第2章
プロローグ『2年生の始まり』
第2章
4月6日、水曜日。
今日から、高校2年生としての日々がスタートする。
自室で持ち物の最終チェックをしていると、東側の窓から春の日差しが差し込んでいるのが見えた。窓を開けて空を見上げると、雲一つない青い空が広がっていて。高校2年生の1年間がとてもいいものになりそうな気がした。
「おはよう、リョウ君」
愛実の声が聞こえたので、愛実の家の方に顔を向ける。その方向には、自分の部屋の窓からこちらを見ている制服姿の愛実がいた。紺色のジャケットに、ストライプ柄の赤いリボンがよく似合っている。ちなみに、今は見えていないけどスカートは灰色だ。
俺と目が合うと、愛実はニッコリと笑って小さく手を振った。俺も愛実に手を振る。
「おはよう、愛実」
「おはよう。窓を開ける音が聞こえたから、リョウ君とお話しできるかなと思って」
「ははっ、そっか」
朝、学校の準備をする中で、こうして窓を開けて愛実と話すことは結構ある。話が盛り上がってしまい、時間ギリギリに家を出発することもあるけど。
「今日から高校2年生だね。今年度もよろしくね、リョウ君」
「ああ。今年度もよろしくな、愛実」
新年度らしい挨拶をすると、愛実はいつもの優しい笑顔を見せ、「ふふっ」と可愛らしい声で笑う。そんな愛実につられて、俺も声に出して笑った。愛実とこうして笑い合っていると、ほのぼのとした気持ちになる。
「そういえばさ、リョウ君」
「うん?」
「制服に着替えているとき、あおいちゃんの制服姿がどんな感じだろうって楽しみになったよ」
「そっか。俺もあおいの調津高校の制服姿が楽しみだなぁ」
春休み中に引っ越してきたので、調津高校の制服を着たあおいの姿はまだ見たことがない。これまで、あおいの制服姿を見たのは、あおいのスマホに入っている写真に写る前に通っていた高校の制服姿だけ。
あおいと愛実と3人で一緒に登校する約束をしている。だから、もうすぐ調津高校の制服を着たあおいの姿を見られる。楽しみだ。
「楽しみだよね。じゃあ、また後で」
「ああ。また後で会おう」
再度、愛実と手を振って、俺は部屋の窓を閉めた。
服装や髪が乱れていないことや忘れ物もないことを確認し、俺は自分の部屋を出る。
1階に降りて、リビングにいる母さんに声を掛ける。
「母さん、いってきます」
「いってらっしゃい。愛実ちゃんやあおいちゃん達と同じクラスになれるといいわね」
「ああ」
調津高校は1学年8クラスある。2年ではまだ文系理系で分かれないので、同じクラスになれる確率は低いけど……愛実とは「今年も一緒になりそうだな」という思いが自然と湧く。これまで10年連続で同じクラスだからだろうか。
再び「いってきます」と言い、俺は家を出発する。
以前、駅周辺のお店に行ったときと同じように、あおいと愛実とは俺の家の前で待ち合わせすることになっている。今は……誰もいないか。
「あっ、リョウ君」
俺が玄関を出た直後に、愛実も自宅から出てきた。ニッコリと手を振りながら俺のすぐ側までやってくる。
3月までは、愛実と会えたら学校へ行くのが普通だった。ただ、今日からはあおいと3人で学校に行くのだ。今日が初めてなのもあり、こうしてあおいを待つのも楽しいと思える。
「今日は晴れて良かったね。2年生の1年間がいいものになりそうな気がする」
「俺もさっき、窓を開けたときに思ったな。まあ、あおいがいるから、去年よりは確実に楽しい1年になるだろうな」
「そうだねっ」
愛実は可愛い笑顔でそう返事する。高校2年の1年間がどんな1年になるか楽しみだな。
「涼我君! 愛実ちゃん!」
俺達の名前を呼ぶ、あおいの元気な声が聞こえた。
あおいの自宅の方を見ると……玄関前に調津高校の制服を着たあおいが立っていた。持ち前の明るい笑顔で、大きく手を振りながら俺達のところにやってくる。
「おはようございます!」
「おはよう、あおい」
「おはよう、あおいちゃん。うちの高校の制服を着たあおいちゃんも可愛いね!」
「可愛いよな。よく似合っているよ、あおい」
「ありがとうございますっ!」
えへへっ、とあおいは嬉しそうに笑う。その笑顔も相まって、さらに可愛らしくなる。調津高校に行ったら、さっそく注目の的になりそうな気がする。
「アルバムでも制服姿は見ていましたが、こうして生で見ると、お二人は制服姿がよく似合っていると改めて思います」
「ありがとう、あおい」
「ありがとう。……ねえ、あおいちゃん。制服姿がとても似合っているし、写真を撮ってもいいかな?」
「もちろんいいですよ!」
「ありがとう!」
それから少しの間、愛実のスマホで制服姿の写真撮影会に。
あおいの制服姿はもちろんのこと、あおいと愛実、あおいと俺のツーショット、俺達3人の自撮り写真も撮影した。それらの写真は俺達のグループトークのアルバムにアップされた。写真に写る2人も可愛いと思いつつ、制服姿の写真を自分のスマホに保存した。
写真撮影が終わって、俺達は調津高校に向かって歩き始める。自宅からだと6、7分ほどの道のりだ。
この1年間で歩き慣れた道を歩いているけど、あおいが一緒だから新鮮に感じる。そんなあおいはニッコニコで歩いている。あおいを見ていると、こっちまで気分が良くなってくるなぁ。
「あおい、凄く楽しそうだな」
「涼我君と愛実ちゃんと初めての登校ですからね! それに、みんなと一緒に学校生活を送れると思うと楽しみで仕方なくて」
