エルブズ・フォース ~ ElvesForce ~

ちびけも

導入部

初めての外国旅行

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「ひぎゃ〜っ!」

と遠くで情けのない叫び声が聞こえたのじゃ。

「やめて〜、だめ〜っ!」などと断続的に叫びながら声が近づいてくるぞよ。

「水を汲みに行ったズキの声じゃのお」とわらわが言うた。

「あいつ水汲みもできないのかしら?」とチマちゃんの辛辣しんらつな言。

「地響きがするぅ、デカいものにぃ、追われてるのぉ、攻撃用意だ〜」

内容に合わないのんびりした口調のケンジャ様が言い詠唱を始めたのじゃ。

妾とチマちゃんもそれぞれ高速詠唱呪文を唱えて発動待機状態にする。

三人の準備が終わってまもなく森からズキが飛び出してきたのじゃ。

ズキという男、百八十以上の身長で水色を基準にした近衛服を着ている。

背のマントは本来なら格好良くたなびくのであろうが、

取り乱している姿に揺れるマントは何か滑稽に見えよる…。

ここは外国なので現地の人がズキを見たとしたら、

なによりもまず耳に注目するであろうな。

二十センチ程水平に伸びる長い耳。

そう、妾達四人ともこの世界で激レアなエルフなのじゃ。

そのズキが急減速してこちらに向きを変え再び走り始めた直後、

寸前までズキがいた場所に茶色くでっかい塊が飛び込んで来おった。

立ったら三メートルはあるであろう熊がズキを追いかけて来よる!

「げぇ、あいつ鎧グマ連れてきやがったわっ! Lv1風刃ふうじん!」

と相手を認識した瞬間間髪入れずにチマちゃんが魔法を発動したのじゃ。

妾も「Lv2パラライズ!」と麻痺の魔法を発動した。

二発とも当たったのじゃが、まるで効いておらぬわ!

「逃げろ逃げろ〜!」とズキが近寄ってきて一瞬でケンジャ様をかつぎ、

そのまま真っすぐに逃げ続ける。

足の遅いケンジャ様だと逃げ切れないからじゃろう。

妾とチマちゃんも後を追おうと移動補助の高速詠唱をするのじゃ。

「…Lv1追風ついふう!」と唱えてズキに並走する。

「嫌じゃ〜! これが初外国の最初の思い出なんて嫌じゃ〜! 死むる~! 」

「ケンジャ様! 何で魔法発動しないのよ!」とチマちゃんが走りながら叫んだ。

「む、むぅ、近すぎる〜。何とか今の倍離れなければぁ巻き込まれるぞ〜?」

それを聞いて「……Lv2土塁壁!」

妾がすかさず置き捨ての土盾魔法を唱えたのじゃが、

ズドンッと地面から生えた土の壁は熊の突撃で粉々にされてしまった。

「やばば、レベル二魔法が全く通じんぞ、ど、どうするのじゃ!?」

対策も思いつかずに逃げ続けるしかないのかと思った時に前方に希望が見えた!

すんごい速さでドラゴンの幼生のフレヤが飛んできたのが見えた。

フレヤは妾くらいの大きさなのだが、幼生とはいえドラゴンなのじゃ。

周辺の警戒に行っておったのじゃがナイスタイミングで帰ってきてくれたのじゃ。

あっという間に距離を詰めて来たぞい。

「フレヤごと撃って!」すれ違いざまにフレヤが言うたのが聞こえた。

直後、フレヤは体制を変えてその勢いのまま両足で熊にケリを入れたのじゃ。

更に「…Lv1フラッシュバン」と蹴りとほぼ同時に移動阻害の魔法を撃った。

爆音とともに熊の足は止まりフレヤに目標を変えた様に見えたのじゃ。

フレヤはヘイト管理が上手いのお。

充分に離れたと判断したのかケンジャ様がずっと待機中だった魔法を発動した。

「Lv4爆轟塵ばくごうじん!」と。

げぇっ、フレヤがいるのにもかかわらずレベル四魔法をぶっ放したのじゃ〜!

ドッカーーンッ! と周囲五十メートル程が炸裂したのじゃ。

逃げる妾達にも強烈な突風が押し寄せた。

鎧グマに直撃するのが見えたので妾は走るのをやめて成り行きを見守る。

魔法防御していない限り爆轟塵の直撃から逃れるすべはないのじゃ。

妾が知る限り最強の攻撃魔法じゃもの。

って言うかレベル三でも充分じゃったろうに…。

「まさか本当にフレヤごと撃つとは思わなかったわ…」とチマちゃん。

「ドラゴンはあの硬い鱗に覆われてぇ、

更に種族特性で魔法ダメージ九割カットだからぁ〜、

わたしの魔法程度ではぁ効かぬぞ〜」

その言葉通り、煙が薄れるとフレヤはケロッとした表情でこちらへやってきた。

「フレヤ役に立ったよっ!」と嬉しそうに尻尾を振っておるのじゃ。

「目は大丈夫なのかえ? 目は鱗ないじゃろ」

「普通のまぶたにも細かいけど鱗は付いてるよ!

それに普通のまぶたの他にも内側に透明な硬いまぶたがあるんだよ!

透明なまぶたの方はいつも閉じてるから不意打ちでも大丈夫!」

「む、無敵じゃのぉ…」

「おい〜、ズキ、いつまで抱えているんだ〜?」

言われて気づいたズキはケンジャ様を降ろしたのじゃ。

「あんたね、鎧グマなんか連れてこないでよ!

ゆじゅに何かあったらどうするのよ、一人で死になさい!」

「む、酷い…」

「姫を守るのが近衛でしょ、

旅の初っ端からゆじゅをピンチに陥れるなんて相変わらず失格ね。

って言うかケトシちゃんは何処に行ったのよ…。

あの子がいればかなり余裕に戦えたでしょうに」

「そう言えばあ奴先程から見ないのお」と妾も疑問に思う。

「ケトシならさっきぃ、お花を摘みに行くと言ってどこか行ったぞ〜」

「精霊のくせにもよおすのね…。まぁ、キャンプに戻りましょう。

ズキは鎧グマの肉切り分けて持ってきてね、今日の夕食よ」

「あうぅ…」

そしてキャンプに戻ると頭に花冠をした猫の姿…。

「にゃんにゃん、みんな何処行ってたんにゃ?

ケトシこれ作ったの可愛い?」

「ケトシちゃん…、お花摘みって文字通り本当に摘んでたのね……」

チマちゃんはガクッと膝を落としたのであった。

こうして妾の成人の儀へ向かう初旅は波乱の幕開けとなったのであった。


 遥か遠くの山の頂から一行を見つめる影があった。

それは紫の瞳を持った純白の狐だった。

遠目から見たのであれば、誰もがそう思うだろう。

しかし、どこかおかしい。その違和感は狐の大きさであった。

その狐の体長は二メートル以上もあったのだ。

狐の周りに対比するものがないために大きさを見まがえてしまう。

さらに尻尾は体よりも大きい。

…尻尾…それは九本もついていた。

巨大な九本の尾は、空に向かって扇状に広げられていた。

九本のうちの二本の尾は小さくそよぎ、

一本は激しい嵐にさらされているように大きくはためいていた。

そして「三人目が生まれる」と呟いたのだった。

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