第3話『3人で課題をやろう』

 家に帰ってからも多少の疲れは残ったけど、特に体が痛むことはなかった。

 ただ、運動をした後なので、両脚のストレッチはしっかりと行なった。それもあって、時間が経っても両脚に痛みが出てくることはなかった。

 今日のことをしっかりと覚えておいて、今後もたまに早朝のジョギングをしていきたい。




「リョウ君。問4が分からないの。教えてくれるかな」

「いいぞ」

「愛実ちゃんの後に、私に問3について教えていただけますか? ここでも詰まってしまって……」

「分かった。ちょっと待っていてくれ」


 お昼過ぎ。

 俺はあおいと一緒に愛実の家にお邪魔して、授業で出された課題を3人で取り組んでいる。数学Ⅱと数学B、コミュニケーション英語Ⅱ、古典と様々な科目で課題が出ている。それぞれの課題はそこまで多くないけど、4科目もあると結構な量だ。

 あおいも愛実も数学Bがあまり得意ではないので、まずは数学B。俺はもう終わったけど、2人はベクトルが難しいそうで、今のように俺に質問してくることが多い。特にあおい。


「それで、答えはこう表せるんだ」

「なるほどね。理解できたよ。ありがとう、リョウ君」

「いえいえ。力になれて良かった」

「リョウ君が教えてくれたコツで、この後の問題も解いてみるよ」

「ああ。同じようにすれば解けるよ。頑張れ」


「だから、これが答えになるんだよ」

「なるほど。そういうことですか」

「ベクトルの問題は、まずは図を描いてみると分かりやすくなるよ」

「分かりました。ありがとうございます、涼我君!」

「いえいえ」


 といった感じで、愛実にもあおいにも数学Bを教えている。2人とも真剣に取り組んでいるし、お礼を言ってくれるので気分がいい。あと、理解を深めることに繋がるので、2人に質問されることは俺にとってもいい勉強になっている。

 中学の頃から、課題に取り組んだり試験勉強をしたりする際、幼馴染や友達からの質問に答えることが多かった。それが、これまでの定期試験や成績でいい結果が続いている理由の一つじゃないかと思っている。


