事情聴取
「君は被害者の方々と親しいと聞いたんだけど、事件当日何か変わったことはなかったかい? 犯行が行われる原因について心当たりは? それと——」
俺は生まれて初めて警察から事情聴取を受けている。緊張感のある面持ちで年の離れた警官から次々と質問を受けて平然としていられるほど俺のメンタルは強くなかったが、それでもなんとか何も知らない風を装って、その場を乗り切ることに注力した。
「そう……特に心当たりはないと」
「は、はい……俺も、どうしてこんなことになっちゃったのかわからなくて」
「そっか……そうだよね、こんなことになっちゃったら、君も色々と大変だろう。マスコミにも付きまとわれるかもしれないけど、そうなったら警察に連絡してもらって大丈夫だから」
「あ、ありがとうございます」
よかった、なんとか怪しまれているそぶりはない。これならなんとかやり過ごすことができそう。危ない危ない——
「そういえば、事件の日はどこにいたのかな? 事件現場の付近で君を見かけたって目撃証言があったんだけど?」
「!?」
やっと終わると安堵していたところに、爆弾が放り込まれた。おそらく、俺が家から出てふらついてしまった時の光景を見られてしまったんだろう。その時の記憶はないし、警察相手に下手なごまかしが通用するとも思えない。
どうすればいい? 彼女に振られてショックを受けてたと伝えるべきか? でも、そしたら俺が真衣たちに危害を加える動機ができてしまう。なら、花蓮との予定通り家には行っていないと言うべきか?
でも、もし家から出ていたところを見られていたら、その証言が嘘だってバレてしまう。そしたら俺は疑われ、最悪逮捕される可能性だってある。どうすればこの局面を乗り切れるのかあれこれ考えても、一向にいい案は出てこない。
「どうしたの?」
答えに詰まる俺を警察は怪しむ。当然だ、ここで答えられないようじゃ、こいつがやったんだろうと思われたって仕方がないんだから。どうする、もういっそ、一か八かのかけに出てしまうしか——
「先輩は、彼女にフラれてしまったんです」
「か、花蓮!?」
窮地に立たされていた場面に、突然花蓮がやってきてそう証言した。それから花蓮は俺が家には行ったが彼女にフラれてしまい、ショックで公園でうなだれていた、その目撃証言もあるという風に伝えて、一応警察官を納得させたのかひとまず事情聴取は終わった。
でも、これで全てなんとかなったわけじゃないよな……。いや、今はなんとか乗り切れたことを喜ぼう。
「あ、ありがとう花蓮。で、でもどうしてここに?」
「先輩のことが心配だったので。それに、あのことを先輩の口からまた言わせるのが本当に嫌だったんです。だから、私が目撃者として証言したら警察も多少納得するかと思って」
「そうか……。でも、花蓮は大丈夫なのか?」
「私は大丈夫ですよ。バレるようなヘマをしないよう頑張ってきましたから」
「え、それってどういう……」
「先輩は何も気にしなくていいんですよ。それじゃあ先輩、明日も頑張って部誌を仕上げましょうね」
花蓮は俺の問いかけに応えることなく、小さく手を振ってそそくさと帰ってしまった。暗に、聞かない方がいいと伝えているのかもしれない。そうだよな、知らない方がいいことって、たくさんある。それを俺はつい昨日痛感したじゃないか。
だから俺はそれ以上追求することはしなかった。花蓮とはこのまま、何事もなく恋人としての関係を続けたかったから。それが正しいのかはわからない。でも、花蓮と一緒にいたいという気持ちは間違いじゃないと思う。
「……作業するか」
そして俺は、文化祭を成功させるために部活の作業を家で進めることにした。
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