要らない経験。



 休日の朝から、クエスト含めて一時間程度しか経って無いけど、VRバトルのシステムは落ちて、シリアスのモニターには整備屋サンジェルマンで作業するおじさんが映ってる。

 

 朝も早くからおじさんは働き者だ。多分スラムで一番働いてる人だ。

 

 営業許可は持ってるけど正規店では無い闇店舗型で、でも持ってる権利は上級市民権で、都市と水道契約までしてる。まず市民とは稼ぎが違う。


「ごめんね、ターラ。……いや、もうタクトで良いか」

 

「いや、念の為にターラで頼む。…………マジで知り合いに見られる可能性が怖いわ。お前何時もこんな経験してたのかよ」

 

「僕の気持ち分かってくれた?」

 

「次からマジで笑うの止めるわ。シャレにならん」


 で、僕の謝罪は、女装までして乗ったのに、目的の手に汗握るマシンバトルを経験出来なかった事について。完全にタクトの丸損だ。


「いや、良いよ。今日のがレアケースだってのは流石に分かるしな」

 

「うん。取り敢えず、次も予定合えば乗せるから。…………女装必須だけど」

 

「て言うか、お前こそさぁ、身バレ気を付けろよな。お前が俺を道連れにするって言うなら、俺だってお前の不注意でバレたら、お前を道連れにするからな」


 うん、本当にマズった。

 

 そうだよね。最初に傭兵じゃ無くて実機かつ免許持ちってだけに留めてたのに、教導した後に傭兵である事を相手に教えたつもりになって暴露してしまった。完全に僕の失態だ。


「それで、今日はどうするんだ?」

 

「んー。ネット漁って、シリアスのカスタムについて考えようかなぁ。シギルとバトリーの課金レートは百対一だけど、ゲーム内での価値はシギルと等価だから、こっちでカスタムの計画立てても向こうでそのまま流用出来るんだよ」

 

「なるほどなぁ。つまり、向こうで三○○○万バトリー使ったカスタムは、現実でも三○○○万シギル掛かるのか」

 

「そう言う事。あと、望み薄だとは思うけど、ポロンちゃんからの依頼待ちって意味も有るかな?」


 口にした通り、望み薄だと思ってるけど。

 

 だって、ライドボックスが買えるくらいの小金持ちで、でもポロンちゃんが未教導の素人って言うなら、やっぱり僕の予想は正しく、荒くれ者の傭兵に娘を任せたくない親御さんの意向が有るんだと思う。

 

 なら、スラム孤児にも依頼なんてしたく無いはずだ。基本的にスラムの住人は無法者で、都市管理システムが管理し切れないスラムに生きる人間を、グレーとブラックを反復横跳びで生きる様な奴らを信用して良い訳が無い。

 

 僕だって相手の立場なら依頼なんてしない。スラム孤児に依頼を出すくらいなら、まだギリギリ社会的信用のある傭兵に依頼する。


「…………下手したら、女装趣味で鬼クオリティを叩き出すマジモンの変態だと思われるもんな」

 

「止めてよ。なんでそうやって僕の心を抉ってくるの。楽しい? 僕イジメて楽しい?」

 

「ごめんて」


 そうだね。スラム孤児で女装癖の変態なんて、二重苦だね。しかも傭兵が信用し切れなくて依頼して無いのに、僕は成り上がりの現役傭兵。うん、三重苦だね。


「まぁ、今日か明日までにでも依頼が来ないなら、ダメって事なん--」


 そこで、端末に通知。

 

 僕の言葉を遮る形でピピッと鳴った端末を操作すれば、傭兵ギルドからのショートメッセージだ。

 

 ちなみに、これだけの時間が有れば僕だって端末の操作を覚えるのさ。もう自分で操作出来るからね。


「…………うそっ、さっきの今で、教導依頼? もしかしてポロンちゃんの親御さん? 即決したのッ!?」

 

「マジかよ、剛毅だな」


 ギルドから来た通知に、僕宛てに来た依頼の詳細が記されてる。

 

 依頼人はアズロン・アルバリオさん。依頼内容は娘に対するバイオマシン操縦の教導。方法等は依頼人と応相談だけど、基本は僕に任せる形。

 

 報酬は一日当たり四○○シギル。傭兵視点で見ると安いけど、市民視点だとかなり高額だ。

 

 バイオマシンの戦闘機免許を狙った教導なんて、一日二日で終わる物じゃない。

 

 ポロンちゃんはVRバトルって言う場所で、失敗して何処を壊しても大丈夫って感覚で、情熱を持って熱心にやったから、まぁまぁ動かせる様になったんだ。普通なら一週間から一ヶ月は使う。

 

 仮に、休日を入れて週休二日の、月に二○日を教導に使えば、僕は月に八○○○シギル稼ぐ事になる。中級市民の月収の二倍どころか、三倍に迫る収入だ。


「…………やっぱお前、機兵乗りライダーの先生でも稼げるじゃん」

 

「ちょっと、自分でもビックリしてる」


 後は、細かい内容としては場所の指定と、一日の最大稼働時間だろうか。

 

 教導場所は依頼人の自宅か、保護者の目が届く場所限定。コレは分かる。スラム孤児相手に娘を目が届かない所に連れて行かれたら堪らないから。

 

 そして一日の最大稼働時間。これはつまり、一日何時間働くかって事だけど、最低で三時間。上限は設けないけど、僕が一日分働いたと思ったら帰って良いそうだ。条件良過ぎない?

 

 これ、信用無い相手だった三時間適当に教えてから帰り、別の依頼で稼げば、依頼人のアルバリオさんが出す四○○シギルは丸儲けのお小遣いみたいになるぞ。


「最初からそのレベルの依頼って、めっちゃ信用されてね? その上限でも真面目に仕事してくれるって信頼が無いと、その緩さにはならねぇだろ」

 

「…………あれかな、ランクマッチ見てたポロンちゃんのお父上に、それだけ気に入られたって事かな?」

 

「まぁ、めっちゃ丁寧に教えてたしな。目に見えて結果出てたし」


 取り敢えず、稼ぎの効率云々うんぬんは置いといて、断る理由が特に無いので受注した。

 

 傭兵ギルドで初めて受ける依頼が斡旋じゃ無く指名依頼って、なかなか光栄な事だよね。


「タクトはどうする? 来る?」

 

「この格好でか? 向こう、俺も女装って知らねぇだろ。って言うかお前もどっちで行くんだよ。ラディアか? ディアラか?」

 

「あー、その問題もあったか」


 ひとます、僕もタクトも着替える。パパっと二階へ行き、ササっとシャワーを浴びてススっと着替える。

 

 こう、ね。時短の為に一緒にシャワー使ったけど、お互いに髪が長くてお化粧してる姿の『半分女の子』が、シャワーによって徐々に男へ変わる様子は、なかなかにキツい物があった。

 

 バスドライヤーでパッと乾かした後に部屋へ戻ると、お互いに経験しただろう微妙な気持ち悪さに口が重く、無言でメンズに着替えた。


「…………ぜってぇ経験する必要のねぇ感覚を経験したわ。これ人生に於いて一ミリも要らん経験だろ」

 

「同意するよ」


 そして着替え終わってから気持ち悪さを共有した。


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