第2話『カラオケ-前編-』

 掃除当番が終わり、俺は愛実とあおいと海老名さんと4人で教室を後にした。

 海老名さんは部活があるので、彼女とは昇降口で別れる。その際は再度、海老名さんに頑張れとエールを送って。

 学校を後にして、昼食を食べるために俺達は駅の方に向かって歩き出す。

 歩きながら、3人で何を食べたいかを話し合う。

 そんな中、あおいが、


「今日は晴れて暖かいので、冷たいものが食べたいです!」


 と要望してきた。なので、冷たくてさっぱりと食べられるそばやうどんを食べることに決めた。

 調津駅の近くに安くて美味しいそば屋があるので、そこでお昼ご飯を食べる。

 俺は天ぷらざるそば、あおいは天ぷらざるうどん、愛実は鴨南蛮つゆのざるそばを注文。

 暑くなってきたので、冷たいそばがとても美味しい。あおいと愛実も自分の注文したものを美味しそうに食べている。笑顔で食事している2人は本当に可愛い。

 また、ここのそば屋はあおいとは初めて来たので、あおいが美味しく食べているのを見ると凄く嬉しくなる。

 お昼ご飯を食べ終わり、俺達はそば屋から近いところにあるカラオケボックスへ。

 この時期は中間試験などで早く日程が終わる学校が多いのだろうか。店に入ると、受付には調津高校とは別の高校の制服を着た人がちらほらと見受けられる。

 俺達はフリータイムのドリンクバー付きプランで受付する。フリータイムは午後6時まで利用していいことになっている。今は午後1時くらいだから、最大で5時間カラオケを楽しめるのか。2年生になってから初めてだし、今日はいっぱい歌おう。

 受付のスタッフから、レシートと人数分のグラスを受け取る。レシートを見ると……205号室か。

 俺達は2階へ行き、階段の近くにあるドリンクコーナーで、それぞれ好きなドリンクをグラスに注ぐ。俺はブラックコーヒー、あおいはコーラ、愛実はミルクティーだ。

 ドリンクを用意して、俺達は数時間の居場所である205号室へ向かう。


「ここか」

「おおっ! 結構広いですね!」

「3人で使うから、結構ゆったりできそうだね」


 扉の正面には大きなモニターがある。画面には現在ブレイク中のアーティストの新曲MVが流れていた。

 中央にあるテーブルを挟んで、左右の壁にソファーが備え付けられている。それぞれ3人くらい座れそうな大きさだ。愛実の言うように、3人で使うから結構ゆったりとできそうだ。

 とりあえずは男女別々でソファーに座ることに。

 一人で座るから、かなり広々としている。スクールバッグを置いても余裕があるほど。たくさん歌って疲れたら横になるのもありかも。行儀が悪いかもしれないけど。

 あおいと愛実は……仲良しだからか、広々としたソファーだけど体が触れそうなくらいに近くで座っている。

 あおいはコーラの入ったグラスを持つと、


「涼我君、愛実ちゃん、中間試験お疲れ様でした! 乾杯しましょう!」

「そうだな。これは中間試験の打ち上げなんだし」

「いいね、乾杯しようか」


 俺も愛実も自分のグラスを持つ。


「リョウ君、あおいちゃん、中間試験お疲れ様!」

「お疲れ様、愛実、あおい。特にあおいは調津高校で初めての中間試験だったし」

「はい。お二人や理沙ちゃん達との勉強会のおかげで、赤点なしで済みそうです。ありがとうございました。では、乾杯!」

『かんぱーい!』


 俺はグラスをあおいと愛実の持っているグラスに軽く当てて、アイスコーヒーを一口飲む。


「美味しい」


 ここのコーヒーは苦味やコクがしっかりあって美味しい。試験明けだから本当に美味しい。


「ああっ、コーラ美味しいです!」

「ミルクティー美味しい」


 2人も自分の飲み物を美味しそうに飲んでいる。特にあおいはコップ半分ほど一気に飲んでいて。今のあおいを見ていると、あおいは20歳になったら、カクテルやサワーといった甘い炭酸系のお酒をよく呑みそうな気がしてきた。


「よし。じゃあ歌っていくか」

「そうだね。ただ、最初に歌う曲って迷うんだよね」

「愛実は色々な曲を聴くもんな。俺も迷うときあるよ」

「お二人がどんな曲を歌うのか楽しみですね。あの……お二人が良ければ私から歌ってもいいですか? クリスのオープニングなんですけど、カラオケに行くときは結構歌う曲があるんです」

「うん、いいよ! あおいちゃんの歌聴きたい!」

「俺も」

「分かりました!」


 あおいは嬉々とした様子で、電子リモコンを操作し出す。

 クリスは長い間放送され続けているので、オープニングテーマはかなり多い。あおいがどの曲を歌うのか。

 また、あおいは俺や愛実と同じで芸術の授業では音楽を選択している。だけど、歌うときはだいたいが斉唱や合唱。今のあおいの歌声をはっきりと聴いたことはない。色々な意味であおいの歌唱が楽しみだ。


「さあ、入れましたよ!」


 あおいはそう言うと、電子リモコンをテーブルに置き、マイクを持つ。


「行きますよー!」


 マイク越しにあおいは元気な声でそう言ってきた。これから歌うからか、あおいはテンション高めだ。

 それから程なくして、あおいが入力した曲のイントロが流れ始める。

 あおいが歌う曲は、幅広い世代から絶大な人気を誇る男性ロックユニットの曲。クリスのオープニングに使われているので、俺も愛実も馴染み深い曲である。

 ノリが良く、激しいロックな曲なので、あおいは元気よく歌っている。このユニットのボーカルの歌声も高めだから、あおいの声によく合っている。だから、俺のテンションも自然と上がっていく。愛実もニコニコであおいを見ている。

