第11話『体育祭①-100m走-』

 朝礼が終わり、俺はタオルや水筒、スマホなどを入れたトートバッグを持って、あおいや愛実達と一緒に体育祭の会場である校庭へ向かう。

 校庭には体育祭本部や委員会のテントが設置され、万国旗が飾られ、トラックには白線が引かれていて。トラックの中には1位から4位までの順位フラッグも置かれている。普段は何もない校庭も、今は立派な体育祭会場に様変わりしている。この光景を見たあおいは「おおっ」とテンション高めだった。

 また、端の方には一般生徒が座るレジャーシートが敷かれている。座るエリアはクラスごとに決まっており、生徒達はそこに座ることになっている。レジャーシートは赤、青、黄、緑と4色あり、クラスのエリアは自分のチームの色のところにあるのだ。

 2年2組は緑チームなので、緑色のレジャーシートにうちのクラスのエリアが設けられている。緑色だから気持ちが落ち着くし、ゆったりと過ごせそうだ。

 外に出てから10分ほどで、開会式が行なわれる。

 全校生徒で校歌を斉唱したり、長く感じられる校長先生の話を聞いたり、


「宣誓っ! 我々、生徒一同はっ! スポーツマンシップにのっとりっ! 正々堂々と戦うことを誓いまあすっ!!」


 体育祭実行委員長の男子生徒が物凄く元気な声で選手宣誓をしたり。小学校のときからさほど変わらない開会式だった。


『開会式が終わりましたので、これより競技に入ります。最初の種目は100m走です。出場する生徒は、本部テント近くにある出場者待機場所に集合してください』


 男子生徒の声でそうアナウンスされる。

 最初は100m走か。男子の方は道本、女子の方は海老名さんが出場する。さっそく応援しないとな。


「招集がかかったわね、道本君」

「そうだな。じゃあ、俺達は待機場所に行くよ」

「ああ。2人とも頑張って」

「頑張ってください!」

「理沙ちゃんも道本君も頑張ってね!」

「クラスの場所から応援してるぜ!」


 俺達4人がエールを送ると、道本と海老名さんは爽やかな笑みを浮かべて「ありがとう」とお礼を言う。2人は俺達に手を振って、招集場所に向かっていった。

 俺はあおいと愛実、鈴木と一緒に2年2組のレジャーシートに戻っていく。


『また、本日の体育祭の実況、招集連絡、競技中のBGMは我々放送委員会が務めます。今日は一日よろしくお願いします!』


 引き続き、同じ男子の声でそんな案内がなされた。多くの生徒は拍手している。俺達も周りに合わせて拍手することに。

 そういえば、体育祭の放送やBGMは放送委員会がやっていたっけ。去年はたまに放送委員の生徒が熱く実況して、体育祭が結構盛り上がるときもあったな。


「前の高校でも、体育祭の放送関連は放送委員会の生徒が担当していましたね」

「そうだったんだな」


 放送や音響関連の機器の操作もあるだろうし、どの高校でも、体育祭の放送は放送委員会が担当するのかも。

 レジャーシートに戻り、自分の荷物の近くで腰を下ろす。さっきまで立っていたから、両脚を伸ばすとかなり快適だ。

 また、俺の左隣にはあおい、後ろには鈴木。あおいの左隣には愛実が座っている。

 トートバッグから体育祭のしおりを取り出し、プログラムを見る。自分はもちろん、あおいや愛実達が参加する競技も書き込んである。俺が最初に参加する借り物競走は昼前だから、しばらくはみんなの応援だな。

 それからすぐに、体育祭や運動会で定番のクラシック曲が流れ始める。そろそろ100m走が始まるのかな。


『お待たせしました。これより100m走を開始します! まずは男子からになります』


 おっ、予想通り100m走スタートか。男子からってことは、まずは道本の応援だな。

 スタート地点には4人の生徒が立っている。ここからだとちょっと遠いけど、それぞれの生徒の顔や鉢巻きの色は何となく分かる。これから、道本が走ることも分かりそうだ。あと、4人の生徒はそれぞれ赤、青、黄、緑の鉢巻きを頭に巻いている。どうやら、それぞれのチームの選手が1人ずつ走る形のようだ。

 ――パァン!

