第23話 狙いと後悔
「やっぱりか」
潤一は胸の前で腕をクロスさせ、ぎろりっと三波を睨んだ。
「それでお前の目的はなんだ?」
潤一は遊びに誘われたときからずっと気になっていた。
だから、それを疑問として三波に投げ掛けた。
「多分。中森潤一君が推測している通りのことが私の狙いだよ」
三波は意地悪な笑顔を作り、潤一を試す風な遊び道具にするような意味深な言葉を発した。
「なるほど。じゃあ、俺が遊びに誘われてたときから仮説を説明しよう」
「どうぞ!」
三波は全く目が笑っていない微笑を意図的に作った。
「おそらく、図書館で俺を助けたのは遊びに誘うためだ。2回も俺を助けて誘いを断れない状況を作ったんだ。そして、遊びに誘った後に自宅に誘い、夜の営みを共にする。ここまでしたら、そっちのもので、襲われたとか身体の交わりを強要されたとか警察や学校に言いふらせば俺を学校から追い出すことができると考えた。これが俺の仮説だ。違うか?」
現在、潤一の視界には三波しか存在しなかった。
周囲にある住宅や植物、地面はすべて都合の良く視界から除外されていた。
「すごーい!どうしてわかったの?」
三波はパチパチと手を叩いた。
「・・・それはお前が今田、今田俊輔と一時的に付き合っていたから。だから、お前は今田が付き合った理由を知り、俺に復讐しようとした。俺さえいなければ、今田に捨てられることは決して無かったから」
9月の風が吹き、潤一の髪をやんわりと刺激した。
「そうよ。そうよ!!」
三波は空気を引き裂くように叫び、目を血走らせながら、潤一を軽蔑する眼差しを向けた。
「あなたさえいなければ!あなたさえいなければ私は今田君に捨てられなかったのよ!!」
三波は溜まってた鬱憤を吐き出すように目を瞑りながら怒鳴った。
「・・・そうか。お前も被害者なんだな」
潤一は切ない感情を抱き、思わず本音を吐露した。
「えっ・・・。それってどういう・・・」
三波は予想外の言葉に多少の平静を取り戻した。その証拠に彼女の眼差しは普段の幼くかわいいものに変化していた。
「言葉通りの意味だ。気になるなら今田に連絡でも取ってみるんだな」
潤一は三波を視界から外し、ポケットに両手を突っ込みながら歩き始めた。
「まっ、待て!」
三波は大きな声を出し、潤一を制止させようとした。
しかし、潤一は三波には目もくれず、ずんずんと前に進み、彼女との距離を拡げていった。
「とにかく、すぐに今田に連絡を取ってみろ。そしたらすべてわかるから」
潤一は前を直視しながら、背中越しに佇む三波に忠告を残した。
「なんなのよあいつー!本当ムカつく!!」
三波は自室の電気を点けるなり、枕を強くベッドに投げ付けた。
あれから、三波は潤一が見えなくなるまで彼の背中を呆然と眺めていた。
我に返った三波は自宅に足を踏み入れた。
「本当になんなのよ!もう少しで作戦成功だったのに!!」
三波は枕をばんばんっとベッドに叩きつけた。怒り心頭であった。
「でも・・あいつの言うことも一理あるかも」
三波は手を止め、潤一が去り際に残したある言葉を脳内で反芻した。
三波は枕をベッドに優しく置き、スマートフォンを起動させた。
ロックを解除してLiMEを開き、今田にトークを発信した。
三波『今田君!振られた分際だけど聞かせて
ほしい。いきなりだけど、なんで私と付
き合ったの?理由を教えてほしい』
三波は今田が不登校に陥った事実を親友から伝えられた。
その上、今田が自分と付き合った理由が潤一にあることもその親友から教えてもらっていた。
今田『・・・』
美波の予測に反し、今田は内容なしの返信をしてきた。
今田『・・中森が丸井に恋心を抱いているの
を知った。だから、丸井と付き合えば
中森にショックを与えられると思っ
た。だから、俺はお前と付き合っ
た。』
「な、な、な〜〜〜」
三波は手をわなわなと震わせながらスマートフォンの画面を注視した。
「信じられない!そんな理由で、そんなしょうもない理由で私と付き合ったの!!ふざけないでよ!!!」
三波はベッドに飛び込んだ。敷布団を力強く掴み、破る勢いで引っ張った。
「ふざけないで。ふざけないで。それに私は被害者の人間を悪者扱いして復讐しようとしたの?」
三波は自身の愚かさに多大なる悔しさを感じ、大粒の涙を流した。
「ひぐっ。ひぐっっ。私のばか。ばかーー!」
三波の金切り声が自室を超え、彼女の自宅で何度も木霊した。
不幸なことに、この日から三波は自室に閉じ籠り、再び不登校になってしまった。
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