エルブズ・フォース ~ ElvesForce ~

ちびけも

導入部

初めての外国旅行

 「ひぎゃ~っ!」

と遠くで情けのない叫び声が響いた。

「やめて~、だめ~っ! 美味しくないです~!」

などと断続的に叫び声が近づいてくるぞよ。

「水を汲みに行ったズキの声じゃのお」

わらわが誰にとでもなくつぶやく。

「あいつったら水汲みもできないのかしら?」

とチマちゃんの辛辣しんらつな返事が返っきた。

「地響きがする~、デカいものにぃ、追われてるのぉ、攻撃用意だ~」

シリアスな内容に合わず間延びした口調のケンジャ様が言い詠唱を始めたのじゃ。妾とチマちゃんもそれぞれ高速詠唱呪文を唱えて発動待機状態にする。そして三人の準備が終わって間もなく森からズキが飛び出してきた。

 妾達四人とも普通の人間とは違い横に長い耳がチャームポイントのエルフ。妾は十三歳のお姫様じゃぞい。ズキとチマちゃんは水色がベースの近衛隊服に身を包んでおる。ケンジャ様は見た目は少女なのじゃが寿命が果てないと言われるハイエルフでダントツの最年長じゃ。今日は我が国の伝統文化『成人の儀』と名付けられた神樹の森巡礼の旅を始めた初日。国内では王室専用馬車が運んでくれたのじゃが貧乏小国で予算がなく、予定通りとはいえ国境で降ろされてしもうた。そして徒歩での旅中最初の野宿を始めた所、早々にクエスト発生という所かのお。これが物語であったのなら重要人物との出会いイベントとかじゃろうが。

 さて本題に戻り、岩陰から飛び出してきたズキを追ってくる相手が見えた。立ったら三メートルはあるであろう熊が追いかけて来よるわい。

「げぇ! あいつ鎧グマ連れてきやがったっ! Lv1風刃ふうじん!」

相手を認識した瞬間間髪入れずにチマちゃんが攻撃魔法を使ったのじゃ。妾も「Lv2パラライズ!」と麻痺の魔法を発動した。二発とも命中したのじゃが、丸っ切り効いていないようで熊の速度が落ちぬ。

「逃げろ逃げろ~!」

とズキが叫びながら近寄ってきて一瞬でケンジャ様をかついだかと思うと止まらずに真っすぐに逃げ続ける。足の遅いケンジャ様だと逃げ切れないとのズキの判断なのじゃろう。じゃがズキは妾の近衛じゃろうに、妾のことは無視かえ…。妾とチマちゃんも後を追う即断をし移動補助の高速詠唱をする。

「…Lv1追風ついふう!」と唱えてズキに並走する。

「初外国の最初の思い出がこんななんて嫌じゃ~! ズキのバカたれ~!」

「ケンジャ様は何で撃たないのよ!」

チマちゃんが走りながら叫んだ。

「む、むぅ、近すぎる~。何とか離れなければぁ巻き込まれるぞ~?」

「……Lv2アースノッカー!」

妾がすかさず移動阻害の土魔法を唱えたのじゃが、地面から生えた土の壁は熊の突撃でズドンッと粉々にされてしまった。

「やばば、レベル二が全く通じんぞ。ど、どうするのじゃ?」

ケンジャ様は何を考えておるのか分からん表情じゃし、ズキとチマちゃんは走るだけで必死の様子。と、その時正面からすんごい速さでフレヤが飛んできたのが目に入った。フレヤは妾くらいの大きさなのじゃが幼生体とはいえドラゴン。此度の旅で五人目の仲間でこれで勝つる!

と一瞬思ったのじゃがフレヤもレベル二までの魔法しか使えなかったっけか…。

「ケンジャ様フレヤごと撃って!」

すれ違いざまにフレヤが叫ぶと姿勢を変え、飛んできた勢いのまま足で熊に見事なケリを入れたのじゃ。更にフレヤは「…Lv1フラッシュバン」と移動阻害の魔法を撃った。爆音とともに熊の足は止まりフレヤに目標を変えた様に見えたのじゃ。

そんなフレヤを後ろに妾達は走り続け、十分に離れたと判断したのかケンジャ様がずっと発動待機中だった魔法を発動した。

「Lv4爆轟塵ばくごうじん!」と。

げぇ、フレヤがいるのにもかかわらず一個小隊が丸ごと消え去る威力のレベル四魔法をぶっ放したのじゃ~!

