公務員のサシ飲み4



「俺はよぉ、羨ましくて堪んねぇんだよぉ」

 

「あー? いや、そりゃバイオマシンに乗ってる奴なら、オリジンなんて千人が千人羨ましがるだろうが」

 

「ちげーよバーカ。確かにオリジンそのものも羨ましぃぜ? けどよ、俺が羨ましいのは違ぇんだよ。あのデザリアだ。コイツ自身が羨ましいんだ」

 

「…………この機体か?」


 二人で再び見るムービーには、ラディアの愛機となったオリジンのデザートシザーリア、シリアスが映っている。

 

 パイロットの頭を撫でるバイオマシン。見るからに仲良しだ。


「このデザリア、機体名はシリアスってんだがよ。…………いやもうホンットに良い奴でよぉ……!」


 それから、語る。語る。語る。ルベラが語る。

 

 今日此処に、ルベラがカラザットを呼び出して絡んでいる理由の九割が今この瞬間の為だ。


「俺は感動したぜ。オリジンってのは気難しい機体ばっかりだって良く聞くけどよぉ、当てになんねぇぜ! シリアスなんかすげぇ良い奴だぜ!?」

 

「そんなにか?」

 

「おうよ! これみろよぉ……。見ろ見ろぉ……」


 ルベラがカラザットの肩に腕を回してガチ絡みしながら見せるのは、シリアスがラディア宛に送った一言だ。


『幸せにする』


 たった一言。されど一言。

 

 万感の思いが詰め込まれたテキストだ。

 

 ラディアがずっと欲しかったそれを、ついにラディアに伝えた存在が居た。


「ぶっちゃけ俺も泣きそうになったぜぇぇッ!?」


 ラディアが幸せになる。

 

 それはある意味、ラディアを好むガーランドの職員が胸に抱いた念願とも言える。それが叶ったのだ。叶った瞬間にルベラは居合わせた。

 

 ラディアがギャン泣きしたから逆に冷静で居られたが、もし切っ掛けがあればルベラもギャン泣きしていた可能性はそこそこに高い。

 

 ルベラの舌はもう止まらない。

 

 何せシリアスから端末がバグったかと思う程に大量のテキストが届いてるのだ。語る内容など一晩では尽きようはずも無い。


「もう、もう感動しかねぇぜ。黒ちびとシリアスは出会うべくして出会ったんだよ。見ろよコレ、シリアスが黒ちび乗せた時の気持ちと、黒ちびが色々ブチ撒けた時のこれ、見ろ見ろ、どんなシンクロ率だってんだよ。なんだよこれ。もう、もう……! 本人! 本人か! 人生クソだとか、良い終わりだとか、報われたとか幸せとか、もう本人! 同じ事思ってるぅぅう……!」

 

「…………俺も感動してぇのに、酔っ払ったボケがウゼェッ」


 ルベラが人に接する態度は兄貴肌であり、そして仕事中のルベラは些かストイックな姿勢を見せる為、仕事中のルベラしか知らない可哀想な女性兵士は数名ほど、ルベラに惚れていたりする。

 

 するのだが、今この瞬間のルベラを見たなら百年の恋も冷めるだろう。それくらいには「お前誰だよ」なテンションに仕上がっていた。そして高い酒は三杯目に突入して居た。

 

 きっと明日の朝一番、ルベラの住居周辺に住む者は素っ頓狂な悲鳴を聞く事に成るだろう。公務員と言えど、一回の酒盛りで一杯で二○シギルの酒は些か高い。

 

 それも三杯は流石にそこそこの給料を貰ってるルベラであっても後悔する。

 

 砂漠の町と言う局地でなければ、普通は五シギルもあったら普通の定食を食べて腹を満たせる。ガーランドの汎用水ボトルが一本七シギルなんて値段なのがオカシイのだ。

 

 一杯で成人男性の腹がくちくなる定食が四回注文出来る酒を、三杯。アホである。


「俺はよぉ、感動してんだよぉ」

 

「テメェ何回言うんだよボケが」

 

「だってよぉ。見ろよテメェおい、これよぉ」

 

「見たわ。見た見た。愛機がパイロットに向かって『幸せにする』な。……いやこっちのテキストも見ると、色々分かるけどよ」

 

