』


 あの白線は公平にスタートするために引かれていたものだったか。

 スタート前になり、会場は静かになっていく。

 ――パァン!

 スターターピストルが鳴り響き、玉入れがスタートした。

 鈴木と海老名さんは、地面に落ちている玉を3、4個拾ってから、カゴに向かって投げ始める。


「おりゃあっ!」


 鈴木は気合いのこもった声と共に、カゴに向かって玉を投げる。その玉は吸い込まれるようにしてカゴに入っていく。それは一度だけでなく、最初に拾った玉全てで。


「鈴木凄いな!」

「ああ! 本領発揮だって言っていただけあるな!」


 道本も興奮した様子でそう言う。あおいと愛実、佐藤先生も「凄い凄い!」と言っている。

 海老名さんも鈴木ほどではないものの、投げた玉が結構な確率で緑チームのカゴに入っている。中学のときは自分の玉入れに集中していて分からなかったけど、海老名さん……結構凄いんだな。


「愛実ちゃんの言う通り、理沙ちゃんもカゴに玉が結構入ってますね!」

「でしょう? 頑張って理沙ちゃーん! 鈴木君もー!」

「緑チーム頑張ってください!」

「みんな頑張って!」


 あおいと愛実、佐藤先生の応援の声が響き渡る。


「緑チームいい調子だぞ! このまま入れまくろうぜ!」


 綱引きのときと同様に、鈴木は大きな声でチームメイトを鼓舞する。いいムードメーカーだな。鈴木の存在もあってか、緑チームは調子いいな。

 他のチームの様子を見てみると……パッと見た感じ、青チームが一番多く入っていそうだ。


「おおっ、鈴木凄えな! よし、鈴木に玉を渡そうぜ!」

「それいいな! 鈴木、お前は投げることに集中してくれ!」

「おう、分かったぜ!」


 玉入れに出場しているクラスメイトの男子の何人かが玉を拾い、それを鈴木に渡す役割に徹し始めた。鈴木も変わらず玉をカゴに入れまくっているし、この役割分担はいいかもしれない。


「あの分担のおかげで、鈴木が玉を入れるペースが上がってきたなぁ」


 道本は感心した様子でそう呟いていた。

 鈴木を含めた男子達の様子を見てか、クラスメイトの女子も何人かが海老名さんに玉を渡すように。これぞチーム戦って感じだな。

 鈴木と海老名さんの投げる玉の数が多くなったから、緑チームのカゴに入る玉の数のペースが上がった気がする。これなら1位を狙えるかもしれない。

 レジャーシートにいる俺達は緑チームを応援し続けた。


 ――パァン!

『そこまでです! 生徒のみなさんは玉を投げるのを止め、白線の外側に出てください』


 3分が経ったか。終わるまであっという間だったな。

 玉入れに参加している生徒は、実況の指示に従って白線で描かれた円の外に出る。鈴木と海老名さんは途中から投げることに徹していたからか、右肩をゆっくりと回していた。

 係の生徒2人が円の中に入り、緑チームのカゴのすぐ下まで向かう。


『玉入れに参加されたみなさん、お疲れ様でした。では、これから結果発表に入ります。1個ずつ数えていきますので、係の生徒のみなさんはカゴの中に入っている玉を上に投げてください』


 中学のときもそんな形で結果を発表していたな。あれ、結構盛り上がるんだよな。

 係の生徒2人は緑チームのカゴをゆっくりと倒す。


『どのチームも、カゴを下ろしましたね。では、数え始めましょう! いーち!』


 にー! さーん! と実況の掛け声と共に、係の生徒達がそれぞれカゴに入っている玉を上げていく。

 カウントアップが進んでいくうちに、生徒達が数字を復唱するように。もちろん、俺達も一緒に。そのことで会場がどんどん盛り上がっていく。そして、


『31!』

『31!』

『……あっ、赤チームはありませんね! 4位は赤チームで記録は30個!』


 まずは赤チームが4位になったか。それでも、赤チームの生徒は拍手していた。

 その後もカウントが続いていく。パッと見た感じ、緑チームのカゴにはまだまだ玉は残っているかな。


『45!』

『45!』

『……おっ、黄色チームは投げていませんね! 3位は黄色チームで、記録は44個です!』


 次に黄色チームが3位となったか。

 残ったチームは緑チームと青チームか。緑チームの玉はまだ残っているように見える。青チームは……遠くて分かりにくいけど、カゴに玉が何個もあるように見える。


「これで緑チームと青チームの一騎打ちですね! ドキドキしてきました!」

「そうだね、あおいちゃん。でも、きっと1位だよ! 理沙ちゃんと鈴木君がいっぱい玉を入れたもん!」

「俺も愛実と同じ考えだ」

「うちには鈴木と海老名がいるんだ。きっと1位取れるさ」

「2人の玉入れは特に凄かったからね。先生もそう思うよ」


 きっと、1位になれるはずだ。

 それ以降も緑チームと青チームによるカウントが進んでいく。個数が増えていく度に緊張感が増してきて。

 1位になるのは緑チームか。それとも青チームか。祈りながらそのときを待った。


『58!』

『58!』

『……あっ! 玉を上に投げたのは……緑チームだけです! 青チームのカゴにはもう玉は残っていませんか?』


 実況の女子生徒がそう問いかける。すると、すぐに「青チーム! もうありません!」と係の男子生徒の声が聞こえてきた。


『青チームはありません! なので、2位は青チームで57個! 1位は緑チームです!』

『やったああっ!』


 緑チームの生徒は喜び、鈴木も海老名さんも近くにいるクラスメイトもハイタッチしている。

 俺は緑チームの生徒に拍手して、あおいや愛実達とハイタッチしていく。鈴木と海老名さんが出場しているのもあり、道本は特に嬉しそうにしていた。

 1位が緑チームであることが決まった。ただ、入れた玉の数がチームの点数に加算される。なので、その後もカウントアップが続き、


『73! ……あっ、緑チームもありませんね! 1位の緑チームの記録は72個でした!』


 他のチームとは圧倒的な差を付けて1位となったため、拍手だけではなく「おおっ」とどよめきの声も聞こえた。

 玉入れが終わり、参加していた生徒達がレジャーシートに戻ってくる。俺達はカゴに玉をたくさん入れた鈴木と海老名さんに称賛や労いの言葉を掛ける。


「いやぁ、いっぱい投げたからいい運動になったぜ! カゴにたくさん入って良かった!」

「鈴木君、いっぱい入れていたわね。さすがだわ。途中から、みんなが玉を渡してくれるから、あたしもいっぱい投げたわ。3分でこんなに投げることなんて全然ないから、右腕と右肩が疲れたわ」

「海老名も凄かったぞ! お疲れさん!」

「ありがとう。鈴木君もお疲れ様」


 鈴木と海老名さんは労いと称賛をし合い、嬉しそうにハイタッチした。

 右腕と右肩が疲れたと言っていたからだろうか。海老名さんがシートに座ると、あおいと愛実は海老名さんにマッサージしてあげていた。


「あぁ、気持ちいい……」


 甘い声でそう言いながら、柔らかい笑顔になっている海老名さんがとても可愛く見えるのであった。

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