第19話 第2ラウンド
逃げている最中にポーションを飲み込み、回復する。俺は木の間を走りながらあの男の倒し方を考える。
現状奴が使った技はストーボルトとかいう石の魔法とクイックと言っていた……多分素早さを上げる魔法だ。これだけでもない可能性もある。あいつとの鍔迫り合いで勝てないことからあいつの力はかなり強力と見える。
ふと思い出した。俺にはまだまともに使っていなかったスキルがあったのだった。あれなら、あいつを倒せるかもしれない。
俺は走る足を止め男を倒す準備を始める。
……
「くそ、逃げたか」
俺は怒りに任せ、木を蹴りつける。イライラが収まらない。
森を掻き分け、狐のガキの血痕を辿って行く。だが、その血痕は途中で途切れており完全に見失ってしまった。
「ちっ、クソが」
いつもそうだ。クソみたいな上司の話を聞いてクソみたいな仕事をしてそんな毎日が嫌いだ。うまくいかないこと全てが嫌いで嫌いで仕方ない!
このゲームを始めたのはストレスを発散したいから、ただそれだけだった。このゲームは脳と連動してるからゲームをしてれば運動を終えた後みたいな気持ちいい気分になるかと思って買った。
だが、俺のストレスは逆に増えた。このゲームのキャラクターたちが日々の生活を懸命に努力し、泣いたり笑ったりしてたからだ。俺はそんな光景を見てどこかいかれたのかもしれない。『ゲームのキャラクターでさえあんなに努力をしてるのに俺は何をしていたのだ?何も努力せず人の足元にうづくまっていて楽しいか?』そんな声が俺の頭に響いていた。
俺はゲームをやめようと思った。だが、現実に居場所がなかった俺は結局このゲームをやめなかった。
イライラしていた時に路地裏で猫のNPCとぶつかった。そん時、そいつは「ごめんなさい!」と言った。普通のことだろう。だが俺はなぜか無性にそのことに腹が立ち、そいつを殴りつけた。何度も何度も。何で無性に腹が立ったのかは今はよく分からない。今はあの狐のガキに血液が沸騰しそうなほどイライラしていた。
「ガキの方を探すか」
俺は頭をかきむしりながら猫のガキが逃げた場所に向かう。あの狐のガキはNPCに優しさなんて見せつけていやがる。なら逆手に取ればあいつを囮にしておびき寄せばすぐに出てくるだろう。
そう踏み出した瞬間、俺に向かって弓矢が飛んできた。
「ふん」
横に飛んで回避した瞬間何か紐がちぎれ、カラカラという音が森に響き渡る。
周囲を見渡すと何か木々の間に糸がかかっており、そこから音が出ているようだ。
「は?なん、は?」
その音は止まることなく、森中に響いていた。
「なんだこれはぁぁあ!?」
……
男から逃げた後、俺は『罠作成』で生成できた鳴子という本来、作物を鳥についばまれないように音を出して追い払うものを設置していた。
「うるせぇ!うるせぇぇ!」
男は周囲に剣をみだりに振り回し続けている。
男は音に混乱している様子だ。俺は男の背中に向かって剣を持って突撃し、男の胸に俺の剣が深く突き刺さった。
「ぐあっ!?てめぇ」
男の顔には焦りと混乱が浮かび上がっている。
「借りは返す!」
「うぅ、『ストーンボルト』!」
足元から何度も見た石の弓矢が現れる。石の弓矢が飛んでくる前に男の胸から剣を抜いて離脱する。
男の胸からドクドクと血が垂れ流れ、男は胸を手で押さえている。
「ぐぁあぁぁあ!クソガキめぇぇ!」
「ざまあないね」
「クソが、クソがクソが!気に入らないんだよ、気に入らないんだよ!」
男が長剣を片手に持って突撃してくる。剣と剣がぶつかる。だが、男は動揺してるからか力が上手く乗っていない。男の剣を上に突き上げ、無防備になった脇を切り裂く。
「がぁ!?」
男がたたらを踏んで草が茂っている場所に足を踏み出すと、
「うっ!?」
俺が事前に用意しておいたトラバサミに足が挟まれて地面に倒れこむ。
俺は男に近づき、鑑定スキルを使う。
『名前 サカタ
種族 獣人(アリクイ)
レベル2
能力値
HP 12
MP 8
力 4 (+2) =6
防御 4
器用さ 2
速さ 3
魔力 6
スキル
土魔法 1
剣術 1
付与魔法 1
筋力上昇 2
双剣術 0
アーツ ストーンボルト(MP-1)
クイック(MP-2)』
「勝負ありだ、サカタ」
「お前、俺の名前を!」
剣を両手に握りサカタに向ける。そして上に剣を掲げる。その時、サカタは目を見開き俺に向かって言った。
「次は絶対に殺してやるからなッ!」
剣を振り下ろす、俺の持つ力全てで。
「あがっ」
俺の剣はサカタの首に突き刺さり、そして首を切断した。死亡したサカタの体は徐々に淡い光に変わり、蒸発するように跡形もなく消えた。
『レベルアップ!2→3』
『罠設置レベルアップ!1→2』
『鑑定レベルアップ!1→2』
アナウンスが俺に響いた。
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