第4話

右腕を伸ばした先、人差し指に蝶々がとまってはねを開いたり、閉じたりしている。

 それを少女は眺めている。

 女の子の髪は真っ黒で、長く、美しい。肌はきめ細やかで純白の絹のようだ。服は黒いふわふわのワンピース、九歳くらいだろうか。

 なにか不思議な魅力を醸し出していた。

「蝶のお姫様ってとこかな」

 信也は一人独語して、口角をあげる。

 少し近づいて十分な距離を保ちながら、

「今晩は」

 と声をかけた。

 少女はちらと、信也を見てからまた黒い蝶に目を戻した。

(え、無視?)

「なにしてるんだい?」

 その少女は信也のほうを見ずに言った。

「お母さんを待ってるの」

 待ってるのって今はもう、夜の十時を過ぎてるけど、と信也は思った。

 おかしい。

「いつから待ってるの?」

「お昼から……」

 信也は心配になった。

「いつ、お母さんは戻ってくるの?」

「わかんない」

「お父さんは?」

「いない」

 さてどうしたものか。

「お母さんは何をしに行ったか知ってる?」

「わかんない」

 さて、夜中に女の子一人はまずいよなあ、かといって家に連れ帰るのもまずいだろうな

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