第9話『セーラー服を着てみたい』

「これで、写真が貼られているページは最後ですね」


 アルバムもついに最後。

 写真が貼られている最後のページには、高校の入学式から最近までの写真が貼られている。入学式、文化祭、体育祭。学校以外でも、愛実達と遊びに行ったときの写真や愛実が撮影したバイト中の俺の写真も。高校に入学してからまだ1年だけど、色々なことがあったと分かる。

 高校生としての日々は残り2年ある。今後、このアルバムにはどのくらいの写真が貼られていくのだろう。あおいが調津に戻ってきたから、いっぱい貼られる可能性もありそうだ。


「高校に入学してからの写真ですか。楽しそうな写真が多いです」

「文化祭とか体育祭とか楽しかったよ。な、愛実」

「うんっ。高1は楽しい1年間だったよね。学校生活はもちろん、お休みの日は友達と遊びに行くこともあったし。ただ、2年生になってからはあおいちゃんも一緒に通うから、今まで以上に楽しい学校生活になりそうだね」

「そうだな、愛実。楽しみだよ」

「そう言ってくれて嬉しいです。涼我君と愛実ちゃんが通っている高校ですから、私も2年生からの高校生活が楽しみです!」


 あおいは明るい笑顔で元気良くそう言った。愛実と体を寄り添わせて、楽しく笑い合っている。

 あおいが調津に戻ってきたから、4月からの高校生活が本当に楽しみだ。きっと、このページ以降のアルバムには、あおいと一緒に写る写真がたくさん貼られていくのだろう。


「今日の午前中に調津高校に挨拶しに行って、制服を受け取りました」

「そうなんだね。ちなみに、前通っていた高校の制服ってどんな感じの制服なの?」

「俺も興味あるな」

「明るい茶色のセーラー服です。写真がスマホにありますので、ちょっと待っててくださいね」


 そう言うと、あおいはローテーブルに置いてある自分のスマホを手に取る。

 あおいの制服姿……どんな感じか楽しみだな。しかも、セーラー服だし。うちの地域にある中学校や高校の制服はブレザーばかりだから。


「ありました」


 そう言い、あおいは愛実に自分のスマホを渡す。俺と一緒に見るためか、あおいと愛実は座る場所を入れ替わる。

 俺の隣に来た愛実はあおいのスマホを俺に見せてくる。スマホの画面には、友人と思われる女子2人と一緒に、笑顔でピースサインをする茶色のセーラー服を着たあおいが映っていた。


「セーラー服姿のあおいちゃん可愛いね! 似合ってる!」

「可愛いよな」

「ありがとうございます! 2人にそう言ってもらえて嬉しいです」


 あおいは言葉通りの嬉しそうな笑顔を見せる。その笑顔は写真のあおいと同じくらいに可愛くて。


「一緒に写っているのは前の高校のお友達?」

「そうです。その2人は同じクラスだった特に仲のいい友人です。引っ越しが決まってから、2人の奢りで京都のスイーツをたくさん食べましたね。美味しかったなぁ……」


 そのときのことを思い出しているのだろうか。あおいの笑顔が楽しそうなものに変わって。ただ、ちょっと寂しげな様子も見られて。東京に引っ越して俺と再会したってことは、京都にいる友人達とは離ればなれになったってことだもんな。


