特別なアレを使っても伝説のアレは制御できなかった


 ラキス達は森から山へ走った。

 山頂に着くとゴブリンの斥候スカウトを喚び、松明で明かりを確保する。


 山頂から陥没した巨大な穴を覗きこむと、

 そこでは眠っていたはずの古龍が、胴をうねらせて空を泳いでいた。


古龍アレ、浮いてないか?」

「浮いて……ますね」


 大蛇だと思ったら、まさか空飛ぶ蛇だったとは。

 だが翼も無く、どうやって空を飛んでいるのか。

 世の中は広い。まだまだ知らないことだらけだ。


 古龍の頭、その後ろあたりに人影が見える。

 乗っている……というより振り回されている。


「なんでしょうね、あの人影アレは」

「宙に浮く蛇でロデオとは珍しい趣味だ」


 腕を組んでしみじみと語るラキスの隣で、アリアが慌てていた。


「なんでそんな悠長なのッ!!

 古龍が目を覚ましちゃってんだよ⁉」


 全くもってアリアの言う通りなのだが、どうにも気持ちがついていかない。


 モンスターの声が空に響いたとき、ラキスもアークも「やられた」と思った。


 古龍はルシガーの手に落ち、手のつけられない状況を頭に浮かべた。


 なのに息せき切って駆けつけてみたらどうだ。

 古龍はいまだ山頂に居て、こともあろうかロデオに興じているではないか。


 つまり……拍子抜けしてしまった。


「で、ルシガーアレは何をしてるんだ?」

「光ってる手綱みたいなのアレが怪しいですね」


 手綱と言われて目を凝らすと、確かに古龍の頭のあたりが光っていた。


 しかし、あれだけのサイズの手綱……まさか普通の手綱ということはないだろう。


「なんか……特別な手綱アレか」

「きっと特別な手綱アレですね」

「で、特別な手綱アレを使っても古龍アレは制御できなかったと」

「みたいですねぇ。伝説の古龍アレですから」


 アークがなぜか少し胸を張る。


「さっきからアレアレうるさいっ!

