シースー。



 他の都市ではどうか知らないけど、過酷な砂漠に栄えた町なのに都市と言い張る変な町ガーランドでは、外出するならば帽子が必須の地域である。

 

 可能ならナノマテリアル製で、灼熱の陽射しをキッチリ遮って頭を快適にしてくれる高性能な物が好ましく、例えナノマテリアルが用意出来なくても布製で良いから用意する必要がある。

 

 砂漠で直射日光を頭に浴び続けると、かなり高確率で体調を崩し、最悪死ぬ。頭部は人間に限らず基本的に生物の急所であり、人間は頭部を熱射に晒され続けて生存出来る程強くない。

 

 何が言いたいかと言えば、ガーランドで衣服を揃えるならば、帽子がコーディネートの基本であり、服に帽子を合わせるのでは無く、帽子に服を合わせるのがガーランド流なのだ。


「うんみゃぁぁあ〜…………」

 

「スシうんまぁー!」

 

「美味しぃいー!」


 超凄腕のベテラン傭兵であるカルボルトさんに連れて来てもらった高級店で、色とりどり、デザインも十人十色な帽子を被った子供が二六人。

 

 勿論、食事中は帽子も脱ぐが、着ている服は帽子に合わせたコーディネートであり、ガーランドの飲食店では大体みんな帽子を被ってやって来るので、席には帽子を置く為の台が備え付けられてるのが基本だ。ハンガーミートにもちゃんと有った。

 

 帽子の博覧会みたいになってる大部屋に、次々とオスシが運ばれて来る様はちょっとだけシュール。

 

 プリカのディアストーカーなんて、あれカッコイイな。僕も欲しい。フィクションブックの探偵物に出て来そうな奴だ。

 

 エレーツィアのキャスケット帽もカッコイイけど、あれ女性向けのデザインだから僕は無理だな。あれ被るなら女装が居るし、帽子被りたくて女装って意味分からないし。

 

 いや帽子に服を合わせるガーランド流ならある意味正しいんだけどさ。

 

 他にもホンブルク、パナマハット、タム、ウシャンカ、ジェットキャップ、チューリップ、バケット、クルーハット、クルーシュ、カプリーヌ、ブルトン、ガチョウハット、ルーベンス、フロッピー、センタークリース、スナップブリム、サービスキャップ、トーク、カクテルハット、カウボーイ、そしてタクトのハンチング帽、プリカのディアストーカー、エレーツィアのキャスケット帽、中にはウィザードハットも有った。

 

 これだけ人が居て帽子が一つも被らなかったの凄くない? 

 

 注文されたお店、もしかして凄いノリノリで選んだんじゃないの?

  

 ウィザードハットの男の子なんて、ファンタジーに出て来る魔法使いのローブみたいなコーディネートだったし。しかも普通にカッコ良くて似合ってるのホント凄い。

 

 多少は異色というか、ちょっと一般的では無いファッションも混ざってたけど、コーディネートの質で言うなら全員が全員満点で、そんな服を貰った皆もウキウキしながらこのお店に来た。


 そしてスシ。


 超美味しい。凄い、脂が甘くて、身が口の中でとろけたり、コリコリした食感だったり、ムチムチしてたり、噛む程に旨味が出て来て、口の中でライスと良い感じに混ざっては胃の中に消えて行く。

 

 ソイソースにちょんって付けると、魚の脂が少しだけソイソースに溶け出して、小皿の上に脂が浮く。そうやってソイソースを汚しながら食べ進めていくと、ソイソースに浮いた脂は旨味が溶け出したのだと分かる。付けたソイソースによった段々と旨味が加速して行くのだ。


 なんだこれ、なんだこれは。


「世の中に、こんなに美味しい物があって良いのか……!?」

 

「しかも、ビックリする事に提供される仕組みが孤児に合ってるって言う……」

 

「値段を無視するなら、少量ずつ楽しめるオスシは、貧相な食事で胃が小さくなりがちな僕らにはこの上なく助かる仕組み……! 助かり過ぎる!」


 最初からもうちょっとずす楽しむ仕組みが完成してて、せっかくの機会なのだから色々食べたい僕らにはこの上なく嬉しい提供形態だ。


 

「僕、身が柔らかくて脂が強い奴が好きみたい。マグロのトロとか、ウナギとか」

 

「天然の生魚をオン・ザ・ライスって聞いてけど、火が通ってるのも有るんだな」

 

「これ! ハンバーグ乗ってるのも美味しいよ!」

 