 伸びのある透き通った歌声だし、音程も取れているので上手だ。ただ、元気すぎて何度か音が外れるときもあるけど。そういえば、昔もあおいは大きな声で歌って、音程が外れるときがあったっけ。

 とても楽しそうに歌っているあおいを見ると、何だかドキッとするな。


「ありがとうございました!」


 満面の笑みでお礼を言うと、あおいは俺や愛実の顔を見て軽く頭を下げた。そんなあおいに対して、俺と愛実は拍手を送った。

 あおいは俺達にニコッと笑うと、自分のコーラをゴクゴク飲んでいる。


「あおいちゃん上手だね! ロックな曲だから、歌っているあおいちゃんかっこよかったよ!」

「かっこよかったな。男性ボーカルの曲だけど、原曲キーで歌っていたし」

「ありがとうございます。このユニットのボーカルの方の歌声は高めですから、私も原曲のキーで歌えますね。クリスきっかけで、このユニットが好きになって」

「クリスで何曲も主題歌を担当しているもんな。俺も好きだよ」

「私もあおいちゃんと同じきっかけで好きになったよ。親が聴いていたのもあるけど」

「そうですか!」


 愛実も好きだと分かったからか、あおいは嬉しそうな様子で愛実のすぐ側に座る。

 観ているアニメやドラマの主題歌を歌っているとか、親が聴いていることがきっかけで、そのアーティストが好きになることってあるよな。


「あおいちゃんの歌を聴いたら、まずは私も好きな曲を歌いたくなったよ。次は私でいいかな」

「ああ、いいよ」

「愛実ちゃんの歌、楽しみです!」


 愛実は電子リモコンを操作し始める。どんな曲を歌うのか楽しみだな。

 入力し終わったのか、愛実は電子リモコンを置いて、両手でマイクを持つ。

 愛実が歌い始めたのは、人気のある若手女性シンガーソングライターの代表曲。俺達が中学時代に発売された曲で、愛実が大好きな曲でもある。なので、これまでのカラオケで何度も聴いたことがある。あおいも知っているようで、愛実を見ながら口ずさんでいる。

 愛実の歌声は可愛らしく、音程も安定している。持ち前の優しい笑顔で歌っているので、歌っている愛実がとても可愛く見える。さっきのあおいと同じく、歌っている愛実を見ているとドキッとして。


「あぁ、楽しかった!」


 歌い終わった愛実に向かって、俺とあおいは拍手を送った。


「愛実ちゃんの歌声、可愛いですね! 音楽の授業のときも思いましたけど」

「いい歌声だよな。この曲は愛実の定番の一つだし、上手だな」

「ふふっ、ありがとう。発売された中学の頃からずっと好きな曲なの。あおいちゃんも口ずさんでいたね」

「私も好きな曲です。このアーティストはシングル曲ばかりですが、好きな曲はいくつかありますね」

「そうなんだ! いい曲いっぱいあるよね! アルバムもいい曲があるから、もし聴きたくなったら言って。貸してあげるよ」

「ありがとうございますっ!」


 愛実とあおいは互いの顔を見ながら笑い合う。いい光景だ。

 友達が好きなのをきっかけに、自分もそのアーティストが好きになるってこともあるよなぁ。俺も愛実きっかけで好きになったアーティストが何人もいるし。逆に、俺きっかけで愛実が好きになったアーティストもいる。

 あおいと愛実が大好きな曲を楽しそうに歌っているのを見て、俺も自分の大好きな曲を歌いたくなってきた。


「よし、じゃあ……俺も歌うか」

「待ってました!」

「リョウ君がどんな曲を歌うのか楽しみだなぁ」


 あおいと愛実は輝かせた目で俺を見てくる。

 俺は電子リモコンを使い、これから歌う曲を入力した。

 マイクを持ってソファーから立ち上がった直後、入力した曲のイントロが流れ始める。

 俺が歌う曲は長年人気があり、先日観に行ったクリスの主題歌も担当したロックバンドの代表曲。俺の産まれる前にリリースされた曲だけど、様々なアーティストやアニメキャラがカバーしていたり、カラオケでもよく歌われていたりする曲なので認知度はかなり高い。俺にとってもカラオケの定番曲である。十八番といってもいい。

 アップテンポの曲だから、歌うととても気持ちいいな。

 愛実はもちろん、あおいも知っているようで2人は一緒に口ずさんでいる。そんな2人を見ていると嬉しくなって、より気持ち良く歌えた。


「……ふぅ」


 歌い終わり、俺はアイスコーヒーを一口飲んだ。好きな曲を歌った後だし、あおいと愛実の拍手も聞こえるから凄く美味しいな。


「涼我君、上手ですね!」

「上手だよね。リョウ君の定番の歌なの」

「そうなのですか。この曲は大人気ですもんね」

「カラオケで歌わないときはないな」

「ふふっ。小さい頃も上手でしたが、声変わりした今も上手ですね。素敵な歌声でした」

「ありがとう」


 あおいの前では10年ぶりに歌ったけど、あおいに上手だと思ってもらえて嬉しいな。それと同時に、安堵の気持ちも抱いた。

 それから、俺達は好きな曲はもちろんのこと、クリスを含めたアニメの主題歌や最近の流行りの曲などいっぱい歌う。中にはデュエットしたり、3人で一緒に歌ったりもして。

 また、あおいの伸びやかな歌声と愛実の可愛らしい歌声が合わさると凄くいい。俺は歌わずに2人の歌をずっと聴きたいと思うくらいだ。楽しいだけじゃなく、癒しの時間にもなるのであった。

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