第63話 鑑定

 武具店に入ってオヤジさんに事情を話すと、オヤジさんは快く【アイテム鑑定】を引き受けてくれた。


 鑑定手数料は、一個あたり1000円。

 今の俺たちにはリーズナブルと感じられるお値段だ。


 三つのアイテムをカウンターに置いて【アイテム鑑定】を試みたらしきオヤジさんは、一つ鑑定するごとに表情を歪ませていき、最後には「……嘘だろ?」とつぶやいて口元をひくつかせた。


 それから大きくため息をついて、こう伝えてきた。


「まず最初に一言。俺は鑑定結果に関して嘘を言わんが、【アイテム鑑定】を引き受けるってやつの中には、嘘の情報を教えて騙そうって輩もいる。そういう手合いには注意しろよ。特にこういうとんでもねぇアイテムを持ち込むときはな」


「そんなにとんでもないアイテムだったんですか?」


「ああ、とんでもねぇ。三つともだが、特にそのうち二つだ」


 まあ「シード」と「スキルスクロール」はほぼ確定だと思っていたので、この反応は予想の範囲内だ。


 ただ「スキルスクロール」に関しては、修得できるスキルによって恐ろしく価値が変わる側面がある。


 あまり誰も欲しがらないスキルの場合は、言うほど大きな価値にはならない。


 そういった意味では「シード」のほうが、安定して高価値なアイテムであると言える。


 何しろ「能力値」は、およそどんな探索者シーカーにとっても役に立つオールラウンドなものだからな。


 だがオヤジさんは、まず「種」を指して、鑑定内容をこう伝えてきた。


「一番『普通』のやつからいくぞ。察しは付いているだろうが、こいつは『シード』だ。より具体的には『魔力のシード』。食べると魔力を永久に1ポイント上昇することができる。競売に出せば、少なくとも数百万円の値は付くだろう。場合によっては一千万円を超えることもあり得るな」


「競売」というのは、探索者シーカーの間で行われる取引の一形態だ。


 ネット上で行われるものや、全国各地に会場を立てて定期的に行われるものなどがあるが、いずれにせよ稀少品の取引が高値で行われるのが特徴である。 


「ほえーっ、一千万円超えまであるっすか……。そんな金額で売れたら、しばらく遊んで暮らせるっすね。でもそれが、一番『普通』なんすか?」


「ああ。何しろほかの二つがヤバすぎる。この二つは甲乙つけがたいんだが──まあ、次はこっちからいくか」


 弓月の声を受け、オヤジさんが次に指さしたのは、例の黒い衣服だった。


「こいつの名称は、見たまんま『黒装束』だ。『装備部位:胴』の防具だが……ヤバいのはその性能だな。防御力はなんと『60』」


「「「60!?」」」


 待ってくれ。


 えーっと……今、俺や小太刀さんが装備している「クイルブイリ」の防御力が9、弓月が装備している「ルーンローブ」の防御力が7だったはずだ。


 防御力60とか、桁が一個違う。


 ちなみに、この武具店で売られている最高ランクの胴防具は、200万円の「プレートアーマー」だ。


 この鎧は「敏捷力-4」の不利がかかる代わりに「防御力51」という莫大な装甲を得られる防具、という認識だったのだが……。


「その『黒装束』は、防御力が高い代わりに、何かマイナス効果があったりするんですか?」


「いやぁ、それがな……逆なんだよ」


「逆……?」


「ああ。特殊効果として『筋力+2』『敏捷力+2』『魔法威力+2』って三つの効果が付いてやがる」


「「「はぁあああああっ!?」」」


「だから言っただろ、とんでもねぇって。世界最強クラスに名を連ねるS級防具と言って過言じゃねぇ。売れば数千万円は堅いだろうな。場合によると億を超えるかもしれん。欲しがるやつがどれだけ持っているかで値段が決まるやつだ」


 まったく意味不明である。

 何それ怖い。夢なの?


「え、でも、じゃあ……それと同じぐらいの価値がある、これは……?」


 小太刀さんがおそるおそる巻物を指さし、オヤジさんに質問する。

 オヤジさんは腕組みをして、こう答えた。


「こっちは『【三連衝さんれんしょう】のスキルスクロール』だ。使うとスキル【三連衝】を修得できる」


「【三連衝】……? 名称的に、おそらく武器攻撃スキルですよね? そんなスキルありましたっけ」


 ネットにあげられている探索者シーカーのスキル一覧の中に、そんなスキル名を見た覚えがない。


 俺も全部のスキルを暗記しているわけではないから、見落としかもしれないが。

 でも武器攻撃系のスキルって数が少ないから、そうそう見落としはしないはずなんだけどな。


 武器攻撃系のスキルには、例えば【二段斬り】や【二段突き】といったものがある。


 これらがスキルリストに出てくる探索者シーカーでも、21レベルで解放されるのが普通らしく、俺も小太刀さんもまだそこにはたどり着いていない。


 だがその俺の問いに、オヤジさんは難しい顔で答える。


「そんなスキルがあるかといえば、あるにはある。が、俺が知っている中じゃ【三連衝】を使える探索者シーカーは日本でただ一人だ。そいつは【限界突破】探索者シーカーの一人で、俺の知り合いなんだがな。ネットに公開されているスキルリストなんぞには載ってないだろうよ」


「…………」


 オーウ……。

 世の中に幾多あるスキルスクロールの中でも、超S級のやつってことじゃないですか。


「オヤジさん」


「おう、なんだ」


「これ、ヤバいですよね……?」


「ああ、ヤバいな。こんなのを新人ルーキーが持っていることが知れ渡ったら、どういうことになるか予想もつかん」


「…………」


 なるほど。

 これは「祝福」にして「呪い」かもしれない。


 ダンジョンの妖精、怖いわー。

 饅頭怖いわー。

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