第248話 読めない思考
挨拶が終わると、お茶会の文字通りお茶を楽しむ時間とご令嬢同士で会話を楽しむ時間となった。
(今日はここからが本番ね……)
ぎゅっと手に力を入れると、お茶の準備をしに席を立った。ネイフィス様の動向も危険視しなくてはいけず、緊張感を持っているのはもちろんのこと。しかし、これからの時間はそれと同じくらい重要視するイベントといえる。
シュイナやエリンなどの大公家の侍女達に手伝ってもらいながら、緑茶の用意をしていく。緑茶自体が苦手という人もいると思うから、有名どころの紅茶も何種か用意しておいた。
お茶の準備が終わると、ご令嬢方は自由にお茶を取っていきながら、交流を楽しみ始めた。
(……あ、思ってるより緑茶が減ってる)
その様子を見ながら、私も改めてシエナ様達を始めとする仲の良い方へ話にいったりして交流を進めていた。
そして、先程の話通り、ロアンヌ様はシャーロット様と楽しく会話をしており、その話に少しだけ混ぜてもらった。なんでも初めて知ったのは二人は学園時代の先輩後輩だったのだとか。
帝国の公爵令嬢はや侯爵令嬢という、高位のご令嬢には私と同年代の方が圧倒的に多いようで、ロアンヌ様でさえシャーロット様よりも年下だった。
「年齢的に離れていることもあって、社交界はかなり億劫だったんだ。上の貴婦人かか下のご令嬢方しかいないから」
「わかりますよ、シャーロット様。私も少し気にしてしまう所がありますから」
お二人にとって、年齢問題はなかなか気になるというのが本心のようだった。
「ですが歳が上だと憧れが増しますよね」
「そうなのか?」
「あぁ……」
「はい。溢れるお姉様感というのもそうですが、やはり生きてきた年数が私達より豊富ですから。学びたいという気持ちもあいまって、憧れを抱きますよ?」
「エルノーチェ様の仰ってること、凄くわかります」
歳が離れていること、上であることは、決して悪いものではないというのをお二人に少しでも伝わるといいなと思いながら話した。
「……レティシア嬢は憧れてくれるのか?」
「もちろんです。シャーロット様の圧倒的オーラやかっこよさは、私には到底真似できないので。凄く素敵だなと思います」
「あ、ありがとう、レティシア嬢」
本気で照れるシャーロット様を見ながら、今度はロアンヌ様に視線を向けた。
「もちろん、ロアンヌ様にも憧れがあります。ロアンヌ様のお手本といえる、淑女の立ち回りは学びたいものが多いですので」
「まぁ、とても嬉しいです」
「こうやってお二人に憧れを抱いているのは、私だけではないと思いますので……是非、これからも社交界に顔を出していただければ嬉しいです」
変に気を遣う必要はないという思いを抱きながら、二人に私の考えを告げた。
「……そうだな。今日、久しぶりに参加してみたが思っていたより楽しかった」
「私も。今回のお茶会は凄く雰囲気が良いですよね。主催の手腕がとても良いのがわかります」
「そうだな。お茶も美味しいことだし、今日は来て本当によかった」
「ありがとうございます……!」
褒め言葉を返されるとは思わなかったので、頬が少し熱くなるほど嬉しくなりながら、ペコリと頭を下げた。
お二人曰く、挨拶の時点から想像していた雰囲気より柔らかく明るい空気がよかったようだ。
「レティシア嬢かミネルヴァが主催なら喜んでいくよ。後は様子見かな」
「私も。エルノーチェ様が主催ならまたお邪魔したいです」
「是非。今後もよろしくお願いいたします」
笑顔になりながら二人と話をしていると、会場内で一ヶ所不思議と人が集まっているのが見えた。
(……あれはネイフィス様。何をしているのかしら)
何故集まっているのかはわからないが、具体的な挨拶もかねてそこに行くべきだと瞬時に判断した私は、お二人に「ではお楽しみください」と残して、急ぎ向かった。
そっと近付けば、待っていたといわんばかりにネイフィス様に名前を呼ばれた。
「エルノーチェ様! とてもよいタイミングで来てくださいましたわ」
「とてもよいタイミング……何をなさってるんですか?」
柔らかな表情と声色を意識しながら尋ねれば、意外な言葉が返ってきた。
「是非、エルノーチェ様のおすすめの緑茶が知りたくて」
「え……」
まさかネイフィス様からそんなことを言われるとは思いもしなかったのて、驚いていると、何故か笑顔を浮かべ続けているネイフィス様が、続け様に声を出した。
「私は一番右にある茶葉が一番飲みやすいと思いますの。皆様。これはリーンベルク商会様から出ている茶葉のなかで、最も新しいものなんです。とてもよく考えられている味で、緑茶が苦手な方も飲めるお茶かと思いますわ」
声を出したかと思えば、突然緑茶に関して褒め始めた。
「さすがネイフィス様。緑茶に関する知識が豊富ですわ」
「確かに。ネイフィス様の仰る通り、この茶葉はとても素晴らしいですわ」
その取り巻きのご令嬢まで高評価をする状況に、疑問符が浮かんでいた。
(……どうして私が意見を多く出した茶葉をいきなり褒め始めるの?)
その意図が読めず、私は、必死に頭を回転させるのだった。
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