第269話 距離と心



 昨日分の更新となります。遅れてしまい申し訳ありません。よろしくお願いします。


▽▼▽▼



 リトスさんを見送ると、私達も王都に行く準備を始めた。


「レティシア」

「はい」

「……私にも、していただけませんか?」

「……あ、お化粧ですか?」


 少し恥ずかしそうに頷くレイノルト様。


「お化粧……」


 そう呟きながらレイノルト様に近付くと、困惑が生まれてしまった。


「レイノルト様はお化粧する必要が……」


 透き通るほど美しい肌に、整った顔立ち。寝不足を感じさせるくまもなければ、荒れているところは何一つみつからない。


 元の顔が良すぎるので、下手にてを加えると却って良さが失われる可能性があった。


(何かできることあるかな)


 化粧箱を覗き込みながら考えてみた。


「すみません、大変なことを頼んでしまいましたね……」


 私がすぐに始められない様子を見たからか、申し訳なさそうな声が返ってきた。


「そんなことはありません。ただ、レイノルト様の顔は整いすぎているので、これ以上何かをする必要があまりない気がしまして」

「!」


 自分で言葉にしてみると、リトスさんに対して失礼な発言をしていることに気が付き、慌てて訂正する。


「……あっ。リ、リトスさんが決して整ってないという訳ではありません! ただ、くまが酷かったので私でもどうにかできる範囲でした」

「リトスのくまは私が見ても酷いものでした。綺麗に隠してくださりありがとうございます」


 レイノルト様に誤解を与えていないことに安心すると、もう一度彼の顔を見る。


「少しだけやってみましょうか」

(元の方が良かったら洗い流してもらおう)

「ありがとうございます……! ご安心を。レティシアの腕は確かですから」

「!」


 不意に漏れでた心の声に反応されると、気合いが増した。

 

「では始めますね」


 といっても、どうしても元が良すぎるのでお肌を整えるくらいしかできなさそうだった。それでも道具を片手に、レイノルト様の顔に近付く。


「目を閉じていただけますか?」

「はい」

「……」


 リトスさんとも同じ距離で化粧を行ったにも関わらず、やはりレイノルト様相手だと緊張し始めてしまった。


(本当に綺麗な顔……)


 目を閉じていても、整った顔立ちは鮮明にわかった。その顔に自分が触れることで、崩してしまうのではないかと不安だった。


(少しだけ、本当に少しだけ頬に色をつけようかしら)


 一度離れると、化粧箱に手を伸ばす。


「……開けても大丈夫ですか?」

「あっ、はい!」


 閉じさせていたままだったことに気が付かず、慌てて返事をした。その間にも、レイノルト様がつけても違和感のない色を探していた。


(……この色かな)


 道具を手にすると、再びレイノルト様の顔に近付いた。本当に軽く、力は最小限抜いて頬に触れていく。


(横から見てもカッコいい……)


 隙のない美しさに思わず本心が漏れる。レイノルト様に聞こえていることはもはや考えずに、集中して手を動かした。


(どうだろう)


 全体図を見るために、引きでレイノルト様のお顔を確認しようとすると、意図せずレイノルト様と目が合ってしまう。嬉しそうに微笑まれたが、私が変に意識しているからか、これ以上ない程に発光しているように思えた。


(ま、眩しい……ということは……成功でいい、かな?)


 自信なさげに判断すると、レイノルト様に「終わりました」と言いながら手鏡を渡した。


「凄いですね……レティシアのおかげでかなりカッコよくなれました」

「あ、ありがとうございます」

(……レイノルト様のお顔が元から良いおかげだと)


 どう答えていいかわからず、複雑な気持ちでレイノルト様を見ていた。想定よりもかなり反応が良く、大げさに思うほど喜んでくれた。


「愛しい人に顔が良いと褒めてもらいながら、綺麗に整えてもらえるなんて、これ以上ないご褒美ですね」

「!」

「その上、レティシアを近く感じることができました。……幸せです」


 予想外の言葉に加えて破顔されると、私の心は一気にときめいて胸が高鳴った。レイノルト様の言葉は、一つ一つ丁寧で、胸の奥にまでとどくのにそう時間がかからなかった。

そして、自分が行ったことに大きな意味があったことが嬉しくて、私まで幸せな気持ちになった。


 そして感じた幸福があふれ出ると同時に、声にまで出てしまった。


「……レイノルト様」

「はい」

「大好きです」

「!!」


 あふれる気持ちは顔にまで出ており、純粋な笑顔を添えて伝えれば、レイノルト様は大きく目を見開いた。


「……それは不意打ちですね」


 そうはにかむレイノルト様は、とても可愛らしく、私の脳内に鮮明に記録されるのだった。


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