第2話 隣に咲く花は綺麗2

 俺はある一つの決意を胸に帰宅する。キッチンに向かうと、母さんと姉ちゃんが夕食の準備をしていた。


 昔から、ウチは母さんと姉ちゃん二人で料理を作る。俺も父さんも料理が出来ず、二人がいないとインスタントラーメンくらいしか作れない。俺がまだ小学生だったころは、母さんの仕事が今より忙しく、姉ちゃんが一人で作ることが多かった。

 三つ上の姉ちゃんは、今、大学一年生。学校のあとはケーキ屋でアルバイトもしているが、バイトのない日は母さんと一緒に料理をする。身長が一七〇センチと高い二人を、俺は少し見下ろす形で後ろに立つ。


「わっ、悠太ゆうた⁉」

 振り向いた母さんがビックリして声を上げる。

「帰ってきたら『ただいま』って言ってくれなきゃビックリするじゃない」

「はいはい、ただいま」

「今言ったって遅いの!」

 と、怒る母さんとは対照的に、

「悠ちゃんおかえり」

 姉ちゃんは笑顔で俺の方に体を向ける。大学入学を機に腰まであった髪をバッサリ切って、くせ毛を気にしてかけていたストレートパーマからゆるふわなパーマに、その上明るい茶色に染め、これこそ大学デビューと言わんばかりの変わりように、半年以上経ってようやく見慣れてきた。

「アンタ、さっさと弁当箱出しちゃいなさいよ。忘れたら明日のお弁当つくれなく……」

「明日から弁当いらないから」

 そう言うと、母さんも姉ちゃんも手を止めて、目を丸くして俺を見る。

「ちょっと。お弁当要らないって……昼ごはんどうすんの」

「食堂行くか、購買で買う」

「毎日?」

「……うん」

「お金もったいないじゃない!」

「別に俺がもらった小遣いだし」

「お弁当で足りないなら菓子パン一つ買ったらいいけど、毎食毎食ってアンタ……」

 と、母さんと言い合いになっていると、姉ちゃんが「悠ちゃん」と恐る恐る呼びかける。

「お弁当、おいしくなかった? おいしくないおかずあったなら教えてほしいな」


――マズいならちゃんと言ってほしい。

 岸野の言葉がフラッシュバックする。一気に頭に血が上っていく。


「うっせぇ! 俺の好きにさせてくれてもいいじゃんか!」

「アンタねぇ! 最近態度がひどいわよ」

「俺、もう高校生なんだし、ほっといてくれよ!」

「高校生でもお母さんや、お父さん、それにお姉ちゃんいないと何もできないじゃない」

 母さんが怒鳴る横で、

「ごめんね」

 姉ちゃんは今にも消え入りそうな声で、眉を下げて笑った。そんな顔でこっち見んなよ。顔を勢いよく逸らして、罪悪感と消えない怒りを抱いたまま階段を駆け上がり、部屋に向かった。ドアを勢いよく閉めると、その場に座り込む。家族に当たったって、岸野のことは何も解決しないのに。

「あー……最悪だ」

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