【完結】ゴブリンしか召喚出来なくても最強になる方法 ~無能とののしられて追放された宮廷召喚士、ボクっ娘王女と二人きりの冒険者パーティーで無双する~
石矢天
第一章 ゴブリンを嗤うものはゴブリンに泣く
ゴブリンしか召喚出来ない召喚士は宮廷を追放された
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2022/9/15
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§ § § § §
「ラキス・トライク。貴様は今日限りでクビだ」
麗らかな春の日差しが窓から差す、大きな部屋。
宮廷召喚士のラキスは、自身の執務スペースで優雅に紅茶を
宮廷召喚士とは、その名の通り宮廷に仕える召喚士のこと。
国の中枢たる宮廷を護り、王族の住まう王宮を護るために選ばれた精鋭である。
ラキスは声の主をチラリと
何事も無かったように再び紅茶に口をつける。
「貴様、ワシの話を聞いているのか⁉」
そう言って目を吊り上げているのは、
白髪交じりの金髪をオールバックにした男。
顔を真っ赤にして声を張り上げている。
ここは宮廷召喚士が集まって仕事をするために用意された場所。
男から漂う香水――甘いムスクの匂い――とは裏腹に、部屋の空気は
だが今現在、この部屋にいるのはラキスと男のふたりだけ。
ほかの宮廷召喚士たちはしばらく見ていない。
宮廷召喚士の執務より、社交界でのロビー活動の方がお忙しいようだ。
ラキスは表情も変えず、紅茶のカップを静かにテーブルへ置く。
「聞こえている」
「ならば、なんとか言ったらどうだ!」
「なんとか、とは?」
「ふん、可愛げのないヤツだ。
クビと言われれば理由くらい聞くものだろうに」
男は
彼の名はロゴール。
宮廷召喚士を束ねている宮廷召喚士長である。
平たくいえば、ラキスの上司にあたる。
ちなみに敬語は『知らない』ことにしている。
「ふむ。では、なぜだ?」
「貴様がゴブリンしか召喚できない無能だからだ」
「そうか」
沈黙がふたりを包み込む。
窓から吹き込む風。
カップの紅茶の表面がユラリと波を打つ。
彼の言う『ゴブリンしか召喚できない無能』というのは大きな解釈違いだ。
現に、ラキスが宮廷召喚士に選ばれたのは全てゴブリンの活躍によるもの。
だが、世に貴族と呼ばれる者達の考えはちがう。
召喚士の格を決めるのは、
『いかに強大で希少なモンスターを召喚出来るか』だと本気で信じている。
それはドラゴンであったり。
フェンリルであったり。
ペガサスであったり。
希少性はもちろん、力強さや優雅さを重要視する価値観が主流だ。
いかに希少でも、不死族や虫族のモンスターはその外見から
野山に湧いて出るようなモンスターに至っては無価値という扱いだ。
コボルトしかり。
スライムしかり。
もちろん、ゴブリンしかり。
ゆえにゴブリンしか召喚出来ない召喚士は、ここでは『無能』と揶揄される。
あきれて言葉も出ない。
だが、他人の価値観を否定してもロクなことにはならない。
話は終わったとばかりに、ラキスは紅茶のカップに手を伸ばす。
ロゴールが鼻の穴をふくらませ、こぶしをワナワナと震わせていた。
「……出ていけ」
先ほどまでの大声はどこへいったのか、
彼の口からこぼれたのはとても小さな声。
「ん? なにか言ったか?」
「今すぐ、この部屋から――。
いや、この宮廷から出ていけ!!」
かと思えば、今度は宮殿中に響き渡るかのごとき怒声を張り上げる。
彼はどうにも情緒が不安定なようだ。
きっとストレスが溜まっているに違いない。
誰のせいか、は知らないが。
「今日限り、ではなかったのか?」
「うるさい! 黙れ!
ワシが出ていけと言ったら、すぐに出ていけ!!」
「そうか…………。
これを飲み終わってからでもいいか?」
手に取ったカップを口元へと運ぶラキスを、ロゴールが苦々しげに見つめる。
取り乱したことを恥じているのか、
彼は大きく息を吸って呼吸を整えた。
「それを飲み終わったら、さっさと荷物をまとめて出て行くのだぞ」
「わかった。…………ああ、ちょっと待ってくれ」
ローブをひるがえし、部屋を出ていこうとするロゴールを呼び止める。
振り返ったロゴールは、なにかを期待している目をしていた。
「ん? どうした?