「涼我君。ちょっといいですか?」

「うん? 次の問題も分からない?」

「いいえ。涼我君のアドバイス通りに図を描いたら解けましたので。合っているかどうか確認してほしくて」

「分かった。……うん、合ってるよ」

「良かったですっ」


 えへへっ、とあおいはニッコリと笑ってくれる。その笑顔がとても可愛くて。ちょっとキュンとなった。


「リョウ君。私の方も確認してくれるかな? 合っているか不安で」

「ああ。……よし、合ってる」

「良かった。リョウ君がコツを教えてくれたおかげだよ」


 愛実もまた、ニッコリと嬉しそうな笑顔を俺に向けてくれて。勉強中にこういったことは何度もあったけど、今の愛実の笑顔は本当に可愛くて。またキュンとなる。

 キュン2連発で体が少し熱くなったので、愛実が淹れてくれたアイスコーヒーで一口飲んだ。コーヒーの冷たさが心地いい。

 今のように教えた人の成長を感じられることもあるから、勉強を教えるのはいいなって思える。

 それからも、時々来る2人からの数学Bの質問に答えながら、俺は数学Ⅱの課題を勧めていった。


「……よし、私も数学Bが終わりました!」

「お疲れ様、あおいちゃん」

「お疲れ様、あおい」

「ありがとうございます。数Bが終わりましたし、一旦休憩にしませんか? ちょっと疲れました……」

「それがいいね。リョウ君はどう?」

「切りがいいもんな。ちょっと休憩するか」


 あおいも愛実も難しいと思っていた数学Bの課題を終わらせられたんだ。2人とも悩んでいるときもあったし、ここで休憩した方がいいだろう。

 休憩に入ったので、愛実がキッチンからチョコレートマシュマロを持ってきてくれた。俺達はさっそくマシュマロをいただくことに。


「うん、美味しいな」

「美味しいですっ! 疲れた脳が癒やされますぅ」

「課題をやった後の甘いものってたまらないよね」


 美味しい美味しい、とあおいと愛実はチョコレートマシュマロを間髪に入れずに3粒食べる。そんなに頭が疲れていたのか。それとも、美味しくて一気に食べちゃったのか。

 理由はどうであれ、マシュマロを美味しそうに食べている2人を見ると微笑ましい気持ちになる。俺はマシュマロを食べるよりも、2人の笑顔を見る方が勉強の疲れも取れていくよ。


「……そうだ。愛実、あおい。実は早朝に久しぶりにジョギングをしたよ」


 ジョギングについては両親にしか伝えていなかったので、あおいと愛実にも3年ぶりにジョギングしたことを報告する。

 あおいと愛実は俺のことを見ながら口角を上げる。


「そうなんだね、リョウ君」

「久しぶり……ということは、事故に遭ってからは初めてですか?」

「ああ、そうだ。小学校の高学年頃から事故に遭うまでは、休日中心に早朝にジョギングをするのが日課だったよ。事故に遭ってからは初めてだから3年ぶりになるな」

「そうだったんですね。久しぶりのジョギングはどうでしたか?」

「とても楽しくて気持ち良かったよ。前よりもゆっくりジョギングして、家から多摩川沿いの道まではウォーキングだったのもあってか、脚に痛みは感じなかった」

「それは良かったですね」

「良かったね」


 あおいも愛実も優しげな笑顔でそう言ってくれる。


「ジョギングなら、今の俺でも楽しんでいけると思う。これからはまた、休日中心に早朝のジョギングを習慣にしていこうと思ってる」

「そっか。自分のペースで走り始めたんだね。ジョギングがまた習慣になって嬉しいよ」


 愛実は言葉通りの嬉しそうな笑顔になり、俺のことを見つめながら言ってくれた。きっと、ジョギングという形でも、俺がまた走り始めたことが嬉しいのだろう。今の愛実の笑顔を見ると、俺も嬉しい気持ちになっていく。

 あと、自分のペースで走り始めた……か。以前よりも遅いスピードでも今朝のジョギングは気持ち良かったので、愛実の言ったその言葉がとても心地良く感じられた。


「それにしても、ジョギングですか。中学の部活の練習や朝練でやりましたね。朝はそこまで強くないですから、早朝に自主的にジョギングしたことはあまりないですね。まあ、朝早く起きられないのはリアルタイムで深夜アニメを観るのも一因ですが」

「ふふっ。私も普段は走らないけど……ダ、ダイエットのためにリョウ君と一緒にジョギングしたり、ウォーキングしたりしたことは何度かあったな。効果覿面なの」

「今朝、川沿いの歩道をジョギングしているときに、愛実と一緒にジョギングしたときのことを思い出したよ」

「……そっか」


 頬をほのかに紅潮させながら、愛実は「ふふっ」と笑った。


「もしかしたら、今後もまたダイエット目的で、リョウ君と一緒にジョギングしたいって言うかもしれない。油断するとすぐに太っちゃうから」

「私も……あるかどうかは分かりませんが、早く起きられたときはご一緒に」

「ああ。ジョギングしたくなったら、いつでも俺に言ってくれ」


 昔、愛実と一緒にジョギングやウォーキングをするのは楽しかった。きっと、今の愛実やあおいとも一緒にするのも楽しそうだ。いつかのお楽しみにしておこう。


「よし、じゃあそろそろ課題を再開するか」

「そうだね、リョウ君」

「頑張りましょう!」


 マシュマロを食べたり、ジョギング関連の雑談をしたりしたからか、愛実もあおいもやる気になっている。10分ほどだったけど、いい休憩になったようだ。

 まだ、終わっていない課題は3教科分ある。気合いを入れて頑張ろう。

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