第36話 神話的生物

 夢のような時間は終わりを迎え、ゆっくりとゆっくりと地上へ近づいてくる。どうやら子鬼の森の中間程で降ろしてくれるそうだ。


 ここだよと告げるかのようにブレイブバードは小さく鳴く。エマももう起きたようで、俺たちは促されるように降りるとすぐさまブレイブバードは宙に舞い上がった。


「ありがとう!」


 俺たちが感謝の言葉を告げると、ブレイブバードは一鳴きする。


「グァ」


 すると、俺とケンジの手に何やら風が集まり、風の球を作り出す。


 何だろう?とみていると、その風は次第に凝縮されていく、弾けた。すると、俺とケンジの手にはかなり大きい羽根、ストライクバードの羽を手にしていた。


「これは……」


 鑑定を使おうとするが、エマが声を上げる。


「まって、これは……ブレイブバードの呼び羽ね」


 手帳を見ながらエマを言う。


「勇気を認められたものが渡されるもので、それを空へかざすとブレイブバードを呼ぶことができるみたい」


「そうなのか、ありがとうな」


 滞空しているブレイブバードにそう告げると、短く鳴き、羽を大きく広げる。そして、ブレイブバードは俺たちを乗せた時寄りよりも早い速度で空へと飛び去った。


「行っちゃったね」


「そうだな」


 ブレイブバードの姿は消え、俺たちは街へ帰ることにした。


「さて、街に帰ろう」


 ふと、エマを見ると頬を膨らませていた。


「ふーん、二人だけずるいんだー」


「はは……」



……



 帰り道は魔物が現れたりしたが、俺たちの敵ではなく順調に子鬼の森を進んでいった。


 もう少しで子鬼の森を抜けそうという所で何やら木々の間に仁王立ちをする人間のような何かが見えた。


「あれ、何かしら」


 少し近づいてみると俺とケンジはギョッとする。


 見えたのはマッチョな人間の体の上に魚の頭という神話の怪物のようなものがいたからだ。


「やぁ!こんにちわ!」


 そんな怪物がこちらを視認し、近づきながら気さくに挨拶をしてくる。


 俺とケンジは焦った。


「こ、怖い」


「これは、どう対処すれば」


 想像してなかった出来事に俺たち二人は取り乱すが、エマはなぜか平然としていた。


「魚人じゃない」


「えっ」


「この人、魚人ね。少し形が違うけど」


 エマが言うにはこれがあのキャラクタークリエイトの時に選択できた魚人であるという。魚人ってこんな見た目なの!?と衝撃を受け、鑑定で確認してみる。


『ギョンゾ

種族 魚人(シャチ)

レベル15


 能力値

HP 30

MP 3

力 18(+5) =23

防御 15

器用さ 5

速さ 7

魔力 1


スキル

魚人闘手 7

水魔法 0

受け身 5

防御形態 3

筋力上昇 5


アーツ

貫手 

衝撃波 (MP-1)

ガードシールド (MP-2)』


「ほ、ほんとだ」


 よくステータスを見ると彼はシャチの魚人であるようだ。


「中々に、中々な姿だな……」


 ケンジがそう言うが無理もない。先ほど言った通りムキムキマッチョマンな体の上にシャチの頭が乗っているのだ。人間に毛や耳、尻尾を加えた獣人よりもはるかに拒否感が強い。


「やぁ!こんにちわ!」


 先ほどの言葉をギョンゾは繰り返した。


「ええと、こんにちわ……?」


 俺がそう言うと、ギョンゾは何も言わなくなる。無言で固まったまま、俺たちの方を見ている。


「……」


 俺たちの間に奇妙な空白が生まれた。みんなが固まってしまった。


 ええと、何の時間なんだ……これ。


「あのぉ」


 俺が何か言おうとすると、ギョンゾが被せるように言った。


「今日は天気がいいね!」


 上を見ると、子鬼の森の巨大な木々で空はほとんど見えない。ブレイブバードに乗せてもらった時に空を見たが、別に天気は良くなかった。


「……」


 またも、沈黙が生まれる。


「……すまないが、先を急いでるんだ」


 そう言ってケンジが通ろうとすると、ギョンゾが慌ててその進路を塞いだ。


「いや!少し、少し待ってくれ……。ええと」


 シャチ頭に大粒の汗を滲ませながら、急に手をあたふたさせてギョンゾは慌て始める。


 その見た目で汗を垂らされながら慌てないでほしい。俺は内心で笑いそうになった。


「……ええっと、なんていえばいいんだ?自然に答えるには……、ああ、もう前みたいのでいいかぁ」


 笑いそうな俺をしり目にギョンゾは何か独り言をつぶやいてたかと思うと、吹っ切れたように大声を上げた。

 