「ははっ、そっか。俺も楽しみだよ」
「私も楽しみだよ、あおいちゃん!」
「そう言ってくれて嬉しいです」
そう言うと、あおいの笑顔は嬉しそうなものに変わり、愛実に寄り添う形に。
京都から転校してきて、あおいは寂しさや不安があるかなぁ……と思っていたけど、この様子ならとりあえずは大丈夫そうか。ただ、隣に住む幼馴染として、これからもあおいのことは気にかけていこう。
「あと、涼我君と愛実ちゃんと一緒のクラスになれるかどうかがずっと気になっています」
「毎年度最初の大きなイベントだよね。クラス分け発表って」
「ですよね。お花見に参加したメンバーと鈴木君とみんな同じクラスになれたら嬉しいのですが」
「そうなったら最高だよな」
「そうだね。絶対に楽しい一年になると思う」
愛実のその言葉に俺とあおいは深く頷く。
「みなさん全員と同じクラスになりたいですね。それが難しくても、5人のうちの誰か1人とでも同じクラスになりたいです」
あおいは静かな口調でそう言った。幼馴染や友人のうちの1人でも同じクラスだと、安心感や心強さがあるもんな。あおいと同じクラスになりたいのが第一だけど、あおいの希望通りのクラス分けになっていることを願おう。
それからも3人で談笑しながら歩いていると、あっという間に調津高校の校門前まで辿り着いた。
校門を通ると、屋外の掲示板の前に多くの生徒が集まっているのが見える。いつにない光景だ。あの掲示板にクラス分けのポスターが貼られているのかな。ざわざわしているのでそんな気がする。
俺達は屋外掲示板の前まで向かう。
生徒がたくさんいるので掲示板は見えにくいが……『2年1組』とか『2年2組』と書かれた紙が貼られているため、新しいクラス分けをここで知るようだ。
「ここでクラス分け発表をしているみたいですね」
「そうだね。2年1組から順番に見ていこうか」
「ああ、そうしよう」
俺達は掲示板前にいる生徒達の集団の中に入り、掲示板に貼られているポスターがよく見える場所まで何とか辿り着いた。
向かって一番左端に貼ってある2年1組の生徒氏名が書かれているポスターを見ていく。
ちなみに、調津高校での出席番号は男女混合の五十音順だ。だから、1組に『麻丘涼我』の名前がないことはすぐに分かった。
ただ、重要なのは「俺がどのクラスなのか」だけではない。あおいや愛実達がどのクラスなのかも重要だ。だから、俺の名前がない1組の名簿を見ていく。
海老名さんの名前も、愛実、あおいの名前もない。鈴木や道本の名前も1組の名簿には書かれていない。
「みんな、1組に名前はなかったな」
「そうですね。ちょっとほっとしています」
「私も。じゃあ、次は2組の名簿を見ていこうか」
俺達は少し右にずれて、2組のポスターを見ていく。
「……あったよ、俺の名前」
2組の名簿の一番上に『麻丘涼我』の名前が書かれていた。今年も出席番号は1番か。ちなみに、学校生活11年のうち、出席番号が1番じゃなかったのは1、2回しかない。
「涼我君は2組なんですね! それなら私も2組がいいです!」
「わ、私も2組がいいな。10年連続で同じだから、リョウ君が教室にいないと何だか不安だもん」
そう言い、あおいと愛実は食い入るようにして2組のポスターを見ている。
誰と同じクラスになったのか気になるから、俺も見ていこう。上から順番に見ていくと、
『海老名理沙』
海老名さんの名前を見つけた。
「おっ、海老名さんと一緒か。2年連続だ」
まずは1人、友達が同じクラスになったと分かった。これだけでも安心感が。
「いいなぁ、理沙ちゃん」
「そうですね。でも、まだ『え』ですよ。私達も同じクラスの可能性はありますよ!」
「そうだね! この下も見ていこう!」
今は『え』の名字まで見ている。あおいと愛実と同じクラスだったら、もうすぐ2人の名前が登場するはずだ。そう思って、引き続き名簿を見ていくと、
『香川愛実
桐山あおい』
と、2人の名前が連続で書かれていた。
「愛実ちゃん! 私達の名前がありましたよ!」
「そうだね、あおいちゃん!」
あおいと愛実は互いの顔を見つめ合いながら、とても嬉しそうに言った。言葉だけでは収まらないのか、あおいは愛実のことをぎゅっと抱きしめる。抱きしめられて嬉しかったのか、愛実はすぐに両手をあおいの背中に回す。微笑ましい光景だ。
「あおいとも愛実とも同じクラスになれて良かったよ」
「はいっ! 涼我君とクラスメイトになれるなんて夢のようです!」
「今年もリョウ君と同じクラスになれて嬉しいよ!」
あおいと愛実はとびっきりの笑顔を俺に向けてくれる。
あおいは小学校入学直前に引っ越したから、クラスメイトになれるのが夢のようだと言う気持ちは分かるなぁ。あおいと同じ学校に通い、クラスメイトになる日が来るなんて。
愛実とはこれで11年連続で同じクラスか。嬉しいのはもちろんだけど、今年も愛実と同じ教室で学校生活を送ることができることに安心感も抱く。
「2人とも、これからはクラスメイトとしてもよろしくな」
「はいっ!」
「うんっ!」
2人に両手を差し出すと、あおいとは右手で、愛実とは左手で握手をする形に。そんな2人の手はとても温かく感じられた。
その後も2組の名簿を見ていき、『鈴木力弥』と『道本翔太』の名前も書かれていた。今年はかなり楽しい1年になりそうだ。
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