 と、スターターピストルの音が鳴り響き、4人の生徒はゴールに向かって走り始める。

 競技が始まったのもあり、周囲から「頑張れー!」という声が聞こえてくる。体育祭が始まったんだなぁと実感する。

 100m走なので、4人はすぐにゴールを駆け抜ける。緑チームの男子生徒は2位でゴール。そんの生徒は『2』と書かれたフラッグのところに向かった。どうやら、あのフラッグの数字は着順を表しているようだ。

 その後も男子の100m走は続いていく。

 たまに、陸上部の部員が登場することもある。100m走は徒競走競技の花形競技の一つだし、陸上部でも短距離走を専門にしている生徒は多かったからな。陸上部の生徒が登場すると、


「うおおっ! 頑張れー!」


 鈴木はチーム関係なく応援していた。朝礼前は「勝負事だから1位になれるように頑張りたい」って言っていたのに。あれは自分が参加する競技についてってことだったのかな。何にせよ、陸上部員を応援する鈴木はらしさを感じられた。

 そして、いよいよ、


「おっ、道本の出番だぜ!」


 スタート地点に道本の姿が。いよいよ道本の出番だ。

 鈴木の大声もあってか、多くの生徒かスタート地点に注目する。女子から人気が高いのもあってか、「きゃあっ!」とか「道本くーん!」といった黄色い声も聞こえる。


「さあ、私達も応援しますよ! 道本君、頑張ってくださーい!」

「頑張って、道本君!」

「頑張れ、道本!」


 俺達は道本に向かって声援を送る。

 道本など、スタート地点にいる4人の生徒はクラウチングスタートの姿勢になる。

 ――パァン!

 スターターピストルが鳴り響き、道本のレースがスタートする。

 道本はいい反応をして、スタート直後から他の生徒達の前に出る。

 中学の頃から変わらない綺麗なフォームで走り、他の生徒達をどんどんと引き離していく。


「道本君、いいですよ!」

「頑張って、道本君!」

「いいぞ、道本!」

「道本いけえっ!」


 俺達4人の応援の声は自然と大きなものになる。中学時代の陸上の大会でも、こうしてみんなで道本を大きな声で応援したな。

 道本は他の追随を許さぬまま、1位でゴールした!


『緑チーム! 圧巻の速さで1位でゴールしました!』


『おおっ!』


 女子中心に人気が高い道本が、圧倒的な差で1位になったのもあり、校庭は大きく盛り上がる。また、鈴木は興奮しているのか、両手で俺の両肩をバシバシ叩いてくる。痛いっす。

 俺達は道本に向かって賛辞の拍手をして、


「道本君凄いです!」

「さすがは道本君!」

「凄えぞ道本!」

「さすがだ、道本!」


 大きな声で道本に向けて祝福の言葉を贈った。

 俺達の声に気付いたのか、道本は走り終わった生徒の集合する場所に向かいながら、


「ありがとう!」


 爽やかな笑顔を浮かべて、大きな声でそう言ってきた。その際、右手を大きく振って。道本は1位の生徒が並ぶ列に向かった。

 また、今の道本の姿を見たからか、周りから「きゃーっ!」と女子達の黄色い声が飛び交う。まるでアイドルみたいだな。そういえば、中学のときから、体育祭で道本が走ると今みたいに黄色い声が飛んでいたっけ。

 その後もつつがなく100m走は続いていく。

 緑チームの生徒は2位か3位になることが多い。最下位も少ないからまずまずと言えそうだ。

 男子の100m走が終わって、いよいよ女子の100m走に。女子には海老名さんが登場するから、彼女の応援をしないと。

 女子のレースが始まる。女子の方は1位から最下位まで満遍なくって感じだ。あと、女子も陸上部の生徒が何度か出ているな。


「あっ、颯田部長ですよ!」

「本当だ、あおいちゃん!」


 あおいと愛実がそう言うので、スタート地点の方を見る。

 スタート地点には陸上部部長・颯田旭部長の姿が。颯田部長も短距離走専門だから、100m走に登場したか。彼女の巻いている鉢巻きの色は緑……ではなく、青である。


「おおっ、部長応援しねえと! 青チームだけどな!」

「手伝いのときにお世話になったからなぁ」


 敵チームではあるけど、友達の入っている部活の生徒だと応援したくなるものだ。

 俺達がそんなことを話していると、颯田部長のレースが始まる。俺達4人は大きな声で応援する。

 颯田部長はいいスタートダッシュを切り、他の生徒との差を広げながら1位でゴールを駆け抜けた。颯田部長の走りを見るのはマネージャー手伝い以来だけど、部長の走りは女子の中では変わらず随一だなと思う。


