ホテル到着。



「そうだそうだ! リーダーだけズルい!」


「俺だってバイオマシン乗ってみたい!」


 移動を始めるって時に、タクトが余計な事を言うので皆が騒ぎ始めちゃった。

 

 スラムで孤児があんまり騒ぐのは良くない。スラムだと普段なら、周りの大人にすぐ様ぶっ殺されるんだけど、今日は僕がここに居るのでまだセーフらしい。

 

 今の僕は銃で武装してるからね。ライフルはコックピットだけど、拳銃は持ってる。可愛いワンピースの腰には無骨なホルスターが…………。

 

 いくら孤児を舐め腐ってるスラムの大人も、銃を持ってる孤児なんて襲ったりしない。

 

 銃は誰が引き金を引いても等しく弾が出るから、それを持ってるのが孤児でも大人でも関係無い。


 と言うか今の僕って良い所のお嬢様に見えるらしいから、そんな相手を襲って銃殺されたら目も当てられない。スラムの人間は基本的に立場がゴミだからね。

 

 でも、襲われないからって下手にヘイト貯めて良い理由にならない。僕が居ない時に、思い出した様に殴りに来るかも知れないし。


「ほら、あんまり騒ぐと近所に怒られるよ? それに、シリアスは基本的に僕以外を乗せたがらないから、ごめんね? タクトは特別なんだよ」


 すると、えぇ〜って不満そうな声が出るけど、方便じゃなくてガチだからね。タクトは僕とシリアスのキューピッド様の一人なんだから。


『…………肯定。ラディアが、どうしてもと強く、強く望むならシリアスは受け入れる。しかし、そこまで強く願われないのであれば、シリアスは要求を拒否する。タクトを乗せたのは止むを得ず』

 

「喋ったッ!?」

 

「すげぇ!」


 我慢出来なくなったシリアスが、機体の外部スピーカーから声を出す。

 

 そんな機能無かったはずだから、多分あれ、コックピット内で情報端末の読み上げアプリケーションを使った発言を、内部マイクで拾って外部スピーカーへ出力してるんだな。コックピットの中で端末が喋れば、外部スピーカーを使える。

 

 シリアスは賢い。


『シリアスのコックピットに同乗するまではギリギリ認める。しかし、シリアスの操縦席パイロットシートに座って良いのは、操縦者パイロットだけ。シリアスの初めてのパイロットはラディアであり、シリアスの最後のパイロットもラディアである。例外は一つして認めない』

 

「ラディアめっちゃ愛されてんじゃん」

 

「でへへへへへへ…………」

 

『この先、コックピットのカスタマイズで複座サブシートが増えてタンデムが可能になったら、そちらは認めても良い。しかし、パイロットシートだけは認めない』


 ああ、胸がキュンキュンする。自分の格好も相まって、本当に女の子になりそうだ…………。

 

 ハッ!? もしかして、シリアスはそれを狙って!?


「おい井戸ポン。是非シリアスのタンデム化を頼むぜ」

 

「井戸ポン言うタクトは乗せたくないなぁ」

 

「ごめんて」


 僕ってそんなにお口モニュモニュさせてる?

 

 しかし、タンデムか。操縦系に触れない座席を増設するのは有りだね。

 

 カルボルトさんにも相談して、良い感じのカスタマイズを模索しよう。

 

 そうと決まればさっさと移動だ。未だ良いな良いなと騒ぐ男子を纏めて、移動を始める。

 

 複座を増やしたらきっと乗せるからと言って宥めたら、約束だからなって言って素直になったので、ささっと追い立てて僕はシリアスに乗る。今回は僕一人で乗ります。タクトはレンタビークルに乗ってね。

 

 て言うか端末持ってるタクトがそっち乗らないとビークル動かないじゃん。


「さて、行こうか」

 

『了解した。なるべくレンタビークルのルートと併走する』

 

「基本僕が動かすけど、補助お願いね。ビークルのルート次第では僕も慌てちゃうかもだし」

 

『タクトにレンタビークルのルートを端末に送らせる。マシンロードから逸れるルートも予め精査すれば調整は可能』

 

