公務員のサシ飲み2



 ルベラに差し出された証拠を見たカラザットは、まず一言。


「………………ほぉーん。良く出来てんな?」

 

「加工じゃねぇよ」

 

「加工は疑ってねぇよボケ。でも仕込みだろ?」

 

「バーカ。良く見てみろ」


 ルベラが差し出したのは、自身の情報端末。そのホロ画面に流れるムービーデータ。

 

 そのムービーの中では、ガーランドの西にある警戒領域へ繋がるゲートの傍で、ガーランド西域の警戒領域では良く見掛けるバイオマシンであるデザートシザーリアが映っていた。

 

 ルベラがオリジンとうそぶくそのデザリアは、自らのパイロットとボディーランゲージを用いた何らかのコミュニケーションを取っており、時折デザリアが自身のシザーアームを器用に動かし、パイロットの頭を繊細な動作で撫でていた。

 

 明らかに普通のバイオマシンには無い動きであり、デザリアが自らの意思で動いてる様にも見える。

 

 現代人が乗るバイオマシンとは、基本的に古代文明由来の陽電子脳ブレインボックスを何らかの手段で入手し、その後に陽電子脳ブレインボックスへ宿る知性を様々な手段で物を機体に積んで、それでやっと現代人にも乗れる仕様になるのだ。

 

 しかしそうすると、当然の事ながら陽電子脳ブレインボックスに宿る知性は著しく活動を阻害される。最悪は自我の破壊、ないし消去される。

 

 そんな陽電子脳ブレインボックスが積まれた現代人用のバイオマシンは、控え目に言うと

 

 コックピットからの操縦で入力された駆動以外は一切行わず、パイロットが声をかけても反応せず、まさに機会。正しくロボット。そんな有様だ。

 

 それらとムービーのデザリアを比べたなら、このデザリアがオリジンである事は確定的に明らかであり、もはや疑う余地も無い程に

 

 しかし、何事にも裏や仕掛けという物があり、カラザットはそれを疑っている。


「ソイツがよぉ、くっだらねぇ仕込みなんかするかよ」

 

「…………あん? もしかしてコイツ、黒ちびかッ?」


 カラザットが疑うのは仕込み。つまり、デザリアの中に別のパイロットがこっそり仕込まれていて、オリジンを騙ってオリジンの様に振る舞うデザリアを演じている。

 

 もしくは、現代人用の機体に簡単な曲芸を行わせるプログラムを走らせ、パイロットの方が機体のプログラムに合わせて違和感を持たせないような演技をする。そのどちらかだろうと睨んでいた。

 

 オリジンとは、平たく言うと全機兵乗りライダーの憧れである。

 

 自分の愛機と意思疎通をし、息の合ったコンビネーションによって個人以上の力を発揮する。

 

 口にするのは簡単で、思うだけならチープである。だが現在確認されている古代機乗者オリジンホルダーは全員、同じ言葉を語るのだ。

 

 それは『最高の一体感』だったと。

 

 常に噛み合ったりはしない。オリジンとパイロットは別の生き物であり、それぞれ別の思考が有るのだから、常に思惑や操縦が一致る方がおかしい。

 

 しかし、一度ひとたびオリジンとパイロットの機動が噛み合えば、バイオマシンの力はカタログに記載されたスペックを鼻で笑いながら飛び越え、何処までも行けそうな全能感がオリジンとパイロットの精神を繋ぐ。

 

 ガーランドを擁するラビータ帝国で現在確認されている古代機乗者オリジンホルダーは二名。周辺諸外国の古代機乗者オリジンホルダーを集めたとて十人にも満たない。

 

 しっかりと実在し、伝説と呼ばれる程の希少性では無い。が、確かに希少な存在なのだ。

 

 人口が三億を超える帝国であっても、たった二人しか国内に居ないくらいには、超スーパーウルトラ稀少なのだ。

 

 そんなオリジンに乗るパイロットは、そのオリジンに見出された機兵乗りライダーであり、何の比喩でも無く文字通りにである。

 憧れと、権威。

 

 此処まで条件が揃えば、むしろ騙りが居ない方がおかしいと言うもの。つまり、当然の事ながら居る。オリジンに選ばれたと騙り、自慢し、時には良い目を見た後に報いを受けた愚か者が、相当数。

 

 カラザットはムービーに映るパイロットもその一人かと思って良く見れば、しかし、何やら見た事がある顔だった。


「……これ、マジで黒ちびか?」

 

「おう。黒ちびだ」


 ガーランドに棲み着いた孤児の中で、恐らく最も公務員に好かれている有名な孤児である。

 

 と言っても、良識のある公務員の中では、と言う但し書きが着くのだが。


「…………おいおい。これが騙りじゃなく、本当にあの黒ちびが、このガーランドの警戒領域で、オリジンを見付けちまったって言うならよ。…………そりゃぁテメェ、…………………………超目出度いスーパーめでてぇじゃねぇかよッ!」

 

「…………だろッッッ!?」


 五年ほど前からガーランドに居て、四年前には父親が消え、そこからずっと貧しく、ギリギリを生きて、しかし絶対に腐らず、どれだけ苦しくても不法滞在以外の法は犯さず、健気に、ただずっと正しく生きて来た。

 

 そんな一人の孤児が、実は兵士や都市清掃員など一部の公務員の中で一定の人気と支持を集めていたりする。平たく言うと愛されている。

 

 通称『黒ちび』の愛称で見守られる黒髪の孤児。名前はラディア。


「マジか。マジかぁ。テメェ先に言えよボケが殺すぞ。黒ちびがついに、ついに最下層から出て来れたのかッ……! おまっ、こんな特ダネ黙ってたらテメェ、清掃課のにボコられるぞ?」

 

「…………あ、やっべ」


「……知らねぇからな」


 青くなって酔いが醒めてしまったルベラと、呆れ顔のカラザット。まさにこの二人の腐れ縁を繋いだのもラディアであり、他にもラディアはガーランドに対するいくつのもがある。公務員の間ではひっそりと『小さな公務』と呼ばれる成果だ。

 

 ラビータ帝国の法律では、スラムの孤児は立派な犯罪者だ。納税義務を怠り不法に町や都市に滞在している、悪である。

 

 ガーランドの職員は公務員である事と、孤児に対する妙に当たりの強いラビータ帝国の法律が邪魔をして、誰もがラディアを助けに行けなかった。

 

 だが、もし、もう少しでも、あと少しでも法が緩かったなら、ラディアの元には何人ものが押し寄せて、養子縁組を提案していた所である。

 

 少年ラディアは、孤児で有りながら法は犯さない。何があっても絶対に。不法滞在以外の法は犯した事が無い。

 

 スラムの悪党共に殴られても、その日買った水のボトルを故意にひっくり返されて渇こうとも、どんなに誘惑されようとも、少年ラディアは絶対に法を犯さなかった。

 

 帝国の規定通りなら町の規模なのに都市と言い張る変な町ガーランドに於いて、現在都市内で確認されている孤児全員の中で唯一、ただの一回もになった事が無いのが少年ラディアだった。


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