「なぁ、ビックリするよなぁ? オリジンってのはよぉ、古代文明のバイオマシン様ってのはよぉ、こんなに愛情深いもんなのかよぉ…、俺ぁ感動したぜぇ……」

 

「……あ、こいつダウナー路線入りかけてやがるボケが。ウッゼェなオイ、テンション上げとけやボケ」

 

「俺もよぉ、あんな、俺を愛してくれる愛機が欲しいぜぇ……。俺も黒ちびのシリアスみてぇなオリジンに出会いてぇ……。オリジンが羨ましいんじゃねぇ、黒ちびのシリアスみてぇなオリジンが羨ましいんだ……」


 ルベラはついに四杯目を注文した。翌朝に響く叫び声のオクターブには是非注目したい。


「……そういや、お前んとこのクズ共、どうすんだ? ぜってぇ黒ちびに絡むだろ?」

 

「………………あーん? ゴズン達のことかー?」

 

「あー、そんな名前だったか? クズ共に脳のキャパ使いたくねぇから名前とか覚えらんねぇんだよな」

 

「そりゃわかるぜぇ……。俺も仕事でクソほど迷惑掛けられなかったら忘れてたわぁ……」

 

「あー今回の酔い方はこのパターンか、ウゼェなボケこのっ……」


 変な酔いに入ったルベラがカラザットにしだれかかる。店内に居らっしゃる腐った女性客が大喜びだ。実はずっと、二人の絡みが濃いと評判だったりした。急展開にお腐れ様が爆発寸前。


「でも、安心して良いぜ……? と言うか心配は無意味だ……」

 

「あ? いや無意味ではねぇだろ。ぜってぇあの馬鹿共、黒ちびに絡むだろうが」

 

「むしろ絡めば良いんじゃボケナスゥウ! ふっふぅー!」

 

「…………え、お前今日どうしたんだ? 酔い方がヤバいぞ? それどのパターンだ? ランダムで切り替わるとか今まで無かったよな?」


 実のところ、ルベラは雰囲気と自分のテンションに酔っている。

 

 ラディアが幸せになった状況に酔っているのだ。つまりラディア酔いである。恐らくラビータ帝国の技術力ではこの酔いを醒ます薬は作れないだろう。


「で、なんで絡んだ方が良いんだ?」

 

「あっはーん? それはなぁ、お前も汚物ゴズンも知らんだろうが、ガキの頃からオリジンに憧れて色々調べまくった俺が知ってる変な法律があるからさぁ〜ん?」

 

「………………やべぇ、そろそろストレートにウゼェ。テメェ、一旦酔い醒ませやボケ。除去薬使えや」

 

「ふっふーん? 仕方ないにゃぁあ〜? ……………………悪ぃ、ちょっと意味不明な酔い方したわ」

 

「おう。後で殴らせろ」

 

「止めろ止めろ。……………………ピャッ!?」


 ルベラはカラザットの願い通り、経口摂取の癖にものの三○秒で効果を発揮する意味不明なタブレット錠剤を飲み込み、あっという間に酔いを醒ました。ナノマシンたっぷりな錠剤だ。

 

 そして翌朝と言わずに今叫びそうになった。そう、五杯目の高い酒が届いたのだ。もう取り返しのつかないレベルで出費がヤバい。

 

 酒だけで一○○シギルだ。本当に洒落にならない。当然、料理もツマミも注文している。ガチでヤバい。ルベラは真っ青だ。


「…………カラザット、わりぃ、金貸してくんね?」

 

「ボケがよ。じゃぁテメェの知ってるその法律っての歌ってみろや。その内容と事態の痛快さによって貸してやる金額を決めてやるぜ」

 

「……おっほぉ。じゃぁ五○シギルくらい借りれそうだわ。…………良いか、良く聞けよ? …………ラビータ帝国じゃオリジンに人権を認めてる。しかもパイロット含め名誉子爵身分だ」

 

「…………ッッッ!? は、はぁッ!?」


 ガタッと足でテーブルを打ち、カラザットが痛みで呻く。

 

 しかし、痛みよりも話題の内容の方が気になって、カラザットは膝の痛みに無理やり別れを告げる。煽った安酒が手切れ金代わりだ。


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