「あぁもういいか!?単刀直入に聞く!あなたたちは異世界人か!」


 唐突な質問とその質問内容に少しドキッとする。なんていったって俺とケンジは異世界人(プレイヤー)だからだ。これは本当のこととウソどちらを言えば正解なんだと考えているとケンジが口を開ける。


「ああ、俺はまあ、異世界人っていう括りにはなる……な」


「えっ!ケンジって異世界人なの!?」


 横にいたエマがびっくりしたようにケンジの顔をまじまじと見つめる。異世界人初めて見たー、と素直に驚いていた。


「まぁ、そんな特別なことはない」


 そんな二人をよそ目にケンジの発言を聞いたシャチ頭のギョンゾはわなわなと震えだした。


「あ、あ、悪を発見したぞおおおおお!」


 そう言いながらケンジに向けていきなり左こぶしを握りこみ、殴り掛かってきた。


「うおっ!?」


 とっさにケンジは腕でパンチをガードしたが、衝撃が強かったのか後ずさりする。


「いったい何を!」


 俺が止めようとした瞬間、ギョンゾが大声で叫び始めた。


「お前ら集合だあああああ!」


 けたたましく響く声に俺たちはたじろいだ。周辺の木々もその声量に枝が揺れ、木の葉がばらばらと落ちていく。いきなり騒ぎ出したが、ギョンゾが叫び終えると一気に沈黙が訪れた。


 そしてギョンゾはいったん後ろに飛びのき、俺たちから距離を取った。


「耳があああ!?」


 相当うるさかったのかエマが横でウサギ耳を抑えながら地面でのたうち回っていた。大丈夫か。


 ケンジが何か言おうとするがその時、二人の新たな魚人が森から飛び出してきた。


「呼んだでげそか?」


「親分やぁ」


「オク!ヒラ!」


 2人の魚人はギョンゾに集まる。


 どうやら自分の仲間を呼んでいたようだ。こちらもまた筋肉隆々の体に魚人の頭が乗っている。


「こいつらがそうでげそな」


 2人のうちの一人であるタコ頭の魚人が言う。


「やりましょうやぁ、正義のために」


 もう一人のブリ?頭の魚人が言う。


 鑑定を手早く終える。


『オク

種族 魚人(タコ)

レベル11


 能力値

HP 21

MP 1

力 14

防御 10

器用さ 7

速さ 8

魔力 3


スキル

魚人闘手 4

水魔法 0

受け身 2

防御形態 2

触腕活闘 6


アーツ

貫手 

衝撃波 (MP-1)

伸びる触腕

拘束触腕』



『ヒラ

種族 魚人(ヒラマサ)

レベル12


 能力値

HP 17

MP 3

力 10

防御 8

器用さ 5

速さ 11

魔力 5


スキル

魚人闘手 4

水魔法 0

受け身 6

防御形態 3

高速打闘 4


アーツ

貫手 

衝撃波 (MP-1)

ガードシールド (MP-2)

縮地 (MP-1)』



 あっ、ブリじゃなくてヒラマサって魚なんだ、あまり聞いたことがない名前の魚だなぁ。鑑定を終えて一番最初にそこに目が行った。


 タコ頭の魚人はオク、ヒラマサ頭の魚人はヒラというらしい。


 すると何やらヒラがこちらを睨みつけてくる。鑑定がバレたかと思ったが、どうやら違いそうだ。


「ん?どうしたヒラ」


「いやぁ、なんかあの狐の獣人にバカにされた気がしたんですよ」


「気のせいじゃないげそか?」


 オクの語尾がイカだなぁと3人の魚人たちの会話を聞いているとなぜかオクもヒラ同様にこちら、……俺?を睨みつけてくる。


「……なんか俺もあの獣人にバカにされた気がするげそ!」


「親分やぁ、俺らぁ、あの狐と兎の獣人を相手しますぜ」


「ああ!だが、あまり手荒にするなよ」


 何かあの3人でどんどん話が進んでいるようだが、こちらとしては全く何がなんだが分からない。エマはもう耳がある程度回復したのか、なんとか立っていた。


「おい。こっちは何が何だか」


 ケンジがそう言おうとすると、ギョンゾが遮るように叫ぶ。


「問答無用だあああああ」


「ぐぁ」


 ケンジがまたも突っ込んできたギョンゾに組み付かれ、森の奥へとその勢いのまま突っ込んでいってしまった。


 俺がその光景に唖然としていると、前からオクとヒラもこちらへと突っ込んでくる。


「あのガキと嬢ちゃんをやる、げそ!」


「おうよぉ!」


「もう訳わかんないけど、いったん戦おう!」


「んんー、耳キンキンするけど……、分かったわ!」


 戦いが始まった。

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