歩けない僕がやり込んだゲームに転生したら主人公(妹)の歩けない悪役兄だったので、妹に魔法を教えていたら破滅フラグを回避して空を飛べるようになりました

御峰。

第1話 転生したらやり込んだ乙女ゲームの世界

 子供の頃、夢見たのは誰よりも早く走る自分だ。


 何故なら僕は生まれて一度も歩いたことがないから。





 そんな僕が目を覚ますと、そこには慣れない光景が広がっていた。


 いや、慣れない訳ではない。とても見覚えがあるのだ。


 僕が住んでいた東京の町並みとは全く違う光景が広がっている。


 簡単にいえば、洋風な景色だ。


 僕の名前は『カイン・ディエリス』。


 その名前にも、とても聞き覚えがある。


 なぜなら、僕が生前やり込んでいた乙女ゲームの『ディスティニーワールド』の登場人物だからだ。



 『ディスティニーワールド』は、主人公の『ソフィア・ディエリス』がディエリス家の兄から蔑まれながら生き、ディエリス家から追放された所からゲームが始まる。


 王都にはイベントが進むまで入れないが、そこから自由に進めるようになる乙女ゲームにしては珍しい『オープンワールド式』のゲームで、好きなように世界を生きる事になるが、どこに行っても恋人候補がいるため、誰と結ばれるかを探したりとプレイヤー同士の交流も人気のゲームとなっていた。


 そんな乙女ゲームだが、僕はずっとソロプレイ――――恋人を決めずに、ただゲームを楽しむプレイヤーの一人だった。


 僕自身が男なのもあるから、ソフィアと一緒に旅をしている感覚を味わえたからだ。


 さて、ゲームの説明はここまでするとして、一番の問題は僕が転生したと思われるのが、主人公であるソフィアをひたすらに蔑んで、家から追い出す悪役令息カインとして生を受けたという事だ。



 最初は前世の記憶と、生まれたばかりの赤ん坊の自分の身体に慣れなくて驚いてしまったけど、心の中で覗けた『ステータス』が『ディスティニーワールド』を思い出させてくれて、冷静な判断を下せるようになった。


 僕が生まれて2年後に、主人公であるソフィアが生まれる。


 ソフィアは僕とは腹違いの兄妹だ。


 お父様とメイドの間で生まれた子供で、それも相まって主人公は大人になるまで兄であるカインにずっといじめられていた。


 つまり、現在の僕だ。


 カインが卑屈な性格になった最も大きな理由は、歩けない事だ。


 生まれながら、足が動かないので自由に出歩くことも出来ない。


 それに僕も前世ではカインと同じだったので、卑屈になるのも分かる。


 赤ちゃんだけど、意識はちゃんとしてるから分かるけれど、やっぱり足が全く動かない。


 屋敷では僕の足が動かない事が噂になっていて、お父様も僕を見る度に溜息を吐いている。




 ◇




 僕が3歳になって、足は動かないけど、手や口をばりばり動かせるようになった。


「アーリー!」


「は、はいっ!」


 アーリーというのは、僕の身の回りの世話をしてくれるメイドで、14歳の栗毛の髪でそばかすがあるけど元気の良い娘だ。


「ソフィアの所にいく!」


「かしこまりました~!」


 アーリーに抱かれて部屋を移動する。


 向かった部屋は、ソフィアに与えられている部屋である。


「カイン様。いらっしゃいませ」


「リアさん。こんにちは~」


「本日もお越しくださりありがとうございます。ソフィア様も嬉しいと思います」


 お父様の子供なので、リアさんの娘とはいえ、リアさんよりも身分が上になるので、ソフィアには様を付けて呼ぶのは習わしだ。


 アーリーがいつも通り、ソフィアの隣に下ろしてくれる。



 キャッキャー!



 最近では僕の匂いを覚えてくれたようで、隣にくると嬉しそうに手と足をバタバタさせてくれる。


 ソフィアの右手に人差し指を当てると、握り返してくれて、ソフィアの温かさを感じる。


「リアさん。身体は大丈夫?」


 実はリアさんはとても身体が弱い。


 ゲーム通りならソフィアを産んだ時に亡くなるはずだったんだが…………。


「はい。おかげさまでとても元気になりました」


 お父様にお願いして、リアさんに『ポーション』を買って貰ったのが良かったようで、リアさんの顔色もすっかり良くなっている。


 僕の母親であるリズ夫人は、歩けない僕には全く興味がないようで、今では一年に一度会えるかどうか。


 お父様は長男じゃなければ、会ってもくれなかったかも知れないけど、意外と長男だからなのか、会いに来てくださるし、お願いも聞いてくれる。


 ディエリス家は僕の母であるリズ夫人によって、墜落してしまうのだが…………そうなる前に破滅フラグを回避したい。


 なので、お父様に色々お願いをしながらフラグを回避出来るように頑張りたい。


 僕の人差し指を一所懸命に握ってくれる妹のためにもね。




 ◇




 4歳になった。


 すっかりソフィアも歩けるようになって、覚束ない言葉を話せるようになっている。


「おにいたま~」


 それがまた可愛くて、目に入れても痛くないかも知れない。


 最近はお父様もソフィアやリアさんにも会いに来てくれる。


 リズ夫人にはいい加減に嫌いになっているみたい。


 毎日お金を水の如く使い続けているし、お父様は分からないだろうけど、裏では浮気とかしているしな。


 ディエリス家を守るためにも、あの母を何とかしなくちゃ……ただ証拠がなければ、お父様に提示出来ない。


 まだ数年先にはなるが、少しずつ僕のペースに持ち込みたい。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る