第131話 宝箱の中身
宝箱一個目。
一番左の宝箱から風音さんが取り出したのは、ポーションの瓶だった。
「これは……『MPポーション』かな? 火垂ちゃん、鑑定お願い」
「了解っす。──ん、『MPポーション』で間違いないっすね。とりあえず風音さん持っとくっすか?」
「そうだね。サンドイッチがなくなった分だけ【アイテムボックス】の容量空いたし。あ、でも……」
風音さんが、ちらりとアリアさんのほうを見る。
そうなんだよな。
宝箱の中身を、俺たち三人で全部もらってしまっていいものか。
しかしアリアさんは、とんでもないという様子でぶんぶんと首を横に振る。
「助けてもらった身で、獲得アイテムの権利まで主張する気はありませんわ」
「そっか。じゃ、遠慮なくいただきます。──それでは、次の宝箱、オープン!」
MPポーションを俺たちのパーティ資産として確保しつつ、風音さんは次の宝箱を開いていく。
出てきたものは──
「またポーションだね。でもこっちは、アレっぽいな──火垂ちゃん、よろしく」
「あいあいさ。えーっと……これは『ハイHPポーション』っすね。とりあえず、うちの【アイテムボックス】に入れておくっす」
「よろしく~」
真ん中の宝箱から出てきたのは、ハイHPポーションだった。
これで手持ちのMPポーションとハイHPポーションは、もともと持っていた分と合わせて、二本ずつになったか。
でもどっちもあまり使わないんだよな。
いざというときの保険にはなるが、【アイテムボックス】を圧迫するという側面もある。
アイテム整理をして、必要性が低いものを売却するか。
あるいは俺が【アイテムボックス】を取得して、容量そのものを増やすかだな。
「じゃあ三つ目いくよ~、オープン! ……ありゃ、これはひょっとして、かなりのお宝かな?」
宝箱三つ目、一番右の宝箱から風音さんが取り出したのは、魔法使い風のローブだった。
弓月が現在着ているものと似ているが、少しデザインが違う。
装飾やら何やらがちょっとだけ豪華な感じ。
確かあれは──
「火垂ちゃん、鑑定よろしく!」
「了解っす。【アイテム鑑定】! ──ん、ビンゴっすよ。これ『ウィザードローブ』っす。効果は防御力15、魔法威力+4。うちがいま着てる『ルーンローブ』が防御力7、魔法威力+2だから、完全上位互換のやつっすね」
「おー、やっぱりか」
ウィザードローブって、たしかオヤジさんの店で180万円ぐらいで売られていた、店売り最上位防具の一角だったはずだ。
「これ、うちが着ていいっすか?」
「だな。それ以外にないだろ」
風音さんは黒装束だし、俺もエルフ集落でもらったエルブンレザーを装備している。
アリアさんを除外すれば、弓月が装備するのがどう考えても最適解だ。
「じゃ、ここで着替えちゃうっすね。先輩は向こう向いてるっすよ。覗いたらただじゃおかないっす」
「了解だ。つーかお前の着替えなんか覗かねぇよ」
俺はくるりと弓月に背を向ける。
すると風音さんが俺の背後に忍び寄って、その両手で俺の目をふさいできた。
俺の視界は真っ暗になった。
「風音さん……?」
「大地くんはエッチだから、後ろを向いただけじゃ信用できません。なので目隠しをします」
「はあ……。別にいいですけど、弓月の裸なんかわざわざ見ませんよ」
「またそういう言い方する」
「そういう言い方も何も、当たり前です。俺にとって弓月は、そういうんじゃないですから」
……と言いながら、実は俺は内心で、ローブを脱いだ弓月の姿を想像してしまっていた。
煩悩がひどい。
しゅるしゅるという衣擦れの音がしばらく続いたあと、やがて弓月から声がかかった。
「お待たせっす、先輩。もういいっすよ」
風音さんによる目隠しも外され、俺は弓月のほうへと振り向く。
ちょっとだけゴージャスなローブに着替えた弓月は、ファッションショーのようにくるりと回って、きゃぴっとポーズをとった。
「どーっすか、先輩? うち、かわいいっすか?」
「おう、よく似合ってるな。お前もともと素材がいいし、普通にかわいいと思うぞ」
「むーっ。喜んでいいのか悪いのか、よく分からない評価っすね」
弓月が口をとがらせる。
一応は褒めたつもりだったのだが、わが妹分が望んでいた言葉とは違ったらしい。
そうして宝箱の中身を拝借した俺たちは、部屋の左手側にあった扉を開いて、先へと進んでいく。
しかしこう、殺風景な中でモンスターと戦って、宝箱を開けてをやっていると、久しぶりの「ダンジョン」って感じがするな。
アリアさんが所在なげにしているのがちょっと気になるが、その辺はしょうがない。
救助対象として、のんびりお姫様をしていてもらうことにしよう。
──と、思ったのだが。
この後、意外とすぐにアリアさんにも働いてもらうときが来ることになった。
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