ドラゴンのようなゴブリンだからドラゴブリン
ラキス、アリア、アークの三人が、古龍について話し合っている。
そこへ音も立てず、気配も無く、一匹のゴブリンがスッと現れた。
「む、戻ったか」
ゴブリンの
召喚状態を維持したままでの単独行。
気配遮断、忍び足、上級開錠技術。
このゴブリンのスキルは潜入に特化している。
こいつが宮廷、さらには王宮へと潜り込み、
アリアの手紙をプレシアへと届けた。
「ボクも行きたかった……」
ゴブリンを行かせる、と伝えたときと同じようにアリアが文句を言う。
「お前じゃ、姉の部屋にたどりつく前に捕まる」
「そもそも人が忍び込める場所じゃないですし」
「それはわかってるけどさぁ」
理解はしているが、納得はできない。
そんな顔でアリアは口をとがらせていた。
「だいたい行ってどうするんだ。
姉に挨拶でもするつもりか?」
まだ里心が抜けないのか、と暗に伝える。
「そんなつもりはないけどさ。
プレシア姉さんの顔、
遠くからでも見たいって思っただけ」
もう二度と会えないかもしれない。
別れの言葉も交わせていない。
そう思えば顔くらい見たいとも思う、か。
弟と突然の別れを強いられたラキスにも、彼女の気持ちがわからないではない。
「……即位式」
「え?」
「即位式なら、王女も公の場に出るだろう」
「……うん。そっか、即位式か。そうだな!!」
姉に会える、とまではいかないが、遠くから見るくらいの願いは叶うだろう。
「目標が出来たのは良いことです」
そう同調するアークの顔は、まったく『良いこと』という顔をしていない。
「ですが、ルシガーの野望を止めなくては、
王国も即位式どころではなくなりますよ」
「……ううぅ」
もしルシガーが古龍を手に入れたなら、真っ先に支配されるのはこの王国だ。
逆にルシガーが古龍を支配出来なくても、目覚めた古龍が襲うのはこの王国だ。
どちらにせよ、即位式など悠長なことをしている余裕は無いだろう。
この王国の未来は、非常に危ういところまできている。
「でもでも!
それはプレシア姉さんに手紙を届けたわけだし」
アークが右手を額にあて、「ハァ」とこれ見よがしなため息をつく。
「それは打てる手のひとつでしかありません。
王国が立場上、ヤツに意見を出来なかったら?
ヤツが王国の言うことを聞かなかったら?
次善の策は、常に用意しておく必要があります」
正論すぎてアリアも反論の余地がないようだ。
少しうつむき「そうだけど」とつぶやいている。
「そうアリアをいじめるな。
別に人任せにするつもりで言ったわけじゃない。
ただ、平穏な未来に期待したいだけだ」
ラキスがフォローを入れると、アークは眉根を寄せた。
「ラキスさんはアリアさんに甘すぎます!」
「お、おう。……すまん」
あまりの剣幕に思わず謝ってしまった。
あの山から戻ってから、アークは少し変わったようだ。
喋り方は今まで通り。
だが、ハッキリ言うようになったというか、
猫を被っていたのが素になった感じがする。
「さて、次善の策についてですが……」
「俺たちのレベルアップ」
「ご名答。正確にはラキスさんとアリアさんのパワーアップです」
これを策と呼ぶのか、という疑問はあるが。
前にアークが言っていたとおり、人を集める、というのは現実的ではない。
禁足地、踏み入った者は二度と帰れない。
そんな場所を護るために集まる者などいるまい。
ならば、今ある戦力の増強は当然の選択。
「なんでボクとラキスだけなの?
アークもパワーアップした方がいいじゃん」
「時間があれば、そうしたいところですけどね。
剣技の成長曲線はどんどん緩やかになるんです」
アークの剣技はすでに一定以上のレベルにある。
これ以上を求めるのであれば、相応の時間とコストが必要になってくる。
つまりパワーアップを図るには効率が悪い。
「その点、ラキスさんとアリアさんなら――」
「そっか! モンスターを育てればいいのか!!」
アリアは飛び跳ねるように体を起こし、瞳をらんらんと輝かせている。
「そのことで、アークにひとつ頼みがある」
「なんでしょう?」
ラキスが「サモン」とつぶやくと、一匹のゴブリンが隣に姿を現した。
そのゴブリンは、ほかのゴブリンとは少し違う。
額には小さな二本の角。
背中には翼竜のような翼が一対。
紅葉色の肌には鱗のようなものがある。
「こいつは、赤と白のドラゴンを
――――――――――――――――――――
【名称】ドラゴブリン
【説明】
鱗はあるがそれほど堅くない、翼はあるが飛ぶことはできない。
「あれはドラゴンなのか? ゴブリンなのか?」
「そりゃおまえ、ゴブリンだろうよ」
「うわっ! 火を吹いたぞ!! やっぱりドラゴンじゃないか」
「火を吹けばドラゴンってぇなら、あそこの旅芸人もドラゴンってことになるな」
【パラメータ】
レアリティ C
攻撃力 C
耐久力 C
素早さ D
コスト B
成長性 A
【スキル】
火炎の息吹
炎耐性(中)
――――――――――――――――――――
「ああ、覚えていますよ。
たしかアリアさんが盛大にお腹を鳴らしたときの」
「その話はいま
顔を真っ赤にしたアリアが、アークに全身で抗議の声を上げている。
「こいつに剣技を教えて欲しい」
「モンスターに剣を、ですか?」
「弓は時間をかければ的に当たるようになったが、
剣は相手がいないことには練習にならなくてな」
剣術を学んだことも無いラキスでは、
ゴブリンに剣を仕込むことは出来なかった。
だからずっと
野良で契約したゴブリンは色々いるが、元々、戦闘技術に特化した種ではない。
契約したゴブリンのほとんどは、原始的な戦い方をするただのゴブリン。
たまに変わったヤツも出てくるが、
生き残れば勝ちという防衛戦ばかりの頃は、前衛は
だがこの前は、その弱点を突かれたかたちだ。
もし剣士がいたならば、易々とルシガーを取り逃すことはなかっただろう。
ラキスの隣で、アリアがゴブリンの弓兵や大楯兵について説明している。
モンスターを育成する、という突飛な話。
最初のうちはアークも怪訝な顔をしていたが、
最後は無理やり納得することにしたらしい。
「なるほど。わかりました。
モンスターが剣術や弓術を習得するとは。
私からしたら、もはや怪奇現象ですよ」
ラキスさんが全ての元凶ですけどね、とアークが肩をすくめる。
なんにせよ、納得してくれたのならいい。
「コイツはここに置いていくから、みっちり鍛えてやってくれ」
ドラゴブリンの頭をポンポンと叩く。
「&:%○■!※♭×☆!!」
気合の入った返事が戻ってきた。
本人もやる気満々だ。
「じゃあ、ラキスはボクに付き合ってね!」
「そのつもりだ」
アリアはニッコニコの笑顔で、ラキスの外套の袖を引いた。
かたや、アークは再び目を丸くしている。
「フフッ。召喚を維持したまま、
自分は別の場所でパワーレベリングですか。
薄々感じてましたが、あなたもバケモノですね」
やや引きつった笑いをしていたが、
ラキスはいつも通り、気にしないことにした。
「このあたりでモンスターが多い場所は?」
ラキスの問いに、アークが指差したのは、先日も登った古龍の眠る山だった。
「あの山にある洞穴がオススメです。
古龍が眠っているからでしょうか……。
ほかよりもモンスターが少し狂暴ですけど」
ラキスさんは問題ないです、とアークは笑った。
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