第15話『初めていろいろ』
4月11日、月曜日。
ゆっくりと目を覚ますと……普段と違って、Tシャツ姿のあおいが俺を覗き込んでいる。俺と目が合うと、あおいはニコッと可愛い笑顔を向けてくれる。
「あっ、起きましたね。おはようございます、涼我君!」
俺に向かって、元気に朝の挨拶をしてくるあおい。そんな光景に俺は――。
「夢か」
朝起きたらあおいがいるなんて状況……現実にはあり得ないよな。あおいと再会してから2週間近く経ったし、一緒にいることが多いからこういう夢を見るのだろう。そう考えて、再び目を瞑った。
「ね、寝ないでくださいっ! いつもこのくらいの時間に起きるそうじゃないですか!」
あおいそう言った直後、右肩に何度も叩かれる感触が。段々とあおいの甘い匂いも感じられるようになってきたし、本当に……現実なのか?
再び目を開けると、さっきよりも近い場所にあおいの顔が。視界の大半をあおいに奪われている。そのことにドキッとする。
「まさか……本当に?」
あおいと目を合わせて、俺はあおいにそう問いかける。
あおいは優しく微笑んで、しっかりと首肯した。
「本当ですよ、涼我君。改めて、おはようございます」
「……おはようございます」
本当にあおいが起こしに来ていたとは。念のために、舌を軽く噛んでみると……確かな痛みが感じられた。本当なんだ。マジで。
「まさか、あおいが起こしに来てくれるなんて。でも、どうして?」
「漫画やアニメやラノベで、朝、幼馴染ヒロインが主人公の家に行って起こすシーンってあるじゃないですか。あれをやってみたくて」
「ああ、そういうシーンあるよな」
幼馴染ヒロインとの定番シーンの一つとも言える。今のあおいのように普通に起こしてくれるヒロインもいれば、主人公の上に乗っかるヒロインやベッドの中に入って起こすヒロインもいたっけ。
「そういえば、あおいには一度も起こしてもらったことはなかったか」
「ええ。涼我君っていう幼馴染がいますから、以前から憧れがあったんですよね。それで今日やってみたんです。もちろん、涼我君の御両親からは許可をいただいています。私の両親にも起こしに行くことを伝えてあります。あと、涼我君がいつも起きる時間は智子さんから訊きました」
「そうだったのか」
全然気づかなかったよ。父さんも母さんも、あおいが起こしに来るような素振りを見せなかったし。
「憧れのシーンを実現できて嬉しかったですっ!」
その言葉が本心であると示すように、あおいは目を細めて嬉しそうな笑顔を見せる。そんなあおいの笑顔が太陽のように明るいから、眠気がどんどんなくなっていった。あおいの念願が叶ったのもあり、俺も段々嬉しい気持ちになる。
「あと、涼我君の寝間着姿や寝顔を久しぶりに見ましたが、小さい頃と変わらず可愛いですね」
「ははっ、可愛いか」
幼稚園の頃に一緒にいたし、お泊まりの経験もある幼馴染だから、寝顔が可愛いと言われるのも悪い気はしない。
ゆっくり上体を起こすと……体が結構軽いしスッキリした気分だ。
「起こしに来てくれてありがとう。ちょっとビックリしたけど、いい目覚めになったよ」
そうお礼を言って、あおいの頭を優しく撫でる。サラサラとした髪の触り心地とシャンプーの甘い匂いに癒される。
「いえいえ。そう言ってもらえて嬉しいです」
頬をほんのりと紅潮させ、あおいは可愛い笑顔を見せた。
それからすぐにあおいは自分の家に帰っていき、俺はいつもの平日の朝の時間を過ごしていく。月曜日の朝は気怠く感じることもあるけど、あおいが起こしてくれたおかげで普段より気分良く過ごせた。
今日も俺はあおいと愛実と一緒に登校することに。
「今朝は涼我君を起こしに行きました」
「さっきリョウ君から聞いたよ。漫画やアニメのシーンを再現してみたかったんだね」
「ええ。幼馴染ヒロインの定番のシーンの1つですから。涼我君にそれができて嬉しかったです」
「ふふっ」
「愛実ちゃんは涼我君を起こしに行った経験はあるんですか?」
「小学生の頃はたまに起こしに行ったよ。特に冬の寒い時期は」
「やっぱり経験あるんですね!」
凄いですね……とあおいは愛実に尊敬の眼差しを向けている。そんなあおいの反応に愛実は結構嬉しそうにしていた。
