第12話『佐藤先生との遭遇』
4月9日、土曜日。
2年生の学校生活が始まってから初めての週末だ。ただ、授業はまだ始まっておらず、一昨日はあおいや愛実達と一緒に東京パークランドに遊びに行ったので、春休みの延長という感覚がある。
「あっ、今日入荷されていた同人誌ありました!」
「良かったね、あおいちゃん」
「良かったな」
午前11時過ぎ。
俺は愛実とあおいと一緒にレモンブックスに来ている。
今日はバイトもないし、元々はラノベを読んだり、週明けの授業の予習をしたりして家で過ごそうかと思っていた。ただ、
『これから、アニメイクとレモンブックスに行きます。もし良ければ、お二人も一緒に行きませんか?』
と、あおいから3人のグループトークにお誘いのメッセージが来たのだ。好きなラノベシリーズの新刊が今日あたりに発売されるのを思い出したので、あおいの誘いに乗ることにした。一緒に行く返信をした直後、愛実からも行くとメッセージが届き、3人で行くことになったのだ。お昼も一緒に食べる予定である。
あおいは今日発売の漫画と、今日入荷予定の同人誌を買いたかったとのこと。
俺も買いたいラノベシリーズの新刊があると伝えると、あおいの判断でまずはアニメイクに。俺の目当てのラノベもあおいの目当ての漫画を購入することができた。愛実は以前、アニメイクに来たときにあおいにオススメしたBLのラノベを購入した。
目当ての本やオススメの本が買えていい気分の中でレモンブックスに行き、今に至るというわけだ。
「午前中ですから店頭にあるかどうか心配でしたが、あって嬉しいです!」
「その気持ち分かるなぁ。商業誌とかCDだけど、入荷日の午前中だとまだ店頭に置いてないことがあるし」
「それで買えないときの徒労感って凄いよね」
「買えなかった経験があるので、愛実ちゃんの言うこと分かります」
愛実の言葉に俺は深く頷く。買いたいものがまだ店頭にないとがっかりするし、疲れもどっと襲ってくる。
「私、レジでお会計してきますね」
「分かった。俺達はどうする?」
「私は特に買いたいものもないし、入口近くで待とうかなって思ってる」
「じゃあ、俺もそうしよう。……あおい、愛実と一緒に入口近くで待ってるよ」
「分かりました」
俺と愛実はあおいと一旦別れて、入口近くまで向かう。
入口の近くに到着し、他のお客さんの邪魔にならないような場所であおいを待つことに。また、ここからはレジが見え、あおいは……レジの列に並んでいる。
「おやおやおや。涼我君と愛実ちゃんじゃないか」
……この声は。
声がした方に視線を向けると、2階へ行ける階段の暖簾を開いた佐藤先生の姿が。ロングスカートに長袖のVネックシャツというラフな格好だ。俺達と目が合うと、先生は微笑みながら手を振ってこちらにやってきた。そんな先生に愛実と俺は軽く頭を下げた。
「こんにちは、佐藤先生」
「樹理先生、こんにちは。お買い物ですか?」
「うん。今日入荷されたお目当ての一般向けと成人向けの同人誌があってね。成人向けの同人誌を買ってきたところだよ」
ほら、とレモンブックスの黒いレジ袋を見せてくる。目的のものを買えたからか、佐藤先生は嬉しそうな笑顔だ。買い物を済ませて、大人なフロアから降臨なさったところだったのか。
「君達もここに買い物に来たのかい?」
「はい。あおいちゃんも一緒で。今はレジに行っています」
「あおいが今日入荷の同人誌を買うのが主な目的です」
「なるほどね」
再びあおいの方を見ると、あおいは購入した同人誌が入っていると思われる黒いレジ袋を店員さんから受け取るところだった。あおいはこちらを向くと、佐藤先生がいるのに気づいたのかぱあっと明るい笑顔に。軽く頭を下げて俺達のところにやってきた。
「こんにちは、樹理先生!」
