第30話 雪姫姉妹と夜海

「しかし、よかったのか?二人一緒で?」


美音と別れ、ツッキーとの合流場所に着くと、そこには雪姫さんもいた。


「私たち二人で決めた事だから、気にする事は無いわ」


「それに、目的も、同じ。つまり、時間の、有効利用」


目的が同じ?

もしかして、全員で回らないのはそれぞれに目的があったからか?

でもって、それに俺は付き合っていると?

ただ全員に奢って終わり、と思っていたけど…


「…柑條のヤツ、何考えてやがる」


「まぁまぁ、先輩、気にしては、ダメ」


「そうよ、夜海。美玖も何か思ってしたわけじゃないでしょうし」


「そうかなぁ」


二人はそう言うが、付き合いが長い身としては、何かあるのではないかと思わずにはいられない。


「それよりも、早く行きましょう。時間がもったいないわ」


「姉さまに、同意」


そう言って雪姫姉妹は、考え込もうとしていた夜海の腕を引っ張って歩き出す。


「お、おい!腕を引っ張るなよ!」


「「………」」


「拒否権は無いのね……はぁ、それで?どこに向かうんだ?」


「「………」」


突然引っ張られた事に対する抗議をするが、聞き入れられない。

どうやら拒否権は無く、今は考えるより祭りを楽しめ、という事なのだろう。

しかし、そうだとしても………


「返事ぐらい、返してくれよ……」





















しばらく無言の姉妹に引っ張られ続けていたが、目的の場所に着いたのだろう。

ようやく歩みを緩め、腕から手を放した。


「そろそろ、教えてくれてもいいだろ?」


「そうね。それじゃあそこに、座ってから話しましょう」


そう言って雪姫さんは階段の右端へ腰を下ろした。

それに続くようにツッキーも腰を下ろす。


「夜海、あなたは座らないの?」


「いや、全員で階段の途中に座り込むって、通行のジャマになるかな~、って思って」


座ろうとしない夜海を見て、雪姫さんが座らないのか尋ねた。

それに対して夜海は、通行の邪魔になるかもしれないからと述べた。

しかし雪姫さんは「その心配はないわよ」と答える。


「ここは会場の端、この先には閉鎖中の校舎があるだけ。つまり基本的には、人の通りは無いのよ」


なるほど、人通りが『基本的』には無いと……ん?基本的には?


「ねぇ、雪姫さん?基本的には、とは?」


ふと疑問に思ったことを聞いてみる。

すると雪姫さんは


「この場所、と言うよりは位置かしら?まぁとにかく、この辺りからはステージはもちろん、会場全体が見渡せるスポットになっているのよ」


と言った。


「つまりそれを知って居る人の、行き来があるって事か」


と雪姫さんに確認を取ると、「そう言う事になるわね」と言う。


取り敢えず、座っても大丈夫そうだな。

それに、考えようによっては良い場所だ。


なんせ人混みから離れつつも、祭の様子を楽しめるのだから。

ん?そう言えば、会場全体が見渡せるって言っていたな。

とすると、もしかして……


「なぁ、もしかしてここからステージを見るために、引っ張って来たのか?」


「えぇ、そうよ。言って無かったかしら?」


やっぱりそうか…ってか説明されてない。

雪姫さんの中では、説明済みだったのか。


「姉さま、説明して、ないです。時間が、ギリギリだったから、説明、後にして、引っ張って、来た」


「あら?そう言えばそうね」


訂正、単純に忘れていただけだな。

しかしこれからステージでは、なにをするんだったけ?


「なあなぁ、これからステージで行われるのは何なんだ?」


「はい、これから行われるのは、『ええじゃん』です!」


「あー、あれか」


春先に行われるとある祭り。その祭りでメインイベントとして行われる「ええじゃん」

これは町全体で行われる祭りで、「ええじゃん」は海岸沿いの道を約一キロ、踊り続けるものだ。


「そう言えば、ウチの学校の代表チームも呼ばれていたわよね?」


雪姫さんがそう言うと、ツッキーが答えた。


「はい!金賞を獲得したチーム『縁舞夢翔』は、ゲストとして呼ばれています!」


「お、おぅ…」


……人が変わったように。


「他に、地域のチームが七組エントリーされています!」


…本当にツッキー?