「あ、そんな手もあるのか」


 シリアスが既にタクトの端末に指示を送って、返ってきたルート情報を持ってからシリアスを発進させる。ビークルに乗って移動を開始したタクト達をやや後ろから追い掛ける形でマシンロードに乗り、可能な限り併走する。

 

 ビークルとバイオマシンでは使える道にどうしても差が出るので、時折ビークルがマシンロードから離れて目的地に向かう中、シリアスが設定した移動ルートをウェアラブル端末に表示して機動する。

 

 簡単な移動ならシリアスに任せ切っても良いんだけど、やっぱり普段から操縦をする様にしないと腕が落ちそうだし、言うて僕もまだ免許取り立てのペーペーだからね。

 

 色んな人に操縦が上手いと言われるけど、それは基礎がしっかりとしてるうえに、都市内の移動なら大した挙動は要らないってだけで、これがまた戦闘機動になった話しが違うんだろう。

 

 まだシリアスに初めて乗った時の数十秒しか戦闘機動なんて経験が無いし、少しでも経験を積むためにはやっぱり、普段からこうやって慣れておくのが一番だろう。


「シリアスが嫌じゃ無いなら、なるべく僕に操縦させてね」

 

『了解した。ラディアの操縦は丁寧なので、シリアスはストレスを感じ無い。シリアスは、シリアスのパイロットがラディア良かったと思う』


 そんな事言われたでへでへしちゃう。

 

 でへでへしながら移動する事二○分、色々あって約束の時間に丁度良い頃、僕らは指定されたホテルに着いた。見上げる程に巨大で、真っ白なビルディング式のホテルだ。超高そう。

 

 僕らはホテル入口付近で一旦待機し、ホテルの駐車場や駐機場にはまだ向かわない。

 

 タクトと僕だけなら良いけど、今はターバンスタイルの子供が山程居るので、このまま乗り込むとトラブルが目に見えてる。なので、僕はカルボルトさんに通信要求を送る。ホテルまで来た旨を伝えて、入口まで迎えに来てもらうのだ。

 

 ターバンスタイルの子供を連れた僕らじゃ、ホテルマンに何を言ってもカルボルトさんまで繋いでくれるか分からないからね。先に問題を潰しておくのは孤児の基本技能だ。


『分かった、すぐに行く』

 

 通信が繋がったカルボルトさん。


「あ、ちなみに僕、今もう女装してるので、見ても笑わないで下さいね。もう色んな人に笑われてるので、先に言っておきます。笑ったら要求がオスシから更に跳ね上がりますよ」

 

『…………マジか。気を付けるわ』


 問題を先に潰す。孤児の流儀を遺憾無く発揮する。

 

 それから数分、カルボルトさんがホテルのエントランスゲートから外に出て来る。心做しかギルドで見た時よりもラフな格好をしてる。

 

 僕は駐機しても邪魔にならない場所に一旦シリアスを停めて降機、さぁ笑うなよって気持ちを胸にカルボルトさんと対面。


「うわー、すげぇ。似合い過ぎて笑えねぇわ。こら団長に見せたら大喜びだ」

 

「…………高評価されても、どう受け取れば良いのか分かりません」

 

「いや、マジで可愛いぞ? その声をあとちょっと高くすれば、もう完全に女の子だわ。シリアスは良い仕事したな」

 

『肯定。シリアスは最高の仕事をしたと自負している』

 

「おわっ、端末からか?」

 

『肯定。ラディアの端末を介して音を拾えば会話が可能。この距離であれば直接本機で音を拾う事も可能』

 

「相変わらず通信領域を好き放題してるな」

 

『否定。法に触れるので、許可を得たラディアの端末でしか通信領域操作は行ってない。「好き放題」の評価は不本意。シリアスはカルボルトへ訂正を要求したい。しかし、ラディアの女装についての発言が素晴らしい結果を生み出したので、不当な評価を謝意と相殺可能。よってシリアスはカルボルトを許すことにした』

 

「なんか知らん間に許された」

 

「うちのシリアスがごめんなさい…………。でもカルボルトさんのせいなのでオスシ食べさせて下さい」


 オスシ、楽しみである。

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