『ドッカーーンッ!』と周囲五十メートル程が炸裂!。

逃げる妾達にも強烈な突風が押し寄せ思わずタタラを踏んでしもうた。爆轟塵の直撃が見えたので妾は走るのをやめて爆発跡の様子をうかがう。魔法で防御していない限り爆轟塵の直撃から逃れるすべはないのじゃ。と言うかレベル三でも十分じゃったろうに…。

「まさか本当にフレヤごと撃つとは思わなかったわ…」とチマちゃん。

「ドラゴンはあの硬い鱗に覆われてぇ、更に種族特性で魔法ダメージ九割カットだからぉ~。わたしの魔法程度ではぁ効かぬぞ~」

その言葉通り、煙が薄れるとフレヤはケロッとした表情で此方こちらへ歩いてきおった。

「フレヤ役に立ったよっ!」と嬉しそうに尻尾を振っているのじゃ。

「目は大丈夫なのかえ? 目は鱗ないじゃろ」

「普通のまぶたにも細かいけど鱗は付いてるよ! それに普通のまぶたの他にも内側に透明な硬いまぶたがあるんだよ! 透明なまぶたの方はいつも閉じてるから不意打ちでも大丈夫!」

「む、無敵じゃのぉ…、余計な無駄知識も増えてしもうたわい…」

「おい~、ズキ、いつまで抱えているんだ~?」

言われて気づいたズキはケンジャ様を降ろしたのじゃ。

「あんたね~、鎧グマなんか連れてこないでよ~。ゆじゅに何かあったらどうするのよ、一人で死になさいよね!」

「ふ、不可抗力なのに酷い…」

「姫を守るのが近衛隊でしょ、逆にピンチに陥れるなんて相変わらず失格ね。って言うかケトシちゃんは何処に行ったのよ…。あの子がいれば鎧グマ程度は余裕だったでしょうに」

ケトシとはケンジャ様の召喚精霊獣ケット・シーで見た目はまんま猫。召喚維持魔力が格安なので旅の間は出しっぱなしにする予定で、さっきまで一緒に歩いておったはずじゃが確かに見当たらぬ。

「そう言えばあ奴先程から見ないのお」と妾も声に出す。

「あやつならさっきお花を摘みに行くと言って~、どこか行ったぞ~」

「精霊のくせにもよおすのね…。まぁ、キャンプに戻りましょうか。ズキは鎧グマの肉切り分けて持ってきてね、今日の夕食よ」

「あぅ…」

チマちゃんはズキには強く当たるのお。まぁ、小さなことでは怒らないズキに甘えておるだけじゃがの。そんなこんなでキャンプに戻ると目に入るは頭に花冠をした猫の姿…。

「にゃんにゃん、みんな何処行ってたんにゃ? ケトシこれ作ったの可愛い?」

「ケトシちゃん…、お花摘みって文字通り本当に摘んでたのね……」

チマちゃんはガクッと膝を崩す。

こうして妾の成人の儀へ向かう初旅は波乱の開始となったのであった。


 遥か遠く山の頂から一行を見つめる影があった。

それは紫の瞳を持った純白の狐だった。

遠目から見たのであれば、誰もがそう思うだろう。

しかし、どこかおかしい。その違和感は狐の大きさであった。

その狐の体長は二メートル以上もあったのだ。

狐の周りに対比するものがないために大きさを見紛えてしまう。

さらに尻尾は体よりも大きい。

…尻尾…それは九本もついていた。

巨大な九本の尾は、空に向かって扇状に広げられていた。

九本のうちの二本の尾は小さくそよぎ、

一本は激しい嵐にさらされているように大きくはためいていた。

そして「三人目が生まれる」と呟いたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る