お前は俺の彼女か。



 買うもの買ったのでお店を出る。タクトが恨めしげに僕を見てる。買い物を強行したので怒ってるみたいだ。


「どしたのタクト」

 

「お前。お前ぇ〜……」

 

「そんなに怒っちゃってぇ〜。カッコイイ顔が台無しだゾ?」

 

「だからお前は俺の彼女かッ!」


 いえ、僕にはもうシリアスが居るから。


「だって、僕がタクトに用事がある時、端末あったら便利でしょ? タクトの為にって言うのが嫌なら、僕の為に貰って? それにほら、今日みたいに誰かが怪我したって言うなら、僕に連絡取れた方が便利だよ?」

 

「…………でも、こんなに高い奴は要らなかっただろ。最初に見せて貰ってた端末の何倍だよこれ」


 ビルの中を歩いて、シリアスが待つ駐機場に向かう。その間ずっとタクトがぷりぷりと怒っている。

 

 カッコイイ顔が台無しだゾって言ったけど、タクトは怒ってもカッコイイので嘘だった。カッコイイ人は何してもカッコイイのである。世の中不公平だ。

 

 ちなみに、市民用の何倍かって聞かれたら、端末単体の値段は四二○○シギルだったので、最初に見せて貰った市民用端末の十六倍である。買った一式全部だと二五倍だ。


「いやいや、スラムは過酷だし、タクトも警戒領域で生体金属ジオメタル拾いするなら、端末は頑丈な方が良いでしょ? それにほら、この端末って微弱な回線でもしっかり乗せられるから都市からちょっと離れたくらいでも無料回線使えるって言うし、多分僕らが歩いて行けるくらいの距離なら問題無く都市回線使えるはずだよ」

 

「………………でも、周辺機器は流石に要らなかっだろコレ。これだけで市民用端末が何個も買える値段だぞ」

 

「いやいやいやいや。タクト、タクト。それこそ一番必要な物だよ? いやウェアラブル端末以外は正直ちょっと蛇足だったけど、ウェアラブル端末はタクトの為にも必要だよ?」

 

「なんでだよ」

 

「だって、スラムで僕らが、こんな高そうな端末を出して弄ってたら、大人に襲われて奪われるじゃん? ウェアラブル端末と連動させて、端末本体はポケットにでも入れておかないと、ホログラム出しただけでもヤバい奴には目をつけられるでしょ」


 そう。悲しいけど、僕らって孤児なんだよね。

 

 不法滞在者が不法滞在者を襲っても、行政は何もしてくれない。

 

 だからって流石に誰も彼もぶっ殺してたら、行政から「そう言う奴」って形で覚えられて結局大変な事になるから、市民も不法滞在者もそう簡単には不法滞在者殺しなんてやらない。

 

 けど、それでも相応の理由が出来たら、…………殺る奴は殺る。


「………………なるほど」

 

「ね? 要るでしょ? だからほら、ウェアラブル端末だって分かり難いオシャレな眼鏡型の奴を選んだんだし。流石にオシャレな眼鏡程度なら殺しはしないでしょ」

 

「……そうだな。まぁそれでも殴られて盗まれる可能性はあるけど、それは別に洒落た物じゃなくても盗まれるからな。何時いつもと変わらんか」

 

「あ、もちろんタクトを殴ったり、何かを奪ったりする奴が居たら、連絡してね? ソイツぶっ殺しに行くから」


 僕自身なら、まぁトラブルの方が面倒だし多少我慢しても良い。

 

 けどタクトを襲う奴は殺す。絶対に殺しに行く。クソ野郎絶対殺す名誉子爵マンに変身してぶっ殺してやる。草の根分けてでも必ず探し出して報いを受けさせてやる。


「……いや、良いよ。大丈夫だから」

 

「だめー。タクトが言わなくても、グループの他の子に言っとくからね。タクトに何かした奴ぶっ殺すから教えてって言えば、皆教えてくれるでしょ」


 多分、オリジンの権利ってオリジンを不当に奪われたりしないようにって言う措置でもあるんだろうけど、そう言う時って家族や友人を人質にとられたりって場面も有ると思うんだ。

 

 それで友達とかに脅しかける馬鹿をぶっ殺して良いよって免罪符だと思うんだ。

 

 つまり友達であり命の恩人であるタクトの為にクソ野郎をぶっ殺すって使い方は、正しい! はず! 多分!

 

 伯爵領で僕が殺しをやってもお咎め無しだったから、多分お貴族様同士なら、爵位の上下が多少ある程度ならそこまで無体な事は出来無いんじゃないかと思う。爵位が上だからオリジン寄越せーとか。そう言うのは出来無いのかも。

 

 なら、この権利は多分、巫山戯た平民ぶっ殺す用の権利なんじゃ無いかな。

 

 いや、正確には『名誉子爵身分』であって、平民を殺す為の身分じゃ無いんだけどさ。本当なら『お貴族様と同等の偉さだから敬ってねー』って使い方なんだろうけど。

 

 まぁでも、さっきの使い方は正しかったみたいだし。後々考えてもやっぱり正しかったと思うし。

 

 だって、帝国の税金で生活してる兵士が帝国の子爵を突き飛ばしたんだから、そりゃ物理的に首が飛ぶよ。権威ってそう言う物だし。

 

 僕が誰かを殺す為にわざと舐めた態度を取られるように動いたならまだしもさ、僕はあの時シリアスと一緒に居た。

 

 明らかに自律行動してる完全無欠なオリジンと一緒に居たのに、僕が子爵身分だと分かる材料があったにも関わらず、僕を突き飛ばしてパルスブラスターを奪おうとして不当逮捕しようとしたんだから、もう言い訳の余地も無い。

 

 オリジンの権利については良く知られてない法律らしいけど、でもやらかしたのは一応兵士だし、法の元に人を取り締まる立場に要る兵士が、『法律知らなかったので許してくださーい』は通らない。

 

 うん。やっぱり僕は悪くない。


「まぁ、そんな訳で、とにかく端末は貰ってね?」

 

「…………はぁ、分かったよ。これも恩に着とく」

 

「脱いで! そんな恩は着なくて良いから脱いで!」

 

「お前そのやり取り好きだな。…………て言うか、俺って今、お前に買って貰った服着てるから、物理的に恩を着てる訳だけど、脱げと?」

 

「あ、うん。ごめんさい。服は着てて下さい」

 

「よろしい」


 馬鹿な事を言い合ってたら駐機場に到着! 会いたかったよシリアスぅー!


「ただいまシリアス! 寂しくなかった?」


 右ガチガチ。なるほど肯定、つまり寂しくなかったと。


 ………………え、寂しがってくれても良いのでは?


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