いやいや疑うまでもなく、さっきまで一緒に居たしなぁ…

普段おっとりしていて大人しい子が、こんなにも饒舌に喋り出すと、こう何て言うかな?

う~ん、とにかく違和感がすごい。


そんなツッキーの変化を見て、雪姫さんが苦笑いをしつつ戸惑っている夜海に、月乃の変化について説明し始めた。


「やっぱりこうなったわね…」


「雪姫さん、この変化に心当たりが?」


「えぇもちろん。姉妹ですもの。月乃ってたまにこうなるのよ」


「たまに?毎回じゃなくて?」


「えぇそうよ。べつにええじゃんが好き、と言う訳じゃないの。あの子のマイブームのモノ。今回で言えばたまたま『ええじゃん』だった、と言う事よ」


つまり、ツッキーはマイブームのモノを語る時、もの凄く生き生きして来る訳だ。

いやー、初めてみた。

まぁ好きなものを語る時って、人が変わるって言うけど……

ツッキーの代わり様には少し驚いたな。

こうやって改めて見ても、なんか生き生きしているように見えるな。


「そんじゃま、ツッキーの解説付きで鑑賞するとしますか」


「任せてください!」


「そうね。それに私が言うのもなんだけど、月乃は一度ハマったら納得するまでやる子だから。七割程度を聞くつもりでいないと、きっと(身が)持たないわよ?」


…そんなに濃い内容になるのか………


























「よ~やく、終ったな…」


雪姫さんの言う通り、もの凄~く細かい説明だった。

途中からパフォーマンスより先に、ツッキーの解説や見どころ説明が入って……

楽しめたけど…何か疲れた……


「ご苦労さま。やっぱり気に入られているだけはあるわね。こうなった月乃の話を、最後まで聞き切るなんて」


「ん?雪姫さんは、どう対処しているんだ?」


雪姫さんの言い方、まるで聞き流しているって聞こえるけど……


「もちろん、要点だけ聞いてあとは聞き流しているわよ?コツさえ掴めば、それで会話が成り立つもの」


やっぱりか~。まぁ、それが普通なんだろうけど……

まぁ、切り替えようか。


「じゃあそろそろ、俺は柑條の所に……って何やってんだアイツ?」


「あら?本当ね。行ってあげた方が良いじゃないかしら?」


柑條との待ち合わせ場所に行こうと、立ち上がり会場の方を見ると、その柑條がカップルと女の子の間で何か言っている。

どうやらトラブルの仲裁に入った様だが……どうしてこう、面倒事に首を突っ込むかなぁ、アイツ。


「面倒だが、仕方ないよな……雪姫さん、あの三人は誰か分かるか?」


仲裁に入るにしても名前を知らない。

いや、憶えていないだけかも知れないけど……


「ええ、男は隣のクラスの更識さらしき燈色ひいろ。男の隣の女は、芸能科の赤穂あこう萌未めぐみ。二人の向かい側、美玖を挟んでいる子は………誰かしら?」


「一年生、芸能科の早乙女さおとめ神楽かぐら、です。先輩」


「サンキュー。そじゃあ、行って来るわ」


お礼を言い、急いで柑條の下へ向かう。

……そう言えば、何か忘れている気がするけど………ま、いっか。












夜海が雪姫姉妹の下から離れていくと、月乃は学校支給の携帯端末を取り出し、送られて来たメッセージを見ながら雪乃に声を掛けた。


「姉さま、美音の連絡通り、浴衣姿、夜海先輩、気付いて無い」


「そうみたいね。でもまぁ、本当に気付いて無かったのかは疑問よ?夜海の事ですもの、単純に色々あって言い忘れたとか、あるかも知れないわよ?」


「…そうかも……さすが、姉さま」





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る