『ゴール! 青チームが圧倒的な速さで1位となりました!』


 部長が1位になったので、俺達4人は盛り上がる。緑チームの生徒は4位だったので、どうして盛り上がるのかと白い目で見てくる生徒もちらほらいるけど気にしてはいけない。


「部長! 1位おめでとうっす!」


 鈴木が大声でそう言うと、颯田部長はこちらに向いて笑顔で手を振り、1位の生徒が並ぶ場所に向かった。

 その後も女子のレースが進んでいく。そして、


「あっ、理沙ちゃん!」

「出てきましたね! 頑張ってくださーい!」

「頑張って!」


 スタート地点には海老名さんの姿が。

 うちのクラスの女子が登場したのもあって、女子生徒中心に「頑張れー」と海老名さんにエールを送る。


「海老名! 頑張れー!」

「海老名さん、頑張って!」


 俺と鈴木も海老名さんに向かってエールを送る。

 俺達の声が聞こえたのか、海老名さんはこちらに向かって、持ち前の落ち着いた笑顔で手を振ってくる。

 海老名さんを含め、スタート地点にいる生徒達はクラウチングスタートの姿勢になる。海老名さんも脚がなかなか速いから、1位を取るのを期待したい。

 ――パァン!

 スターターピストルが鳴り、海老名さんのレースがスタートする。

 スタート直後は横一線。ただ、海老名さんと黄色チームの女子生徒がリードする展開に。


「理沙ちゃん! 頑張ってー!」

「その調子ですよー!」


 1位を争う展開なので、あおいと愛実の声援も自然と大きくなっていく。


「いけー! 海老名―!」

「1位取れるぞ、海老名さん!」


 鈴木や俺の声も大きくなって。

 ゴールまであと少しとなり、海老名さんの走るスピードが上がり始める。横で粘っていた黄色チームの生徒との距離ができ始める。

 黄色チームとの生徒が追い上げてくることはなく、海老名さんは1位でゴールした。


『緑チームが1位! 惜しくも、その直後に黄色チームが2位でゴールしました!』


「やったー! 理沙ちゃんすごーい!」

「理沙ちゃん1位ですね!」


 あおいと愛実は喜びの声を上げ、喜びのあまりかあおいは愛実のことを抱きしめる。


「おおっ、海老名すげーな!」

「ああ! さすがはマネージャーだ!」


 道本や颯田部長のように、圧倒的な差をつけて1位を取るのもいいけど、海老名さんのように終盤まで争った末に1位を取る展開は胸が熱くなる。いやぁ、海老名さん凄い。

 海老名さんはゴール地点から、競技終了後の生徒が集まるところへ向かう。


「理沙ちゃん1位おめでとう!」

「素晴らしい走りでした!」

「海老名やったな!」

「1位おめでとう、海老名さん!」


 俺達4人は海老名さんに向けて、そんな祝福の言葉を贈る。

 1位を取れて嬉しかったのか、海老名さんはニッコリと笑いながらこちらを向いて、


「ありがとう、みんな!」


 大きめの声でそう言った。そんな海老名さんはとても可愛らしくて。海老名さんは1位の生徒が並ぶ列の最後尾に向かった。

 道本も海老名さんも1位を取ったか。まずは午前中の借り物競走で1位を取りたい。

 海老名さんの順番は結構後の方だったので、それから数分ほどで100m走は終わった。道本と海老名さんは、他にも出ていたうちのクラスの生徒と一緒にレジャーシートに戻ってくる。


「1位を取れて良かった」

「みんなの応援が聞こえたわよ。おかげで1位を取れたわ。ありがとう」

「俺もだよ。みんなありがとう」


 道本と海老名さんは俺達にお礼を言ってくれた。そんな2人に、俺達4人は「おめでとう!」と再び祝福の言葉をかけたり、ハイタッチしたりするのであった。

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