裏話6
どうやら、あの女子生徒が他の生徒と一緒に学園に連絡したようで救援が来たのだと知った。
残念と思う反面、やっぱりなとも思った。
こっちも怪我をしているのだが、普通に歩けていたので手当は無しと判断されてしまった。
後で外出許可取って医者行こう。
痛み止めくらいは欲しい。
いや、ほんと全身めっちゃ痛いんだよ。
骨が折れてるかもと、さすがに駄々を捏ねてみたが聞く耳すら持たれなかった。
でも、俺よりも他の重傷者の方が優先順位が高いらしい。
そりゃそうかと思う。
なにしろ、これからの国や世界を担っていく人材たちだ。
何人か死んだけど。何人かは生き残った。
俺とは命の価値が違う。
森の出口は当たり前だが、駆けつけた軍やら救急隊やらでごった返し、騒然となった。
搬送されていく生徒達の中には、あの女子生徒やモヒカン、ドラゴンに挑んだ奴もいた。
三人は俺に気づいて声を掛けようとしてきたが、隊員たちに急かされて救急車に押し込められ搬送されていった。
その後、俺はやってきた他学年の教師達に捕まり、他の無事だった生徒達と共に学園内の空き教室にて数時間に及ぶ尋問を受けることになった。
さすがに俺がドラゴンを倒したのは変えられない事実なので、一緒に尋問を受けていた生徒達はそう証言してくれたし、俺も嘘だと思うなら農業高校に確認をとってくれ、そういう授業があって倒し方を知っていたから倒せたと説明した。
そうして、無事確認がとれたのか、俺も解放された。
既に日も暮れて、空には星が瞬いている。
帰って鍋作るか。
キノコ鍋。
頭の中も口も、キノコ鍋一色になる。
「お勤めご苦労様」
生徒玄関から出て、少し歩いたところで声をかけられた。
「……どうもッス。会長」
金髪碧眼の上級生が苦笑しながら俺に近づいてくる。
「派手に暴れたようだね」
「今回はそんなに暴れてないですよ。
それより、まだ毒殺されて無かったんですか?」
「あははは。言うねぇ。
君のお陰でなんとか生きてるよ」
「……冗談ですよ」
「知ってる。
ま、そんなことより。そんな満身創痍で病院に行かなくていいのかい?」
「だって軽傷扱いで救急車乗れなかったんですもん。
あ、そうだ。会長、痛み止め、なんでもいいんで持ってないですか?
もう全身痛くって」
そう言うと、会長は自身の携帯端末でどこかに電話をかけ始めた。
そして、電話の相手へ何か話すと携帯端末を切って俺を見てくる。
「まだ借りを返していなかったからな。
これで返せるとは思っていないが、受け取ってくれ」
そう言って、医者を手配してくれた。
ここでしばらく、俺の事を動かさずに待たせているように言われたらしいので、近くにあったベンチへ座る。
会長も隣りに座った。
あ、説明役兼目印か。
「借り、ですか?」
俺は沈黙もどうかなと思って、そう口にした。
「そう、俺の命を助けてくれた借りだ」
彼が初めてコンタクトを取ってきた、あの日のことを言ってくる。
「そんなの。あの時も医者を手配してくれて処置してくれたじゃないですか」
「そんなの借りを返したことにはならない。
そもそも君を取り巻く現状すら変えられないでいるしね」
彼の中ではそういうものらしい。
まぁ、いいや。善意は有難く受け取っておこう。
しばらくして、学園の入口に救急車、ではなく。
なんて言うか明らかにカタギじゃない車が停まって、中から医者が降りてきた。
医者のデリバリーかよ。すげぇな金持ち。
その場で簡単な問診と診察を受ける。
結果は、内臓破裂だった。
骨折じゃ無かった。
今日の被害者達とは別の病院に緊急搬送され、手術を受けることになった。
結果的に数日間、学校を休むことになってしまった。
入院先では数日間で回復したことに、とても驚かれてしまった。
治療費諸々は会長持ちだった。これも借りを返すということに含まれているらしい。
数日後、退院した俺はすぐに小屋に向かった。
その日は休日だったので、部活動をしている生徒以外校舎にはいなかった。
小屋に着くと、退院祝いとして婆ちゃんが送ってくれた新米や味噌、梅干しなんかが届いていた。
よし、宴だ!
新米だ!
新米を食べまくろう!
キノコ鍋も作ろう!