「こんにちは。2人と一緒に同人誌を買いに来たんだってね」
「ええ! 今日入荷したばかりのBLの同人誌を。涼我君と愛実ちゃんの話や自己紹介の通り、週末にはレモンブックスに来るんですね」
「ああ。私も今日入荷したBL同人誌を買ったんだよ。一般向けも成人向けもね。成人向けの方はGLも買ったよ」
「そうだったんですね。ちなみに、私はこの同人誌を買いました」
そう言い、あおいはレジ袋から、購入した同人誌の表紙を少しだけ見せる。
「おっ、それかい! 私も買ったよ」
「そうなんですね!」
さっき、目的の同人誌を手に取ったときよりも、あおいはキラキラとした笑顔になっている。
「あおいちゃんとは好みが合うね」
「ですね。樹理先生の家に行って、どんな本や同人誌があるのか知りたいくらいです!」
「あおいちゃん達なら来てもかまわないよ」
「いいんですか!」
「ああ。君達さえ良ければ」
「ぜひ! お二人はどうですか?」
「私はかまわないよ。目的のお店にも行ったし。リョウ君は?」
「俺もかまわないよ」
「分かりました。では、3人でお邪魔します!」
「了解。じゃあ、さっそく行こうか。レモンブックスからだと、私の家があるマンションまで7、8分で行けるよ」
俺達4人はレモンブックスを出て、佐藤先生の自宅に向かって歩き出す。
土曜日のお昼前の時間帯だから、性別や年齢問わず様々な人が行き交っている。今日も調津駅周辺は賑わっているな。
また、あおいと愛実だけでなく、スタイル抜群でクールな雰囲気の佐藤先生もいるから、男女問わず多くの人から視線を向けられる。ただ、俺がいるからか、話しかけたり、絡んできたりする人はいない。
「樹理先生の家、楽しみですっ。涼我君と愛実ちゃんは先生の家に行ったことってあるんですか?」
「何回もあるよ。ね、リョウ君」
「ああ。今日みたいに休日に会ったときや、同人誌即売会で代理購入した帰りに。代理購入のお礼がしたいって言われて後日行ったこともあったな」
「そうなんですね。オタク友達な繋がりもあると言っていただけのことはありますね」
あおいは納得した様子でそう言った。
その後はあおいと佐藤先生を中心に同人誌のことについて語りながら、先生の自宅があるマンションに向かって歩いていく。同人誌のことだから、あおいと先生はかなり楽しそうに話している。
「ここだよ」
レモンブックスを出発してから10分弱。佐藤先生の自宅があるマンション『ヴィラ・チョウツ』の入口前に到着した。
「立派なマンションですね! 淡いグレーの外観が素敵です」
「ありがとう。このマンションは20階建てで、私の自宅は10階にあるよ」
「そうなんですね!」
「じゃあ、行こうか」
エントランスにはオートロックの入口がある。佐藤先生が鍵を挿したことで、マンションの入口が開く。一軒家に住んでいるので、こういうのを見るとちょっと興奮する。
マンションの中に入り、入口近くにあるエレベーターで俺達は佐藤先生の自宅がある10階まで向かう。
10階に到着し、静かな雰囲気のマンションの廊下を歩く。初めて来たからか、あおいはマンションの中をよく見ている。可愛いな。そんなあおいを見ると、始業式の日の放課後に学校を案内したときのことを思い出す。
「ここが私の家だよ」
佐藤先生は自宅の玄関前に立ち止まる。扉の側にある銀色のネームプレートには『1003 佐藤』と描かれている。いよいよ先生の自宅に入れるからか、あおいはとてもワクワクとした様子に。
佐藤先生は玄関の鍵を解錠し、扉をゆっくりと開けた。
「さあ、どうぞ」
『お邪魔します』
俺達3人は佐藤先生の自宅に入るのであった。
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