イベントのお誘い。



 コールして三○秒程、メカちゃんに通信が繋がる。


『…………ふぁッ、ふぁぃあ!?』

 

「あ、メカちゃん? えっと、今大丈夫かな?」

 

『だっ、だだだだだいじょぶぶぶ』

 

「……ダメっぽいな? 後で掛け直した方が良い?」

 

『だだだだぃじょーぶぅぅぅう! びっくりしてるだけなのー!』


 元気いっぱいだ。

 

 何故か慌てて、でも何やら嬉しそうなメカちゃんに話しを聞くと、まぁメールの通りに『釣り』と言うレジャーへのお誘いだった。

 

 その文化自体は知ってる。専用の道具を用いてお魚を狩猟する行為であり、今では極一部の都市でレジャースポーツとして親しまれる遊びだ。

 

 僕的には天然物の食材である『生きた魚』を使って遊ぶなんて、勿体無いし恐れ多いと感じる行為だ。

 

 でも、ウオナミで食べたオスシの値段を見る限り、養殖物であればお魚の値段は釣りが楽しめるくらいに落ち着いてるのだろう。


「メカちゃんの兄弟やご両親も来るの?」

 

『えと、あの、ムクとメカだけ…………』


 シリアスに視線を送る。『ムクとは?』って意味だ。シリアスは『スーテム家次男。末っ子』と教えてくれた。僕にアンダーベルトの使い方を教えてくれたあの子だな。しゅげぇぇええええじゃ無い方だ。一人称が僕と一緒で「ぼく」な子だ。


「お父様もお母様も、来ないの?」

 

『……ぅん。えと、ね? チケット、余ってて、そのっ』


 事情を聞く。そも、古代文明ならいざ知らず、現代に於いては釣りなんて管理された場所以外では楽しめない。

 

 釣り専用に作られたビルの中だとか、都市外のすぐ側に作られた海上施設だとか、それら特別な場所でしか遊べないのだ。

 

 何故なら海にだって野生のバイオマシンは居る。好き勝手に船を出したりすれば、あっと言う間に死んでしまう。だから管理されて安全を約束された場所で無いと、一般人は入れないのだ。

 

 なので、この海洋都市サーベイルに於いても、フィッシングとは自由気ままに楽しめないのである。

 

 とは言え、大仰に説明して見せても、つまるところチケット制のアミューズメントって事だ。

 

 そこまで超高額って訳でも無く、まぁお高くは有るけど大人一二○シギル、子供四○シギルで購入出来るチケットで遊べる値段設定に成ってる。それで、何故かそのチケットが余ってるらしい。


『えと、パパが、会社のあれで、えっと…………』


 一所懸命にお話しするメカちゃんの事情を要約すると、まず同じスクールに通う家庭の奥様方が集う『主婦会』なる集団が居るらしくて、その主婦会に参加してる奥様方がちょっとずつ会費を集めて積み立てして、時折こうやって子供達にアミューズメントのチケットなどを揃えて遊びに行く事があるらしい。主婦会、素敵な組織じゃん。

 

 ちなみに何故主婦会って名前なのかと言えば、発端がママ友の集いだかららしい。


「お母様達がチケットを用意してくれたんだね?」

 

『うんっ♪︎』


 で、スーテム家の子供達にも、主婦会がもよおすイベント、『遊び会』のチケットが配られた。子供が四人居るのでチケットも四枚だ。

 

 今回の遊び会はそのままフィッシングレジャー施設で遊ぶイベントで、今日のお昼がそのイベントなのだそうだ。まさかの当日。

 

 でも子供四人でチケット四枚なら余ったりしない。けど、此処でお父様も何やら、別のイベントのチケットを持って来てしまったらしい。

 

 会社の付き合いで貰って来てしまった『バイオマシン見学会』チケット。数は二枚。期日は今日。つまりブッキングしたのだ。

 

 兄と姉が狂乱。僕のせいでバイオマシン好き好きスイッチが入ってた二人は、遊び会など知るかボケと言わんばかりに食い付いた。


「えーと、それでつまり、お兄ちゃんとお姉ちゃんはお父様に連れられて、バイオマシン見学会に行っちゃったと。だからチケットが余った訳だ」

 

『…………ぅん』


 本当はお父様が今日の付き添いをするはずだったのだけど、バイオマシン見学会の方に二人を連れて行っちゃったから、お母様が付き添いを担当せざるを得ない。

 

 しかしお母様は今日、お父様に子供を任せられるはずだったから、予定が入ってしまってる。主婦友達と何やらエステツアー的な物を予約してしまってる。

 

 そこで、お母様は思い出した。つい先日、大人並に頼れて、子供用チケットを使って子供の付き添いが可能な子供傭兵が居たと。

 

 そう、僕である。

 

 ちなみに僕が参加しない場合、残念だけどメカちゃんとムク君は遊び会不参加になる。付き添いが居ないので。

 

 あと追加で事情を補足するなら、親御さん用のチケットは当日に現場購入が決まりらしい。

 

 何故なら両親共に付き添うのか、どちらかだけなのか家庭によって違うし、日によっても違うから。決まった数のチケットを用意する方が非効率なので、当日に必要な分だけ自分で買う事になってるそうだ。


「つまり、子供用チケット余ってるから付き添い兼参加者としてどうかって事ね?」

 

『ぅんっ♪︎』


 つまり依頼だな? 仕事は子供達の付き添い役。報酬は遊び会に参加する権利。ってところかな。

 

 チケットは四枚で、上二人がバイオマシン見学会に行ってしまったなら余りも二枚。僕とネマでピッタリなのか。

 

 そう思ってネマを見ると、首を横に振る。…………ネマ?


「…………きょぅ、は。………………おべん、きょー、しゅる」


 仕事が無いなら、免許試験の勉強をすると言うネマ。マジか。良い子じゃん。見直したよ。

 

 しかしそうなると、チケットが一枚余るな。シリアスを見ると、シリアスも首を横に振る。


『シリアスはコレでも、推定二○歳。人権が発生してるとは言え、児童用チケットでの入場は不適切。更に言えば、シリアスは擬人化状態で外出する時にバトラの存在が必要不可欠である為、恐らくは遊び会の場に於いて相当に。よって、シリアスの付き添いは非推奨。そもそも、シリアスのコックピットにバトラを入れるのは、些か無理がある』


 だそうです。ちくしょう。デートしたかった…………。


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