 いいから、さっさと古龍アレをなんとかしようよ」


 そう言うアリアも釣られている。

 それはさておき、空中で暴れている古龍をどうするか。


 当然だが、攻撃する手段は限られる。


 あのサイズのモンスターで鱗まであるとなると、

 とても弓兵アーチャーの矢が刺さるとは思えないが……。


「一応、射かけてみるか」


 ラキスはゴブリンの弓兵に古龍を狙わせる。


 ヒョウと風を切る音と共に、矢が古龍へと走る。

 案の定、放たれた矢は体表を覆う鱗に弾かれ、穴底へと落ちていく。


 古龍は痛痒つうようすら感じていないのだろう。

 こちらを一瞥いちべつもせず、引き続きグネグネとうねるばかり。


「気づいてもいないようですよ。

 いやあ、流石は古龍ですね」


 さっきから、「古龍はスゴい」とばかりに自慢気なアークが鼻につく。


 まあ、気持ちはわからなくはないのだが。


 自分達が必死で封印してきたモンスターを、

 サクッと倒されたら、これまでの努力は何だったんだって話だ。


 さて、次にやれることは……。


「じゃあ、ボクが眠らせてみるよ」

「ああ。やってくれ」


 アリアは頷くと、サンドマンをんだ。


 古龍までは結構な距離がある。

 ここから眠りの砂を撒いても届かない。


 アリアさらに、ドライアドを喚び出す。

 ついつい忘れそうになるが、このドライアドは【高速飛行】のスキル持ちだ。


「よしっ。行っておいで」


 サンドマンを抱えて、ドライアドが空を飛ぶ。

 小型の妖精が二匹、空を飛んでいる様子に場がさらになごんだ。


 なかなかシリアスなテンションには戻れない。


 古龍は絶えずグネグネ動いている。

 妖精たちもなかなか照準が合わないようだ。


 それでもなんとか、二匹は古龍の近くで眠りの粉をサラサラと撒いた。


 暗闇の中でキラキラと光りの粒が見えた……気がする。


「どうだ、上手くいったか?」

「う、うん。多分?」


 アリアも自信無さげ。当然だ。

 遠目だし、松明の灯りじゃ照らしきれないし、絶対と言い切れる状況ではない。


「大丈夫。ちゃんと頭の上で撒けてますよ」


 アークだけは自信満々で言いきった。

 そういえばさっき、光る手綱もすぐに見つけていたことを思い出す。


「まさかお前、古龍アレがはっきり見えるのか?」

「え? はい。手綱もも見えてますよ。

 これくらいは見えないと守護者は務まりません」


「「マジか」」


 やってたよ。

 も見えずに守護者やっちゃってたよ。


 ラキスはアリアと目を合わせて肩をすくめた。

 言われてみれば、朝も夜も無く侵入者を撃退しているのだから夜目は大事だ。


 さて、効果のほどは……と見守るも、古龍にさしたる変化は見られなかった。


「眠りの粉もダメ、と」

「そうでしょう。そうでしょうとも。

 伝説の古龍ですからねぇ。うん、うん」

「ムカつくー! ……あっ」


 アリアが古龍を――いや、古龍に捕まっている人影ルシガーを指差した。


 古龍に振り回されている状況は全く変わっていないが、どうも様子がおかしい。


 フラフラしているというか、態勢が崩れているというか。


「眠りの粉が効いた、のか?」

「効いちゃったみたいですね」

「あのままルシガーが落ちたら、古龍はどうなると思う?」

「「「………………」」」


 嫌な沈黙が流れた。

 いま古龍が暴れているのは、ヤツが握っている手綱らしきものが原因だろう。


 原因が取り除かれたとき、ここに残るのは『目を覚ました古龍』だけだ。



   §   §   §   §   §



「なぜだ!? どうなっている!」


 ルシガーは混乱していた。

 モンスターにをハメたところまでは完璧だったハズだ。


 手綱を握り、いざ穴から出ようとしたらモンスターが暴れ出した。


 しかも、翼も持たないのに宙に浮くなんて。

 パッと見は、誰がどうみても巨大な蛇だ。まさか浮くとは思わない。


 それよりも問題は黄金のだ。

 たしかに口にハマっているし、手綱もしっかりと握っている。


 なのになぜ、このモンスターは支配できないのか。


 ルシガーは必死で手綱を握りこみ、振り落とされないようにするので精一杯。


 これでは王国を蹂躙し、帝国を支配することなど出来ようはずもない。


「認めぬ、認めぬぞ! 俺は!

 こんなところで終わるわけにはいかんのだ!!」


 多くの仲間を犠牲にしてここまで来た。

 この賭けに失敗すれば、彼らの犠牲も全て無駄になってしまう。


「これは……なんだ?」


 計画の崩壊に戸惑うルシガーの目に、光る粒子が飛び込んできた。


 その瞬間、突如として襲ってきた眠気。

 逼迫した状況にもかかわらず、意識が刈り取られそうになる。


「くっ! なぜ、こんなときに」


 慌てて空を見上げると、どこかで見た妖精がサンドマンを抱えて飛んでいた。


「こいつは……あのときの!!」


 森で攫った少年召喚士。

 アイツが召喚していたモンスターに違いない。


「ここに来て、この俺の邪魔をするか!!」


 あのとき、何が何でも殺しておくべきだった。

 などと、今さら後悔しても取り返しはつかない。


「おのれ! おのれーー!!」


 怨嗟の声を上げても、睡魔には抗えない。

 再びルシガーの意識は刈り取られ、二度と戻ることは無かった。



   §   §   §   §   §



「あ、落ちた」

「落ちましたね」


 古龍の頭から人影が落下していった。

 光の手綱も持ち主がいなくなったことで、その光を失っていく。


「ヴオオオオオオオオオォォォォォォォォ!!」


 己を縛っていたものが消え、古龍が大きく吠えた。


 もう暴れてはいない。

 その場で悠然と漂い、こちらの様子を窺っている。


「あのまま古龍アレを放っておく、という選択肢はないか?」

「ずっと、静かにしてくれる保証があればいいんですけどね」


 それはそうだ。

 こんな危険なモンスターを野放しにしていては、おちおち寝ることもできまい。


「……あっ!!」


 突然、アリアが大声をあげた。


「思い出した!

 古龍アレ、どっかで見たことあると思ったら……。

 プレシア姉さんのモンスターとそっくりだ!!」

「なるほど」


 そういうことは、もっと早く思い出してくれ。


―――――――――――――――――――――――

〚あとがき〛


 ここまで読んで頂きありがとうございます。

 本作は「第4回ドラゴンノベルス小説コンテスト」参加作品です。


 8/15まで読者選考期間となっております。


「続きが気になる😄」、「ラキスかっこいいな✨」、「アリア頑張れ!👍」、「アーク派もいるぞっ😘」「ゴブリンさいこー!!😈」、「ルシガーあっけないな💀」と少しでも思って頂けましたら、★を投げて頂けると嬉しいです。


 皆様のご協力を伏してお願い申し上げます。

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