「素敵なお友達だね、あおいちゃん」

「はいっ」

「……あと、セーラー服いいなぁ。中学も高校も制服はブレザーだから、セーラー服にちょっと憧れてて」

「ふふっ、そうですか。この制服で良ければ、私のを着てみますか?」

「えっ、いいの?」


 愛実の表情がぱあっと明るくなる。


「もちろんです。今日も着たので私の匂いがついていると思いますが、それで良ければ」

「全然気にしないよ。むしろ、あおいちゃんの匂いっていいなって思うし」

「ふふっ、そうですか。では、制服を取りに行ってきますね」

「うん、お願いしますっ! いってらっしゃい!」


 愛実は嬉しそうな様子でそう言った。あおいが引っ越してきてから、一番元気のいい声に思えた。

 あおいは俺達に小さく手を振って、俺の部屋を一旦出て行った。


「セーラー服、楽しみだなぁ」

「俺も愛実のセーラー服姿楽しみだよ」

「そうなんだ。リョウ君に似合っているって思われるといいな」

「さっきの写真を見た感じだと、愛実にも似合いそうな気がしたけど」

「そう? ……その予想が当たるといいな」


 愛実は楽しそうに言った。愛実は可愛らしい顔立ちをしているし、あおいの前の高校のセーラー服はよく似合うと思う。

 それから数分ほどで、あおいは前に通っていた高校の制服が入った白い紙袋を持って部屋に戻ってきた。

 紙袋から制服を取り出し、実物を目の当たりにしたとき、愛実は目を輝かせていた。それがとても可愛くて。

 愛実がセーラー服に着替えるため、俺とあおいは廊下に出て待つことに。


「愛実ちゃんのセーラー服姿楽しみですね!」

「そうだな。これまで、愛実のセーラー服姿を見たことないし」

「ふふっ。愛実ちゃんは可愛い雰囲気の子ですから、きっと似合うと思います」

「それは俺も思った」


 実物を見て、その思いがさらに膨らんだ。


『着終わったよ。入ってきていいよ』


 中から愛実のそんな声が聞こえた。いよいよ、愛実のセーラー服姿を見られるんだ。

 あおいをチラッと見ると、あおいはニッコリと笑って俺に頷いた。

 俺は部屋の扉をゆっくりと開ける。

 部屋の中には、あおいが持ってきた制服を着る愛実の姿が。初めてのセーラー服の制服だからか、愛実はとても嬉しそうだ。こんなに嬉しそうな愛実の笑顔を見られて俺も嬉しい気持ちになる。


「どうかな? リョウ君、あおいちゃん」

「凄く似合っているよ。可愛いね、愛実」

「とても良く似合っています! 可愛いですよ、愛実ちゃん!」

「ありがとう! そう言ってもらえて嬉しいよ」


 えへへっ、と声に出して笑う愛実。そのことで愛実の可愛らしさが増した気がする。


「愛実ちゃん、とても楽しみにしていましたから、私の制服を着られて安心しました」

「何とか着られたよ。む、胸がキツいけど」

「……そ、そうですか」


 あおいは依然として笑顔を見せているけど、その笑顔には少し陰りが。目の輝きもなくなっているような。


「……ちなみに、愛実ちゃんの胸のサイズってどのくらいなのですか? かなりの大きさだと思うのですが。制服越しでも結構な存在感を放っていますし。さっきまで縦ニットを着ていたときは凄かったです」

「え、えっと……」


 俺のいる前で胸の大きさを訊かれたからか、愛実の顔が見る見るうちに赤くなっていく。

 胸のことが話題になったので、自然と愛実の胸を見てしまう。制服の胸部がピチピチになっているな。これだと確かにキツそうだ。


「……あおいちゃん。こっち来て」


 愛実はそう言うと、あおいに手招きする。あおいはそれに従って愛実の近くまで行く。

 愛実はあおいに何やら耳打ちしている。おそらく、自分の胸のサイズを教えているのだろう。男の俺に聞かれると恥ずかしいから耳打――。


「エフゥ!?」


 あおいの絶叫が、愛実の行動を一瞬で無駄にした!


「も、もうっ! あおいちゃんっ!」


 愛実は語気を強めにしてそう言うと、右手であおいの口と鼻を塞いだ。そんな愛実の顔はさらに赤みを増しており、怒りの表情が浮かんでいる。怒っている愛実を見るのは久しぶりだ。

 愛実があおいの口を塞いだけどもう遅い。愛実がエフゥ……Fカップだと知ってしまった。俺も結構大きいと思っていたけど……そうですか。Fカップですか。


「んんっ!」


 と唸りながら、あおいは自分の口と鼻を塞いでいる愛実の右手を叩く。呼吸する場所が塞がれて息苦しいのか。あおいの顔色がさっきより悪くなっているし。愛実もそれに気付いたようで、慌てて顔から手を離した。


「はあっ……はあっ……ご、ごめんなさい。愛実ちゃんのサイズを聞いたら……驚いてしまって。前の学校では、私の周りに愛実ちゃんほどの胸の大きさの子は全然いませんでしたし。つい大きな声が出てしまいました」

「……もう、あおいちゃんったら。あおいちゃんもリョウ君も、私が胸のサイズを言いふらさないでよ。恥ずかしいから……」

「もちろんです」

「心に留めておくよ」


 胸とか関係なく愛実が嫌がったり、恥ずかしがったりすることはしたくないし。


「ただ、愛実ちゃんだけが胸のサイズを知られてしまっては不公平ですね。……涼我君」

「な、何だ?」

「私の胸のサイズはDカップですっ!」


 さっきの絶叫ほどではないけど、あおいは大きな声で胸のサイズを言い、俺に向かって胸を張る。そんな彼女の頬はほんのりと紅潮していて。不公平だからと自ら胸のサイズを明かすとは。変なところで真面目というか。


「そ、そうか。Dか」


 どう反応すればいいのか迷ったけど、とりあえず言われたことを復唱した。その直後に愛実が「Dなんだ……」と呟き、あおいの胸をまじまじと見ていた。

 俺としてはDカップもなかなか大きいと思うけどな。ブラウス越しでもあおいの胸の膨らみはちゃんと分かるし。ただ、愛実に自分の制服の胸の部分がキツいと言われ、Fカップだと分かると……自分の胸が小さく思えてしまうのかも。