そして退院初日に俺は、自分へのご褒美と称して暴飲暴食というなのパーティーを開催した。
土鍋で炊いた白米に、魔法袋に入れていたお陰で悪くならずに済んだキノコを使って作った鍋。
うんうん、我ながら上出来だ。
「それじゃ、いただきまーす!!」
俺はガツガツと白米にがっついた。
そして、キノコ鍋でそれを流し込む。
んまぁい♡
病院食はどうにも味気なかった。
いや、用意してくれた人たちには感謝しかないけど。
それとこれとはまた別だ。
「はあ、しあわせだぁ」
これを食べたら畑の雑草をなんとかしないと。
水もやらないと。枯れてるかなと思ったらそうでもなくて安心した。
些細な、小さな幸せを噛み締めていると来客があった。
「……誰?」
この学校の生徒であることは制服で一目瞭然だ。
それは、藍色の髪をした地味目の生徒だった。
「は?! 俺だよ、わすれたのか?!」
俺の言葉にその生徒はそう返してきた。
しかしすぐに何かに気づいたのか、指をパチンと鳴らす。
するとその姿が変わり、あの荒野をバイクで爆走してそうなモヒカンが現れた。
「あ、モヒカンさんでしたか」
「思ってた以上にすっとぼけたやつだな、てめぇ。
あと俺の名前はモヒカンじゃねえよ?!
マレブランケ!!
未来の魔王予定のマレブランケだ!
他のやつからはブランって呼ばれてる」
「はぁ。それでそのブランさんが、今日はなんの御用でしょうか?」
俺が訊ねると、モヒカンことブランがずいっと果物の缶詰やらが入った箱を渡してきた。
「生徒会長から聞いた。今日が退院だってことも。
だから、その」
「あー、借りを返しにきたってやつですか」
「お見舞いとか退院祝いって言え!」
同じだろうに。
「いや、その、助けてくれたじゃん、お前。
だから、ウチの親もお礼言っとけって五月蝿いし、だから言いに来たって言うか。
その、ありが」
「ま、ちょうどいいか。ブランさんせっかく来たんだしご飯食べてく?
実家から届いた新米だから美味いよ」
言葉の途中だったが、俺は遮ってそう提案する。
たしか予備で皿があったはずだ。
汁椀も念の為に予備を置いといて正解だった。
「え?」
「あ、そうだついでに聞いとこうかな。
なんでモヒカン姿なんてしてるの?
というかどっちが普段のブラン?」
「……変か?」
俺の質問には答えず、彼はそう返してきた。
「変っていうか、古い」
正直に言うと、なんか物凄くショックを受けていた。
そこからご飯を食べながら聞いたところによると、ブランはあの見た目のため舐められることが多かったらしい。
しかし高校では舐められてはダメだと考え、あの格好を選んだらしい。
高校デビューというやつである。
なんていうか、色々極端な高校デビューだ。
「それに、タバコ吸ってないのに吸ってるって疑われたことを考えると逆にデメリットでしょ?」
「へ?」
「ん?」
「わかるのか?」
「わかるっていうか、俺タバコの臭い、とくに嫌いだから。
吸ってたり、当人が吸ってなくても家族が吸ってる場合とかすぐにわかるくらい臭いには敏感なんだよねぇ。
ブランさん、吸ってないでしょ。臭いしないもん。
でも、疑われたってことは、箱か中身を所持してたのかなぁってことになるし。
それを踏まえて考えると、手荷物検査かなんかで慌てた誰かがブランさんの鞄にそれを突っ込むかして押し付けたとかかなぁって思ってた」
「すげぇな、お前」
ということはちょっとは当たっているようだ。
「あのドラゴンも倒したし。
入試の時のことも考えても相当実力あるだろ。
つーか、なんでこんなとこに居るんだよ?
寮には帰らないのか?」
「あははは。
世間の風は底辺層にはとても厳しいということですよ。
未来の魔王様?」
説明することですら面倒だ。
勝手に調べればいい。
「そういえば、お前、名前は?」
唐突に、ブランが言った。
「知らないんですか?
この学園じゃゲラウトヒアって呼ばれてるんですよ?」
もしくはただのヒアだ。
悪友達のように俺は誰にも名前を呼ばれなくなっていた。
俺の言葉を正確に理解して、ブランはそれ以上は何も聞いてこなかった。
そこからは話題を替え、そこそこ会話が弾んだ。
その会話の中で知ったのだが、なんでも近々クラス替えがあるらしい。
先日の授業で生徒の数が減ったためだ。
と言っても、俺には関係ない。
どのクラスになろうが、俺への扱いは目に見えているからだ。
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