プチッと。


 

 何が起きたのかと思えば、僕は誰かにわざとぶつかられて吹っ飛ばされたみたいだ。

 

 高性能なナノマテリアル素材の服を着てるお陰で怪我とかはしなかったけど、せっかくパリッとした綺麗な新品だったのに、砂と埃で汚れてしまった。

 

 体を起こしてみれば、そこにはニタニタと笑う赤い制服の男の人が三人居た。ガーランドの兵士だ。警邏任務中っぽい。

 

 彼らは良く知ってる。良く意地悪して来る人達だ。名前は知らないけど、ゲートで僕を入れてくれなかったりする人達の筆頭だ。


「あたた……、服が汚れちゃった」

 

「ラディア、大丈夫かよ?」

 

「あ、うん。これちゃんと高い服だから、怪我とかはしなかったよ。防御力が高いよね」


 タクトが手を引いて起こしてくれて、僕は服に着いた砂を払う。でも汚れが全部落ちる訳じゃないので、ある程度の効果しかない。新しい服だったのに、残念だ。

 

 まぁ高い服なので、ちょっと洗うだけで新品レベルまで綺麗になるんだけどさ。ナノマテリアルってすげぇ。


「これはこれは、薄汚いゴミがなんか綺麗な服を着てると思ったら、ちゃんとしっかり汚れてるじゃないか、感心感心。でも汚れ具合が足りないんじゃないか? 手伝ってやろうか?」

 

「もちろん手伝った分は駄賃を貰うけどなぁ。……随分と洒落たモンを腰に提げてやがるな? 盗品か? ちょっと調べさせて貰おうか」


 ニタニタ笑ってる兵士が近付いてくるけど、僕はそれよりもシリアスが心配だ。閉じ切ったアームがギリギリ言ってる。凄いイラついてるっぽい。人間で言うと拳を握り締めてプルプルしてる感じ。


「あの、これ借り物なので、渡せません」

 

「あー? 誰がお前の意見なんて聞いたんだよ。寄越せって言ってんだから寄越せオラッ」


 手を伸ばされたのでバシッと叩いて拒否した。

 

 前までの僕ならプルプル震えて嵐が過ぎ去るのを待ったけど、それは怖かったからじゃなくて、追加のトラブルが嫌だったからだ。

 

 おじさんも僕にわざわざ「躊躇うなよ?」とか言うし、他の人も何故か勘違いしてるっぽいんだけど、僕って別に、平和主義者じゃないんだよね。

 

 戦って良い身分が保証されてて、その力も有るなら、普通に抵抗するよ。今まで無抵抗だったのは、それが一番傷が少ないからだ。

 

 抵抗した方が傷を浅く出来るなら、僕だって抵抗する。


「…………あぁっ? テメェ」

 

「あの、止めてくれますか? 僕もう、都市のサービスも利用出来る立場になったので、普通に苦情入れますよ?」


 と言うかぶつかって転ばされた時点で、結構キツめの苦情を入れられると思う。都市を守る兵士が守るべき市民を突き飛ばすとか、減給物だった気がする。


「はんっ、馬鹿がよ。多少偉くなったからって、元孤児のガキが言う事を誰が信じんだよ」

 

「全く。身の程を知らねぇクソガキはコレだから困るぜ」

 

「はっはっはっは! つーか今、兵士の手を叩いたよな? 公務執行妨害じゃね? しょっぴくか?」


 兵士さん達がゲラゲラ笑ってる。

 

 でも、そうか。うん、その可能性は考えてなかった。

 

 苦情が無視される可能性も、確かに有るよね。つい先日まで、都市に寄生する不法滞在者だった嫌われ者の言葉と、まがなりにも都市に勤める兵士の言なら、後者が優先されてもおかしくない。

 

 なるほど。勉強になる。立場がちょっとマシになった程度じゃ、調子に乗らない方が良いみたいだ。ならこの線で強気になるのは止めた方が良いんだろうか?

 

 おじさんが、僕は好きな時に貴族に変身出来るって言ってたし、そっちの方が良いかな。

 

 でも、都市に勤める兵士って事は、彼らはガーランドを治める伯爵様が雇ってるとも言える。そんな相手に子爵身分が楯突いて問題を起こした場合、伯爵様が出張って来たら処分されるのは僕になるだろう。

 

 うむ、困ったぞ。状況が良くなったつもりで居たけど、言うほど変わって無いかも知れない。て言うか子爵身分になれる権利使えないな。ただの兵士相手にも使用を躊躇わざるを得ないとか、ゴミみたいな権利だ。あっても無くても一緒か。


「おいおい、このガキしょっぴいたら、そこのデザリアも俺達のもんか? 売ったらいくらになん--……」


 ……………………シリアスをどうするって?


「取り敢えず死ね」


 -ズギャゥッ……!


 パルスブラスター独特の銃声が、手元から鳴る。


「----ッッッギャァァァアアアっ!?」


 悲鳴と、血の匂い。


「こ、こいつハジきやがったッ!?」

 

「何しやがるクソガキィィア!」


 騒ぐ残りの二人と、銃声と悲鳴に静まり返る周囲の人々。

 

 なんか、薄汚いクズがクソみたいな事言い始めたから、思わず撃っちゃった。

 

 どうしよう。使えないクソ権利だとか思ってたけど、もう、どうしようも無いから取り敢えず使う方針で行こう。

 

 はい、僕は今から子爵様!

 

 僕が撃ったのは、シリアスを売るとかクソみたいな事言ったゴミクズのお腹で、無意識で撃ったからそこだけど、正直なところ頭か胸を撃てば良かったと思ってる。トドメ刺したい。

 

 撃たれたゴミクズは叫びながらのたうち回って、残った二人が銃を抜く。兵士って事は、一応は軍用品だよね? そんなので撃たれたら死んでしまう。


「--あわっ」


 と、思ってたらシリアスが助けてくれた。

 

 アームでズンッ! って残った兵士二人を潰してしまう。多分即死だろう。プチッと行って、地面のシミだ。

 

 …………いやぁ、盛大に殺っちゃったなぁ。これは死んだかな。僕、伯爵様に殺されるのかな?

 

 いや一応は子爵身分って言うなら、死にはしないかな? 罰金とかかな? 罰金で済んだら良いなぁ……。


「…………ら、ラディア、おまっ」

 

「あ、タクト。えと、大丈夫だよ? 多分」

 

「いやいやいやいや! いくら何でも兵士を殺っちゃマズイだろ!? 大丈夫な訳あるかぁ!」


 一部始終を間近で見ていたタクトが真っ青になってる。巻き込んで申し訳ない……。

 

 周囲に居た様々な人も、白昼堂々と起きた殺人に阿鼻叫喚。ヤバいなぁ。目撃者いっぱいだなぁ。

 

 …………どうしよう。逃げる? 都市の外に逃げて、別の都市で生き直す?


「あっはっはっは! 大丈夫な訳が、有るんだよなぁコレがッ!」

 

「ふぇっ……?」


 慌てるタクトと、悩む僕。するとそこに、場違いな程に心底楽しそうな声が響いて、僕はそちらを見た。

 

 そこには、なんか、沢山人が居た。


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