第167話 突入

「なっ……!? て、テメェら、なんでここに!?」


 最初に反応したのは、やはり「親分」だった。

 慌てて大剣を手にして、迎撃姿勢を取ろうとする。


 だが、それでは遅い。


 親分が体勢を整えるよりも素早く間合いまで駆け込んだ俺は、槍を持った右手にスキルの力を宿らせて、放つ。


「──【三連衝】!」


 ガガガッと、鎖かたびらの上から、俺の槍による三連撃が「親分」の胴を穿つ。

 それから反撃に備えて、盾を構えたが──


「バ、バカな……ガハッ……!」


「親分」は白目をむいて、その場に崩れ落ちた。

 そのまま倒れ伏して、動かなくなる。


 ──あ、一撃で倒したのか。


 以前は一撃撃破とはいかなかったが、あれからレベルも上がっているし、武器もランクアップしている。

 そういうこともあるか。


 一応、本当に気絶しているかどうか、しっかりと確認しておく。

 狸寝入りではないようだ。


「な、なんだ貴様らは──ぐげっ」


 一方でゴルドーはというと、潰れた蛙のような声を出して倒れた。

 素早く駆け寄った風音さんが、その首筋に手刀を落として気絶させたのだ。


「正直殺してやりたいぐらいムカついてるけど。ひとまずこれで済ませてあげる」


 風音さんは心底冷たい暗殺者のような目を、倒れたゴルドーへと向けていた。


 怒った風音さん怖い。

 あの目を向けられたら俺、泣いちゃうと思う。


 一方で、呆然とした目を俺たちに向けてくるのは、囚われのエスリンさんだ。


「え……? あ、あんたら、なんでここに」


 そうつぶやき、やがて瞳に涙を浮かべるエスリンさん。

 彼女を拘束している鎖を、風音さんが短剣で断ち切り、自由にしてやった。


「エスリンさんの従者の人たちに頼まれたの。『姐さんが~!』って、大の男たちが泣きついてくるんだもん。ねえ、大地くん?」


「あはは。泣きついてきたかどうかはともかく、だいぶうろたえてましたね」


「そ、そっか。……まったくもう、あいつら図体ばっかりでかくて……ぐすっ……。でも……良かった……怖かったよぉおおおおおっ!」


 エスリンさんは安心したせいか、その場でわんわんと泣きだしてしまった。

 風音さんがそれを優しく抱き寄せ、よしよしと頭をなでる。


 俺はそれをほほえましい気持ちで見守りながら、【アイテムボックス】からロープを取り出して、「親分」とゴルドーを拘束していった。


 なお、ミッションももちろん達成だ。

 というか、エスリンさんの姿を発見した時点で、ミッション達成の判定が出ていた。


───────────────────────


 特別ミッション『失踪した女商人エスリンを見つけ出す』を達成した!

 パーティ全員が15000ポイントの経験値を獲得!


 六槍大地が34レベルにレベルアップ!

 弓月火垂が35レベルにレベルアップ!


 現在の経験値

 六槍大地……245444/267563(次のレベルまで:22119)

 小太刀風音……261056/267563(次のレベルまで:6507)

 弓月火垂……268441/303707(次のレベルまで:35266)


───────────────────────


 ミッション的には、発見した時点で引き返してもよかったらしい。

 そんな選択肢を選ぶ理由はどこにもなかったけどな。



 ***



 その後、俺たちは屋敷を出て、近くで待機していた領主やアリアさんに連絡した。

 それに応じて領主は私兵を動員、ゴルドーの屋敷への抜き打ち家宅捜索を行った。


 この家宅捜索はもちろん、すでに結果が確定している出来レースだ。

 人身売買に使われていた地下の牢獄が当然に発見され、ゴルドーと「親分」はお縄となった。


 もとより街の平和維持のための刑事裁判権は領主にあるらしい。


 無茶をして結果を出せなければ、街の有力者たちから突き上げを受けて立場が危うくなるが、今回ぐらい状況証拠と人的証拠が残っていれば話は別とのこと。

 結果さえ出れば、領主の強硬捜査は正義と平和維持のための行いとなり、俺たちの不法侵入も含めて正当化されるわけだ。


 そして人身売買は、国家法レベルでの重罪だ。

 即日行われた裁判で、ゴルドーは領主側の不法侵入などの不当性を訴えたが、ほかの有力者たちはもはや誰も彼に味方しなかった。


 ゴルドーと「親分」に下された判決は、極刑。

 俺たちが知っている裁判と比べると人権もへったくれもなく、公平性にも慎重性にも欠ける気はしたが、限られたリソースで平和を維持するためには必要なことのようだ。


 ともあれそのあたりは、俺たちがどうこう言うものでもない。


 俺たちにとって重要なのは、件の事件と裁判によって、ドワーフ大集落ダグマハルへと向かうための出立日が一日遅れたことだ。


 仕方がないので、その日の残りの時間は休息にあてることにした。


 そして翌朝。

 元の世界への帰還まで、あと90日。


 中央広場でエスリンさんたちと合流した俺たちは、街を出立する。


 ここまでのおよそ十日間、ずっとこの街を拠点に活動していたが、いよいよ軸足を動かすときが来たのだ。


 街の門をくぐって街の外に出た俺は、街道を進みながら、ふと後ろを振り返る。


 思い浮かべるのは、親切にしてくれた街の門番や、宿のおばちゃん、冒険者ギルドの受付のお姉さんに、アリアさんや領主の顔などなどだ。


「──行ってきます」


 ふと、そんな言葉が口をついて出た。

 柄にもないなと自分でも思って、苦笑する。


「大地くん、どうかした?」


「先輩、何ぼーっとしてんすか! 遅れてるっすよ!」


「ああ、ごめん。いま行きます」


 先に進んでいた風音さんと弓月が声を掛けてくるので、俺は小走りでそれを追いかけた。


 今日からまた、新たな冒険の旅の始まりだ。



 ***



近況ノートで書籍のパッケージイラスト公開です。

https://kakuyomu.jp/users/ikapon/news/16817330652776662214

ファンタスティックですので、是非是非ご覧くださいまし。

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