第38話 ピンチ
オクとヒラが俺の方へ向かって突進する。
「また突進か」
エマが二人に向けて弓矢を放つ。風を強く切る音と共に弓矢が二人に迫る。
どうせ回避するんだろう、と思っていると、
「おらぁ!げそ」
「はっ」
二人は回避することなく、弓矢を弾き、勢いそのままに俺に向かってくる。
「!」
エマにとっては自身の弓矢があっさりと弾かれたのが予想外なのだろう。オクとヒラに向かってより多くの弓矢を引くが、そのことごとくが二人の腕などで弾かれる。
「カジ!」
後ろから叫び声が響く。
俺も二人の予想外の行動に驚くが、もう罠を設置する暇もない。俺は剣を構え、腰を深く落とした。
二人は俺の眼前にいた。
「おらぁげそ!」
まずはオクの左ストレートが俺を貫こうとする。それを剣の腹を使って逸らすが、
「ふん」
次にヒラの右ストレートが俺をぶち抜こうとする。
「グッ!?」
俺はまた剣の腹を使って防ごうとするが、オクの返す刀のような右ストレートと重なり、受け止めきれない。受け止めきれない力は俺の腕を自然に上に吹っ飛ばした。
剣を持った腕を上に押し上げられ、がら空きとなった腹をこの二人が見逃すことなかった。
まずは一発、オクの左ストレートが俺の腹に決まる。
「かはぁ……!?」
自然と空気が押し出される声と共に、視界は微量の赤に染まり、多少の痛みを感じた。
殴られたことで、体が吹っ飛ばされるが、それは許されなかった。
「『伸びる触腕』、『拘束触腕』」
オクの手のひらからタコのような触腕が伸び、俺の腹を掴み引き寄せる。
「ナイスだぁ、オク」
「『貫手』、『衝撃波』」
俺の体を貫くように、手を鋭く伸ばし、その切っ先を俺に突き立てる。
「く、くそ」
こいつらの……作戦が分かった。エマに援護させない、超密着の速攻だ。
ヒラの貫手は俺の体を貫くことは無かったが、オクの拘束によって衝撃は全て俺の体に伝わり、より視界は赤に染まる。
それだけに留まらず、ヒラの両手が俺の胸に添えられ、一瞬の拍の後、
「はぁ!」
インパクトと呼ぶべき、強烈な衝撃が体に伝わり、俺を拘束するオクの触腕を引きちぎりながら俺は吹っ飛ばされる。
「いてぇ~!?ヒラ、俺の腕を引きちぎんなよ、ゲソ!」
「あぁ、あの気持ち悪いのかぁ?」
「何が気持ち悪いゲソ!おめぇの顔の方が気持ち悪いゲソ」
「おめぇの方が気持ち悪いぜぇ!?」
吹っ飛ばされ、木の幹に直撃する。
ドロッとした血の香り、感触を感じる。起き上がろうとするが、うまく立ち上がれない。
なんてコンビネーションだ、……まんまとやられた。
血がたくさんでいていそうだが、あまり痛くないのはありがたかった。
立ち上がれず、徐々にかすれていく視界に、ゲーム内での死を感じながらポーチから中級ポーションを取り出して飲もうとするが、倒れ込む俺の頭上に誰かがいた。
「おい、狐の獣人の小僧!おれたちゃぁ、あの異世界人だけに用が有んだよぉ。大人しく眠ってろぉ」
そう言いながら、足を俺の顔面に突き立てようとする。
ああ、死んだ。
「『兎足』」
だが、その瞬間、聞きなれた声と共に俺は体を引っ張られ、気が付くと目の前にエマの顔があった。
「だ、大丈夫、カジ……」
泣きそうな顔をして俺を見るエマに持っていた中級ポーションを掲げて見せると、それを俺の口につけ、中の液体を流し込まされる。
下級ポーションよりも苦い、ドロッとした液体に吐き気を感じながらもゴクゴクと飲み込むと、視界の赤が半減された。
「ぷはぁ、だ、大丈夫」
ポーションの中身がなくなっても口にポーションの飲み口を付けているエマの手をそっと握り、除けると立ち上がった。
俺は自身が先ほどまで倒れていたであろう血に染まった崩れた幹の場所でつっ立っている2人の強敵を俺は見やる。
変な見た目をしているが、今まで戦ってきたやつで一番強い奴だと俺は思った。
あいつらのコンビネーション、あれが厄介だ。
俺は打開策を考え、ふとエマの方を見つめて言った。
俺とエマのコンビネーションなら……?
「ごめんね……。私が弱いばっかりにこんな傷を」
下を見つめてうずくまり、か細い声で言うエマに俺は答えた。
「エマ」
「えっ、何?」
心配するエマを他所に俺は続けて言う。
「あいつらの連携は強力だ。今の俺とエマじゃ勝てない……」
「うん……」
より不安そうな顔をしたエマに俺は続けて言った。
「だから俺たちもあいつらを超える連携で、あいつらに勝つぞ!」
「……うん!」
そう言いながらエマに向けて手を伸ばすと、しっかりとその手は握られてエマは立ち上がる。
そして、俺はエマに少し耳打ちして作戦を伝えた後、強敵たちに向けて2人で突っ込んだ。
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