やはりクビは勘弁してくれ、と泣きつくか?」
「いや……。
やっぱり、これを吸ってからでもいいか?」
懐から葉巻を取り出すラキスを前に、ロゴールが目を見開く。
「勝手にしろ!! 平民あがりのクズが!!」
バタンッと勢いよく扉を閉めて出て行くロゴールの背を見送った。
「最後のが本音……、いやどちらもか」
宮廷にあがれるのは貴族のみである。
宮廷召喚士の面々もお偉い貴族様ばかり。
あれは侯爵家の御子息だ、それは公爵家の御孫様だという具合だ。
ラキスも貴族ではあるが、その位は騎士爵。
武功の恩賞として授かった一代限りの爵位。
平民出身の成り上がり者。
敬語を『知らない』という突飛なウソが通用したのも、この
高位貴族にとって平民は別世界の下等な生物。
敬語を知らなくとも「平民なんてそんなものか」で納得してしまう。
そもそも、ラキスが宮廷召喚士になったのは、
宮廷なら楽な暮らしが出来ると聞いたからだ。
なのに宮廷に入ってみたら、政治だ、派閥だ、と息苦しいばかり。
急な話だが良い機会だ。
宮廷から解放されたら、もっと楽でダラダラ生きていける場所を探そう。
ラキスは自分がいる大きな部屋を見渡す。
人は少ないのに広々とした間取り。
贅沢を通り越して無駄の極みだ。
これだけのスペースがあれば、家も無く暮らしている民が何人寝られるか。
豪奢な備品はお貴族召喚士の面々が、めいめいに持ち込んだもの。
「仕事場の環境を快適にする」などと
ラキスの私物はほとんど無い。
ものの五分もあれば、荷物をまとめて宮廷を出て行くことも可能だ。
葉巻の先をナイフで器用にカットすると「サモン」とつぶやく。
ラキスの呼び掛けに応えて、傍らに一匹のゴブリンが現れた。
背丈はまだ幼い子どものよう。
ピンと尖った耳、クチバシのように高い鼻。
琥珀の如き金色の瞳がギョロリとラキスを見る。
その手には松明を持っていた。
――――――――――――――――――――
【名称】ゴブリンの
【説明】
暗い場所を好むゴブリンたち。
その集団の戦闘を行くのは松明を持った斥候だ。
松明で片手がふさがっている彼らは慎重だ。
敵を見つけたら、生きて敵の存在を仲間に伝えなくては役目を果たせないから。
「前ヨシ、右ヨシ、左ヨシ、後ヨシ、上ヨシ。
……念のためだ。前ヨシ、右ヨシ、左――――」
【パラメータ】
レアリティ E
攻撃力 E
耐久力 E
素早さ E
コスト A
成長性 C
※ S 規格外にスゴイ
A 超スゴイ B スゴイ C 普通
D ニガテ E 超ニガテ
F 限りなくゼロに近い
※ コストは『コストパフォーマンスの良さ』
【スキル】
消えない松明
気配察知
過敏な嗅覚
――――――――――――――――――――
ゴブリンの松明で葉巻に火を点けると、煙を口の中で転がした。
力強くスパイシーな刺激が口の中に広がる。
葉巻は味わいが命だ。
決して煙を肺に入れるようなバカな真似をしてはならない。
役目を終えたゴブリンは静かにその姿を消した。
大陸広し。だが、葉巻に火を点けるために召喚術を使う者がどれほどいるものか。
フゥー、と紫煙をくゆらせると、
吹き込んだ春の風が煙を散らしていく。
ラキスはそういえば、と気づいた。
「退職金、貰ってねぇな……」
再び「サモン」とつぶやく。
先ほどの斥候とは違う、影の薄いゴブリンがフッと姿を現した。
ゴブリンはラキスから指示を受けると、足音ひとつ立てずに部屋をあとにする。
その一時間後、葉巻を吸い終わったラキスは荷物をまとめて宮廷を立ち去った。
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