第9話『帰る場所』
「おかえりなさい! 足元にお気をつけください」
俺達の乗るゴンドラは地上に戻り、女性のスタッフさんによって扉を開けられる。そういえば、ジェットコースターとかいくつかのアトラクションで、スタッフさんから「おかえりなさい!」って言われたな。
海老名さん、道本、鈴木、愛実、俺、あおいの順番でゴンドラから降りた。小さい頃、あおいは麻美さんに手を引かれながら降りていたっけ。ちなみに、今は誰の手も借りずに降りていた。
「観覧車楽しかったぜっ!」
「楽しかったな。いい景色を見られたし、写真も撮ったから」
「ほんと、たくさん撮ったわよね」
「降りる直前まで撮影会だったもんね。私も楽しかったな」
「俺も楽しかったよ。最初、男3人で座ってキツいことが分かったときにはどうなるかと思ったけど」
俺がそう言うと、5人は声に出して楽しそうに笑う。
最初に予想外のことはあったけど、結果的には良かったのかなと思う。あおいと愛実に挟まれる形で座ったことで、楽しいだけじゃなくて懐かしい気持ちにも浸れたから。
「みなさんが楽しんでくれてとても嬉しいです! 私も楽しかったです! それと、久しぶりに涼我君と一緒に乗ることができて嬉しかったです」
「俺も嬉しかったよ」
あおいとまたパークランドに来られて、楽しい時間を過ごせるとは思っていなかったから。
あおいは俺の目を見てニッコリと笑う。
「それは良かったです。では、観覧車にも乗りましたし、そろそろ帰りましょうか」
「そうだな。今日はみんなと遊べて楽しかったぜ! 桐山とも仲良くなれたしな!」
「俺も楽しかった。ありがとう。明日からまた部活を頑張れそうだ」
「いい休日になったわ。あたしも明日から部活を頑張れそう。3人で今日のことを考えて、愛実とあおいと麻丘君を誘って良かったわ」
海老名さんがそう言うと、道本と鈴木は爽やかな笑みを浮かべながら頷いた。この3人がパークランドへ遊びに行こうって提案してくれたから、今日はとても楽しい時間を過ごすことができた。
「今日は誘ってくれてありがとう。凄く楽しかったよ。パークランドは思い出の場所だから、懐かしい気持ちにもなれた」
「私も楽しかったよ。ありがとう。今年もお休みの日にはみんなで遊びに行きたいね」
「行きたいですね、愛実さん。今日は誘ってくれてありがとうございました! みなさんとより仲が深められて、これからの調津高校での学校生活がより楽しみになりました!」
あおいは持ち前の明るい笑顔でそう言った。
これからの学校生活が楽しみ……か。元から通っている人間として嬉しくなる。あおいと同じクラスになったし、勉強のことや日々の学校生活をサポートしていけたらと思う。
俺達は観覧車乗り場を後にして、入園ゲートに向かう。
ただ、ゲート近くの近くに売店があったので立ち寄った。そこで、俺、あおい。愛実、海老名さんは同じデザインの4色ボールペン、道本はキャンディー、鈴木はクッキーを購入した。
東京パークランドを後にして、ゴンドラに乗って最寄り駅の清王パークランド駅の前まで向かう。日の入りの時間帯だったため、行くときとは違って、パークランドと周辺地域の夜景を楽しむことができた。
清王パークランド駅からは清王線に乗って、それぞれの家の最寄り駅の調津駅を目指す。
帰宅ラッシュにぶつかったため、朝に比べるとかなり混んでいた。ただ、快速列車で6分しか乗らないし、パークランドでたっぷり楽しんだ後なので、全然苦にはならなかった。
途中、電車の揺れであおいや愛実と体が触れてしまうこともあったけど、2人とも嫌な様子は見せず、むしろちょっと嬉しそうにも見えた。
「みんなまた明日な!」
調津駅に到着したため、家の最寄り駅が違う鈴木とはここでお別れ。俺、あおい、愛実、道本、海老名さんは調津駅で下車する。
調津駅は全ての運行形態が停車する駅だし、複数の路線が乗り入れる駅でもある。帰宅ラッシュの時間でもあるため、調津駅で下車する人は結構多い。俺達は人の波に従って、改札口へ向かった。
今朝、鈴木以外とはこの改札口前で待ち合わせをした。パークランドで楽しい時間を過ごしたから、そのときのことが遠い昔のことのように思える。
中央口から外に出ると、空はすっかりと暗くなっていた。もう午後6時半を過ぎているからなぁ。
「3人ともまたな」
「またね。明日、学校で」
調津駅を出たところで、道本と海老名さんと別れる。
俺は愛実とあおいと一緒に自宅に向かって歩き始める。
周りを見ると、スーツ姿の人やフォーマルな服装をした人、制服姿の学生も結構見受けられる。この時間だと仕事終わりや部活終わりの人が多いのだろう。こういう風景を見ると、今日は平日なのだと実感する。
かなり暗いから、あおいと愛実のことをちゃんと家まで送らないと。まあ、俺の自宅の両隣だけど。
「夕暮れの駅前の景色は新鮮でいいですね。幼稚園の頃はもちろんですが、春休みに戻ってきてからもここまで暗くなってから駅前を歩くことはありませんでしたから。ちょっとワクワクします」
「その気持ち分かるなぁ。暗くなってから歩くのはそこまで多くないし。いつもと少し違った時間を過ごしている感じがして楽しいよね」
「そうですね!」
あおいと愛実は楽しく笑い合い、寄り添いながら歩いている。微笑ましい光景だ。どうやら、今日のパークランドを通じて2人の仲はより良くなったようだ。
「俺は夜までバイトする日があるから、暗くなってからの街を歩くのは慣れているけど……今はパークランドの帰りで、普段とは違った時間だから楽しいよ。パークランドでも楽しい時間を過ごせたし」
「そうですか。私もパークランドで楽しい時間を過ごせました!」
「私もっ」
あおいと愛実はニッコリと可愛い笑顔を俺に向けてくれる。今日一日、2人のこういった笑顔をたくさん見ることができた。それがとても嬉しい。
「こうして、友達と一日遊ぶと、帰りは寂しい気持ちになることが多いんです。今も寂しい気持ちはありますが、これまでよりも小さくて。きっと、それは……涼我君と愛実ちゃんとは、会おうと思えばいつでもすぐに会えるところに帰る場所があるからなのかなって」
「あおいちゃんの言うこと分かる。私も寂しくなるなぁ。友達と別れると、楽しかった時間が遠くに行っちゃう感覚になって。でも、リョウ君と一緒に遊んだときは、家が隣同士だから寂しさが少し和らぐんだよね」
「帰ってからも、窓を開ければ部屋から直接会えるもんな」
俺がそう言うと、愛実は優しい笑顔で頷いてくれる。
これまで、遊びから帰ってきても寂しいと思うことはあまりなかった。それは隣に住んでいる愛実のおかげなのかもしれない。帰った後、互いの部屋の窓を開けて遊んだときのことを話すこともあったし。
「それに、涼我君とは10年間離ればなれでしたからね。いつでも会える環境なのが嬉しいんです」
「なるほどな。これまでも、あおいの帰る場所が隣なのが嬉しいと思っていたよ。もちろん、愛実もな」
「そうですかっ」
「私も嬉しいよ、リョウ君」
そう言って、俺に向けてくれるあおいと愛実の笑顔は、暗くなった今でもとても輝いて見えて。
家に到着する直前まで、俺達は今日のパークランドでのことを語り合った。とても楽しいから、一瞬とも思えるような短い時間だった。
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