「いやそれも天然物なんだろうけど、この機会にそれ食べるの勿体無くね? ハンバーグは此処じゃ無くても食えるじゃん」

 

「あ、そっか! お魚食べなきゃ!」

 

「いや、好きな物を好きな様に食うのが一番だと思うぞ? 流石に連れて来てやる機会なんかもう無いだろうが、せっかくだからって義務で食うより、美味いって思った物を楽しく食った方が良いだろ」

 

「それに、絶対にこれっきりって訳でも無いですしね。タクトが頑張って稼げばまた来れるよ」

 

「いやラディアも来いよ。そして割り勘してくれ」

 

「人数比で言うと僕が大損じゃん。割り勘なら全員で割ってよ」


 美味しい美味しい食べ物で、皆もほっぺがゆるゆるだ。タクトも見た目変わらないけどテンションが凄い上がってる。タクトが無茶苦茶言って来る時は内心がウッキウキな時だよ。

 

 二五対一で食べて二人で割り勘とか止めてよ。それならもういっそ奢らせてよ。恩返しなら喜んでするからさ、中途半端に割り勘は止めてくれ。


「カルボルトさん、ありがとうございます」

 

「いや、良いって事よ。予想以上に可愛い姿見せてもらったし、スシ食わせる価値はあったぜ。多分」

 

「僕の女装ってスシに匹敵するの…………?」


 誰が砂漠のオオトロか。


「…………マジな話し、ウチの団長だったら、女装したお前が接待するって言えば喜んでスシ奢ると思うぞ。月に数回までなら行けると思う」

 

「僕、段々とカルボルトさんのところの団長さんと会いたく無くなって来ました」

 

「ちなみに、今更だがウチの団長は女な。女装した可愛い少年が好きなヤベェ奴だ」


 本当にヤベェ奴だった。


「なぁカルボルトさん。今その人呼んだら飛んで来るんじゃないか?」

 

「多分来ると思うぞ?」

 

「止めて? 呼ばないで?」

 

「今日は勘弁してやるが、その内会わせる約束だからな?」

 

「…………せやった」


 なんて約束をしてしまったんだ僕は…………。


『ラディア、撮影を受け入れれば回避可能』

 

「お、シリアスか? パイロット借りてて悪ぃな」

 

『構わない。シリアスはラディアの幸せに貢献する者を止める気が無い。今のラディアは美味なる食事で幸せそうだから、ラディアも嬉しい』

 

「…………いやぁ、本当に良い相棒じゃねぇの。機兵乗りライダーとして羨ましいぜ」

 

『カルボルトも、きっとミラージュウルフにとって良い相棒。陽電子脳ブレインボックスが暴走してなかったなら、シリアスとラディアの様な関係に成れていたはず』

 

「嬉しいこと言ってくれるじゃねぇの!」


 シリアスがカルボルトさんと仲良くなってるのに仄かなジェラシーを感じつつ、撮影を受け入れれば団長さん回避って言う魅力的な案を採用するか否かに悩む。


「あ、ラディアよ。撮影したらそれを見た団長が絶対に会いたがるから意味無いと思うぜ」

 

「詰んでるじゃないか」

 

『ラディアが可憐なのが悪いので、仕方ない』

 

「女装させたのシリアスなのにぃぃっ!」


 困った事に、シリアスにだけ見せてシリアスに満足させたくても、シリアスが居るのは基本的にハンガーなので個室で見せるとかが難しい。

 

 それに、何故かシリアスは女装した僕を誰かに披露するのも楽しいみたいなので、やっぱり詰んでいる。


「シリアスはよ、オリジンってだけで機兵乗りライダーの夢なのに、ラディアをこれだけ可愛らしくしちまうって付加価値で、ウチの団長は堪らんと思うぞ。多分ラディアと同じくらいに、シリアスにも会いたがるだろうな」

 

『シリアスも件の団長とは良き友誼を結べると予想する。同好の士。ラディアと団長の接触は推奨行動』


 シリアスに女友達が出来るのは喜ばしいけど、趣味が一緒って事は被害を受けるの僕って事じゃん。被害が二倍でとても危ない。

 

 僕は現実逃避する為に、美味しいオオトロを口にする。美味しい。口の中で身がとろけて甘くて旨い脂になる。


「うんみゃぁぁあ…………」


 オスシは美味しい。僕は世界の真理を知った。

 

 こんなに美味しいなら、頑張ってお金稼ごうって思える。


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