 愛実と同様、あおいの胸のサイズも心に留めておこう。


「愛実ちゃんの大きな胸が羨ましいです」

「ありがとう。私はあおいちゃんのスタイルの良さが羨ましいよ。実は制服のスカート……結構ギリギリで」

「そうなんですか。……特に太っているように見えませんが」

「そう言ってくれて嬉しいよ。ただ、あおいちゃんが細いからスカートがこのサイズなんだって思いたいな。あおいちゃん、くびれがしっかりあるし。昨日着ていた服では特にラインが出ていたから」

「京都の友人にもくびれのことは言われましたね。中学時代は部活でテニス、高校生になってからもバイトでお店の中を動いたりしたからでしょうか。体を動かすのは好きですし。愛実ちゃんに羨ましいと思ってもらえて嬉しいです」


 あおいはそう言うと、愛実と至近距離で見つめながら笑い合っている。

 あおいが愛実の胸のサイズを叫び、愛実が怒った様子であおいの口と鼻を塞いだときにはどうなるかと思ったけど、結果的にいい雰囲気になって良かった。あと、羨ましいと思うことをお互いに言い合えるのっていいなと思う。


「愛実。せっかくセーラー服を着たんだ。スマホで写真を撮らせてくれないか? もちろん、LIMEで愛実にも送るから」

「うんっ、お願い!」


 愛実はニッコリとした笑顔で快諾してくれる。良かった、この可愛いセーラー服姿をいつでも見られることになって。


「私にも送ってくれませんか? 愛実ちゃん、いいですか?」

「もちろんいいよ」

「じゃあ、撮った写真はLIMEの3人のグループのアルバムにアップしておくよ」

「ありがとうございます!」


 あおいは嬉しそうな笑顔でお礼を言った。

 それから、俺はセーラー服姿の愛実はもちろんのこと、あおいと愛実のツーショット写真、3人での自撮り写真も撮っていく。あおいには俺と愛実のツーショット写真、愛実には俺とあおいのツーショット写真を撮ってもらった。

 撮影した写真は約束通り、3人のグループトークのアルバムにアップする。あおいと愛実は嬉しそうな様子でスマホを眺め、2人はさっそく自分のスマホに写真を保存していた。

 アップした写真を見てみると……あおいも愛実も写真写りがいいな。どの写真にも2人は可愛らしい笑顔で写っている。この中から何枚かは、後日プリントアウトしてアルバムに貼っておこう。いい思い出になるだろうから。


「アルバムを見たら、今度は動画を観ながら思い出を語りたくなりました」

「確かに。久しぶりにホームビデオを観たいな」


 あおいと愛実はそんなことを言ってきた。あおいと再会してから2日目だし、今日はとことん思い出を振り返るのもありか。


「そうするか」


 俺がそう言うと、あおいと愛実は嬉しそうな笑みを浮かべた。

 愛実が元の服に着替え終わった後、昔のあおいやここに引っ越してきた直後の愛実が映っているホームビデオが収録されたBlu-rayを観て、思い出を語り合っていく。

 写真でも小さい頃のあおいと愛実は可愛いと思えるけど、動きや声が加わるとより可愛く感じて。

 あおいも愛実も画面に釘付けになり「可愛い」と連呼している。ただ、2人とも小さい頃の自分の姿が映ると、ちょっと照れくさそうにしているけど。そんな2人も可愛らしい。

 小さい頃の自分達の姿を見ることや思い出を語り合うのが楽しくて、Blu-rayを見終わるまであっという間に感じた。そして、気付けば外もだいぶ暗くなっていた。


「外が暗くなってきたね」

「そうですね。……もう6時過ぎですか。楽しかったのであっという間でしたね」

「そうだな」

「今日は楽しかったので、また3人で遊びたいですね。今度は外に行くとか。2人と一緒に駅周辺のお店に行ってみたいです」

「いいね、あおいちゃん」

「久しぶりに行きたいな」


 小さい頃はお互いの親達と一緒に、駅前にあるショッピングセンターやデパートに何度も買い物に行ったな。


「ただ、明日は喫茶店のバイトが日中にあるから、行くのは明後日以降になる。それでもいいか?」

「もちろんいいですよ! では、買い物は明後日にしましょうか。それで、明日は涼我君のバイトしている喫茶店に行きましょう。涼我君に接客されたいです。愛実ちゃん、一緒に行きませんか?」

「うん、行こう!」

「お二人のご来店をお待ちしております」


 店員らしく言うと、あおいは「おおっ!」と喜んだ反応を見せる。

 明日はあおいと愛実がバイト先に来てくれるのか。あおいには初めて接客するから楽しみだな。

 明日と明後日の約束もしたため、それから程なくして、あおいと愛実はそれぞれの自宅に帰っていく。といっても、それぞれ隣にあるけど。帰っていっても、2人がすぐ近くにいることがとても嬉しかった。

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