第10話 バレンタインデー
「なあ、夜海。今日は何の日か知ってるか?」
ホームルーム前、先日発売されたばかりの新刊を読んでいると、輔がいつになく上機嫌に聞いてくる。
まだ、一日が始まったばかりだと言うのに、何でこいつはテンションが高いんだ……
「知らん、興味ない。今新刊読む方が大切だ」
「何だよ、ノリが悪いな」
そりゃ悪くもなる。
出たばかりの新刊を読むのを、邪魔されたんだから。
そもそも、今日が何の日だと言われても、思い当たるものは無い。
「まあ、そう言うだろうとは思っていたけど」
「分かってたなら、聞くな。で、何の日なわけ?」
仕方なく、読んでいた本にしおりを挟み、話を聞く体制を整える。
輔は待ってましたと、言わんばかりに語り始めた。
「今日は二月十四日、バレンタインデーだよ!」
「おー、過度な期待を抱く、亡者たちの災厄の日。兼、主夫輔の独壇場」
「お前の中のバレンタインのイメージって、そう言うのなのか……」
違ったっけ?
周りの男子たちから、狂気じみた気迫を感じたからてっきり、そう言う事かと。
それと主夫輔は間違って無いはず。
そう言う特別な事がある時、決まって(料理)教室を開いているし。
「それよりもだ、知ってるかよ」
「うん、もちろん知らない」
「芸能科の赤穂さん、本命渡すらしい」
「誰それ?ってか、何で知ってるの?」
「教えたってどうせ覚えないだろ?取り敢えず、美女だよ」
なんかむかつくな。まぁ、言う通り覚えないだろうけど。
「何で知って居るかと言われたら、昨日開いたチョコ作り教室で聞いたからだな」
「……俺が言うのもアレだが、守秘義務って無いの?」
「今回だけだよ。だって、あの芸能科の生徒が本命だぜ?探るっきゃないだろ?」
芸能科か……
確か、メディア関係や芸術関係の志望生徒の集まりだったな。
別に不思議はない気もするけどな~
まだ社会に出て活躍している訳じゃないだろうし、スキャンダルとは関係ないだろうし?
渡すぐらい自由じゃないか?
すると輔がチッチッと指を振りながら、考えを見透かしたように言う。
「お前の考えも間違っていない。けどな、重要なのは美女が誰にチョコを渡すかだ」
「ふ~ん、で?結局何を話したいわけ?」
俺からしたらどうでも良くて眠くなってきた。
「放課後渡しに行くらしいから、覗きに行かね?」
長い前置きだったな。
それならそう言えばいいのに。
それに、答えは決まっている。
「うん、行かねえ」
「よし、それじゃあ放課後、体育館裏に……って行かねえの⁉」
「あいにく、忙しい身でな。放課後は生徒会の仕事がある」
「あ~~。なら仕方ないか。一人で行って来るわ」
「ん、そうしとけ。……そう言えば、どれだけ貰ったん?」
残り数分でホームルームが始まるため、話を切り上げる。
がその時、ふと気になったので聞いてみた。
「義理が十個、施策の評価を含めると、四、五十はいってると思う」
「なるほど、本命はナシっと」
「うッ…、言うな…言わないで」
「ま、義理でも貰えるだけマシじゃん?……貰えない奴もいるし」
「……なんかゴメン」
本命ナシと言われた時、オーバーリアクションをしていた輔は、申し訳なさそうに俺に謝る。
けど、謝るなら他の人にしてほしい。
意味が少し違うかもしれないが、一応は毎年貰っているから。
「赤穂さん、話って何かな?」
「じ、実は更識君に、わ、渡したいものが…」
放課後、生徒会室に向かう途中の中庭で、チョコを渡す場面に出くわしてしまった。
渡しているのはどうやら、例の赤穂さんのようだ。
輔の話だと、体育館裏のはず。
これはあえて、輔にウソを教えたんだろうな。
邪魔されないようにするために。
そもそも何で俺が中庭に居たのかと言うと、生徒会室に行く前に散歩しようと思って、ここに来た。
しばらく中庭を歩き回って、そろそろ生徒会室に行こうと思った所で、現在の状況に陥った。
気配を殺して立ち去りたいところだが、場所が悪い。
二人の居る位置、それは生徒会室のある校舎側の扉付近にいる。
つまり、迂闊に動かない方が現状得策なのだ。
「渡す…もの?」
「え、えっと……そ、その」
そんなテンプレなやり取りは良いから、早く済ませて!
そんな思いが通じたのか、赤穂さんが行動を起こす。
「こ、これ‼う、受け取って‼」
「え、ちょ、赤穂さん⁉」
そう言って袋を更識に押し付け、走り去っていった赤穂さん。
「これって一体?あっ、ヤバ。部活遅れる!」
袋を押し付けられ、茫然としていた様だが、部活に遅れそうなことを思い出したらしい。
更識も急いでこの場を立ち去って行った。
「ふぅ、やっと動ける。それじゃあ俺も、生徒会室に行きますか」
「あ!遅かったね、ミー君」
「あぁ、ちょっと道に迷ってな」
生徒会室には俺と、引きこもりの赤城以外の役員は揃っていた。
「そうなの?まあいいや。それよりミー君、バレンタインデーだよ!」
「はい、はい。今年は何?」
席に着きつつ尋ねると、柑條は自信満々に言う。
「今年はミー君の他にもいたから、みんなで食べれるように、チョコレートケーキにしてみました!」
そう言って柑條は机にケーキを出す。
そう、一応貰っているとは柑條からだ。
毎年柑條がなにを思ってか、チョコを用意しているのだ。
「お上手ですね、会長」
「おいし、そう…」
「そうね、とてもおいしそう」
「柑ちゃん~、早く食べよ~」
「そんな事ないよ?だってチョコケーキは、初めて作ったからね」
そう言いつつ、ケーキを六等分して皆の前に置く。
その傍ら、雪姫さんがコーヒーを用意する。
「準備できたね?それじゃあ」
「「「「「「いただきます!」」」」」」
~後日談~
夜海:「よう、輔。昨日はどうだった?」
輔:「おう。それがな、現れなかったんだよ」
夜海:(……だろうな。中庭に居たんだから……)
輔:「下校時間ギリギリまで粘ったんだけどな~」
夜海:「……ストーカー?」
輔:「違うわ!まぁけど、少しやり過ぎた感はあるな…」
夜海:「ま、真実は闇の中って事で」
輔:「そうだな~。本人たちのためにも、それがいいか」
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