第214話 リリアンヌとの出会い(シエナ視点)

 


 レティシア様と世間話から重要な話を交わし終えると、私は彼女を含め招待したご令嬢方を見送った。


(ふぅ。取り敢えず一段落ついたわね)


 王国から帝国へ戻って間もなく、ガーデンパーティーを開催した。特に問題が起こることなく、無事に終えることができた。


(むしろ大きな収穫があったわ)


 この帝国にやって来たばかりのご令嬢。王弟である大公殿下が婚約者として連れてきた彼女の名前を、知らない貴族はいなかった。


 レティシア・エルノーチェ。


 でも私にとってエルノーチェはもう一人いて。それはもう、とても印象に強く残っているご令嬢が。私がどうしてレティシア様を招待することになったのか。これはもう一人に要因があると言える。

 

 招待客全員を見送り、時間ができた今、要因の本人、リリアンヌ様について再び思い出していたーー。


◆◆◆


 ある日、婚約者に連れられてセシティスタ王国に行った時のこと。たまたまパーティーでお会いしたエルノーチェ公爵令嬢と、他愛もない話をしていた。


「えっとねぇ。リリーはぁ、私の身分に釣り合ってぇ、とにかくお金を持ってる人と結婚したいかなぁ?」

「……なるほど。我が国でしたら、大公殿下がリリアンヌ様のお眼鏡にかないそうですね」

「へぇ~! どんな人なの?」

「大公殿下はーー」


 ひょんなことから、リリアンヌ様の好みの男性を聞くことになった。もちろん最も好ましいのは自国の第一王子だろうが、要するに彼女はお金と権力のある者に嫁ぎたいと言っているようなものだった。


 意味もない話だと思いながら、適当に自国の大公殿下を話題に出して、彼女との会話は終わった。


 第一印象は、なんともまぁ癖の強い御方。可能であれば、あまり積極的に関わりたくはないと思う程度のご令嬢だった。


 あれから月日は流れ、あの大公殿下が婚約者を連れて帝国帰ってきたという話を耳にした。とはいえ、それを知った頃には私は婚約者と共に再びセシティスタ王国に向かったわけだが。


 だから残念なことに、ルウェル侯爵令嬢のお茶会だけでなく、レティシア様の婚約披露会にも出席できなかったのだ。今となってはそれが悔やまれる。


 セシティスタ王国に着くと、婚約者から私に会いたい人物がいると言われた。


(リリアンヌ・エルノーチェ? ……あぁ、あの欲を全面的に出していたご令嬢ね)


 そう彼女の姿を思い出して会うと、私は自分の目を疑うことになる。


「本日はお越しいただきありがとうございます、ノースティン伯爵令嬢」

「ご招待いただきありがとうございます」


 お屋敷に招待されて足を踏み入れた先には、初めて見るご令嬢がいた。エルノーチェ公爵家には他にもご令嬢がいると聞いていたので、初めはリリアンヌ様ではない誰かかと思いながら、挨拶をしていた。


 しかし、見覚えのある髪色と聞き覚えのある声がひっかかって、酷く違和感を覚えた。そして考え抜いた末に、ボソリと声を漏らしてしまった。


「……リリアンヌ様、ですか?」

「あら。よくおわかりになりましたね。自己紹介をしようとしていたのですけれど……嬉しいものですね。なにか一つでも覚えていただいてもらったのは」

「では」

「はい。エルノーチェ公爵家次女、リリアンヌにございます。お会いするのは二度目ですね」


 そう柔らかに微笑む姿は、さながら女神のような神々しさがあった。洗練された品のある立ち振舞いは、彼女が有能であることを示すかのようで。


 驚きながら話を聞くと、リリアンヌ様には頭の弱い令嬢の姿を演じなくてはならない事情があったのだとか。


 それに加えて、彼女は次期王妃なのだという話を聞いた。これは完全なる私のリサーチ不足で、そんな方に不遜な態度を取ってしまったのではと焦りを覚えたが、幸いにも怒りを買うようなことはしていなかった。


「まだ国外には大々的な発表をしていないので。知らなくて当然のことかと」

「ご配慮いただき誠にありがとうございます」


 セシティスタ王国で色々と情勢が動いたという話だけしか耳にしておらず、こんなことなら婚約者に話を聞いておけば良かったと思った。


 しかし、それを察したリリアンヌ様が情勢が動いた具体的な話は、婚約者も今日知った話だと教えてくれた。


 どうやら国内でのごたごたが最近ようやく片付いたようで、詳細は次期に国内外ともに発表されるのだと教えてくれた。


「ということは、以前話されていた望みが叶ったということですね。おめでとうございます」

「望み……?」

「はい。第一王子にあたるエドモンド殿下と婚約なされたのですよね」


 その瞬間、リリアンヌ様の空気が止まった。驚きながら彼女を見れば、見たことない雰囲気をまといながら微笑まれた。


「ノースティン様。私の相手は彼ではありませんわ」

(か、彼……?)

「あのような方とは……是非ともお断りしたいかと」


 ふふっと品よく笑う姿には、なんともいえない黒く禍々しいオーラが含まれているのだった。


「私のお相手は、フェルクス大公家の長子、リカルドです」

「そうなのですか?」

「えぇ」


 そこから初めて、第一王子が廃嫡になった話を聞いた。この話はまだ国内でしか共有されていない情報なのだと教えてくれた。


 リリアンヌ様の自己紹介が終わると、自分も手短にすませる。そうしてなんやかんやあり、私はセシティスタ王国滞在中はリリアンヌ様の話し相手になったのだった。


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