愛実の言うように、小学生の頃はたまに起こしてもらっていたな。特に冬だと、部屋にある目覚まし時計やスマホの目覚まし機能を使っても、なかなか起きられないときがあった。
寝坊したときに起こしていたから、昔の愛実は大きな声で俺を起こしてくれたな。今の愛実が起こしてくれたら、どんな感じになるんだろう。ちょっと気になる。
「中学になったら寝坊とかなくなったよね」
「陸上部に朝練があったからな。それで朝早い時間に起きる習慣が身についたから、陸上を辞めてからも寝坊することはなくなったな」
「そうだったんですね。偉いです。私は好きな深夜アニメをリアルタイムで観た日の翌日はたまに寝坊してしまいます。お母さんに叩き起こされることもありますね」
「ははっ、そっか。俺も遅い時間にリアルタイムで観ることがあるよ。そういうときは、目覚ましを何度もセットしたり、音量を普段よりも大きい設定にしたりして寝てるよ」
「だから、眠たそうにはしているけど、寝坊はしないよね」
「凄いですね。私もこれからそうしてみます」
あおいに効果があれば何よりだ。もし、それでも寝坊してしまうようなら、俺と愛実であおいを起こしに行けばいいか。
「今日から授業ですね。調津高校で授業を受けるのは初めてですから楽しみです!」
「ふふっ、あおいちゃんらしい。樹理先生の授業もあるもんね」
「ですね」
今日は佐藤先生担当の化学の授業がある。授業をする佐藤先生の姿を見るのもあおいは楽しみなのかも。
ちなみに、化学だけでなく、選択理科の授業で生物を選択しているので、佐藤先生の授業を毎日受けることになっている。
1年生のときはいい成績を取れたけど、そのことに油断せず、気を引き締めて授業を受けていこう。
今日は授業のある初日なので、必然的にどの授業も初回。そのため、授業を担当する先生の自己紹介だったり、一年間で勉強する内容を軽く説明したりすることで終わる教科が多い。結構楽しくて時間の進みも早い。
たまに、あおいの方をチラッと見ると、あおいはどの教科も先生の話を真剣に聞いているように見えた。自己紹介とかフランクな内容のときには笑ってもいて。教室で授業を受けるあおいの姿を見られるなんて。夢のようだ。
いつもとは少し違う授業の時間を過ごしたので、昼休みまではあっという間だった。
「お昼休みですね! 1年の頃、涼我君と愛実ちゃんはお昼ご飯はどうしていたんですか?」
「理沙ちゃんと道本君と鈴木君の5人でお昼ご飯を食べることが多かったよ」
「別のクラスだった道本と鈴木が来てね。たまに、3人が陸上部のミーティングへ行ったときは愛実と2人きりで食べていたよ」
「そうだったね、リョウ君。だから、今日からはあおいちゃんも一緒に食べませんか?」
愛実は持ち前の優しい笑顔を見せて、あおいにそう問いかける。パークランドに遊びに行ったときは6人で楽しくお昼ご飯を食べたし、当然の流れだよな。というか、あおいと一緒に食べないお昼ご飯なんて考えられない。
あおいは嬉しそうな笑顔を見せて、
「喜んで!」
と、元気良く返事した。それを受けて、愛実はニッコリと笑った。
「今年も一緒に食べましょう?」
「同じクラスになったから、1年の頃よりも早く食べられるな!」
「そうだな、鈴木」
海老名さんも鈴木も道本もお昼ご飯を持って俺達のところにやってくる。そのことにあおいはより嬉しそうな様子に。
「6人で一緒に食べましょう!」
あおいのその言葉に、俺達5人はしっかりと首肯した。
その後、俺と愛実、あおいの席を中心に、許可をもらって周辺の座席をくっつけ、6人で向かい合う形で座る。ちなみに、俺の正面は海老名さんで、左隣が愛実、左斜め前にあおいという席順だ。
「それではいただきますっ!」
『いただきます』
あおいの号令で、俺達は初めて2年の教室でお昼ご飯を食べ始める。あおいや愛実達と楽しく話しながら。
今日は母さんの作ってくれたお弁当だ。玉子焼きやミートボール、唐揚げ、きんぴらごぼうなど王道のおかずがいっぱい入っている。どのおかずも慣れ親しんだ味だけど、今日が一番美味しく感じられる。
きっと、これからの昼休みはこれが定番となるだろう。あおいや愛実達の笑顔を見ながらそう思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます