14話 ナイトさんとアッガス
「し、死体が……死体が起き上がっ……うーん……」
宿泊施設を出て、ナイトさんに案内されるままに教会の遺体安置室まで向かうと、案の定そこには腰を抜かしてうわごとのように何かをつぶやいている神父がおり。
「なんでぇ、人の顔見るなり騒ぎ立てやがって……失礼な神父だな」
祭壇には体を起き上がらせて、そう呟くアッガスさんの姿があった。
「アッガスさん!」
元気そうな姿に私は声をあげてアッガスさんのもとに駆け寄ると、アッガスさんはきょとんとした表情をうかべ。
「あー、嬢ちゃんか。これはいったい何の冗談だ? 俺は確かに殺されたはずなのにこの通りだし、俺だけならまだしも確かに真っ二つにされたはずの仲間二人が隣で花提灯を浮かべてるときたもんだ。もしかして冥土ってのはこんなにも辛気臭い場所なのか?」
アッガスさんはいつもの様子で混乱しながらもぼりぼりと自分の頭を掻いてそう呟き、私はそんなアッガスさんの言葉にくすりと笑ってしまう。
「信じられない、本当に死人が生き返ってる……あぁ、今日一日で僕の魔術の常識がすでに四つは破壊されたよ」
蘇生に対して半信半疑であった局長も、実際に生き返ったところを見れば信じざるを得ないらしく、間の抜けたセリフをつぶやく。
「ほぅ、その状態でもう動けるのか、タフなやつだ」
アッガスさんたちの無事を喜んでいると、神父さんの心に消えない傷を作った張本人、ナイトさんがやってくる。
「あんたは?」
「俺は至高の騎士、ナイト=サン。 転生者に殺されたお前たちを、マスターの望みで蘇生させたものだ」
「蘇生? ってーと、やっぱり俺は死んだのか?」
「ああ、冒険者やっててよかったな。あと少しレベルが低かったらお前は本当に空の星だ」
「あぁ、そうみてえだな……助かったよ」
自らが死んだこと、そしておとぎ話の中でしかありえない蘇生によって生き返ったこと。
その二つをアッガスさんは自然に受け入れた。
「驚かないんですね」
「まぁな。確かに目の前で両断された仲間が花提灯垂らして寝てるところを見せつけられちゃ信じるしかないだろう……それに、その男ならそれぐらいはできそうだ」
ギラリと目を光らせ、アッガスさんはナイトさんに向かいそう口元を緩める。
「ほぅ、この俺を見て一目でただものではないと感じるか。お前は本能的に長寿タイプだな」
「身のこなし、立ち居振る舞いすべてが一級品。隙の一つもありゃしないし……歩く度にまるで化け物が目の前にいるときみたいに空気が震えてやがる。そんなあんたなら、俺を生き返らせたといわれても何ら不思議でもないな……それだけお前の存在は異質で強大だ」
アッガスさんはそう言いながら、祭壇から足を下ろして立ち上がろうとするが。
「うっ……」
足をもつれさせ、その場に転びそうになる。
「アッガスさん」
私は慌ててアッガスさんを抱き留めようとするが、それよりも先にナイトさんはアッガスさんに肩を貸す。
「すまねえな、この体たらくだ」
「気にするな、貸し一だ冒険者」
「ふっ……アッガスだ。 アッガス・ガースフィルド」
「よろしくアッガス。そこでは寝心地が悪いだろう、宿まで案内する。そこの二人もな」
そういうとナイトさんはアッガスさんを宿泊施設の寝室へと運んだのであった。
◇
「そりゃあまあ、俺が死んでる間にも随分と色んな事があったんだな」
ベッドに仲間たちを運んだあと、おさらいもかねてアッガスさんに事の顛末を報告するとアッガスさんは肩をすくめて首を振る。
「問題は山積みだし、謎も山積みだ」
「ほかに滞在していた冒険者との連絡は?」
アッガスさんは仲間を心配するようにそう問いかけると。
「そちらは問題ないよ、君たちの言う蜻蛉切という転生者は冒険者たちを襲わなかったようだ。隠密の技術が高い奴で逆に助かったといったところかな。下手な被害を出さずに済んだみたいだ。先ほど連絡が取れたから、ほかの用事を終わらせたのちにギルドに各自戻るとのことだ」
「そりゃよかった。しっかしノエールズ地方の反対側……国境付近まで来ちまうとはずいぶんな長旅をしたもんだ」
「わたしも驚きました。でもなんでここに飛ばされたんでしょうか?」
「ナイト君が言っていたが、おそらく何か意味があるものなのだろう。それが僕たちにとって有益になるのか、転生者にとって有益になるのかは知らないけどね。この街の調査はどちらにしても必要になると思う」
「では引き続きマスターはこの街を調べるという方針か?」
「ああ、こちらとしてもできるならすぐに騎士団を派遣したい……だが、ノエールズ地方の最東端となると、迎えをよこせるのはひと月はかかるだろう」
「随分とかかるじゃねえか。俺たちの馬だって一週間もありゃこっちにつけるぜ?馬具に派手な装飾つけすぎなんじゃねえか?」
アッガスさんのジョークに対し、局長は苦笑を漏らすと。
「うちの馬具はどこよりも軽くて丈夫なメアチタン製さ、普通に飛ばせば五日とかからないよ。問題なのは向かわせられる人員がいないというところさ」
「なんだと?」
「困ったことにね、先日のノエールズ地方南の地揺れの原因がアースドラゴンだってことがわかったんだ。震源地はもうめちゃくちゃさ。地揺れで建物は全壊、おまけにアースドラゴンがあちこちをめちゃくちゃに焼き払ってる。幸い、奇跡的にけが人や死傷者はゼロだったみたいだけど。その討伐に騎士団の本体は駆り出されている」
「地揺れの多い国だからこそ、この国は人命最優先の建築が義務付けられていますからね……王のこだわりが今ここに功をそうしたということですね」
「ああ、騎士団の派遣も迅速的だったからね、アースドラゴンによる被害もないようだ……討伐も、おそらく一週間もあれば可能とのことだよ」
「ふむ、まぁ地揺れはいいとして局長よ、つまり今、首都はがら空きということか?」
ナイトさんは何かを考えるようなそぶりを見せて、そう呟く。
「そういうことになるね、ああもちろん騎士団長はいるし、親衛隊は残っているよ」
「なるほどね。俺たちを迎えに来ちまったらそれこそ裸の王様になっちまうってことか」
「そういうこと。だから君たちに迎えをよこすことはできない……ある程度の路銀があるならそれで戻ってきてほしいんだけど」
「えと、確かある程度のお金を渡されていたと思いますが」
私はそう言い、腰に下げている金貨袋に手を伸ばすと。
「あれ?」
巻き付けてあったはずの金貨袋はなく、むなしく手が空を切った。
「あれれ? 私の財布……」
慌てて私は全身を探すが、金貨の袋は見つからない。
「もしや、探しているのはこれか?」
そういうとナイトさんは自分の懐から皮の袋を取り出し投げてよこす。
それはまさしく私の財布であった。
形も色もそのまま……ただ、中身がなくなっていること以外は何も変わっていない。
「ナイトさん、この中にあったお金は?」
「ふむ、宿台ですべて使ってしまった。男女合わせて五人分の宿泊料金だからな、それなりにしてしまったのだ」
確かに渡された金額はそんなに多くなかった。町の発展具合から見て、男女五人が止まれば空になるのは仕方のないことだろう。
「騎士団の倹約姿勢が裏目に出たか。しかし転生者が君たちをここに飛ばしたのは偶然とは思えない。この町に何かが起こるのか、それとも君たちがここにいることで転生者にとって都合がよくなるのかわからないが、どちらにせよ気を抜けない状況が続きそうだ。できる限り早急に帰還をしてほしい。だがその反面、転生者に対する手掛かりがこの町にあるというのは間違いがないだろう。帰還方法の確保と並行して、町での情報収集もお願いしたい」
「ふむ、盛りだくさんだな」
「僕だってそんな無茶をサクヤ君に強いたくはないさ! でもこの町が転生者と、そしてあの遺跡と何か関係があるのは確かなんだろう? ならばこれが僕の導き出せる最善手なんだ……僕のほうからも、できる限りのサポートをするから勘弁してほしい」
「ちなみにサポートってたとえば?」
「えぇと、町の情報を伝えたり作戦を立てたり……あぁ! 名所とか名産品とか! そういう情報は僕に聞いてくれればなんでも教えられるよ! 例えばこのあたりでは、三日月草の栽培が盛んでね」
「観光気分ですか……。しかし意外ですね。出不精で引きこもりかと思っていましたが、案外旅行が趣味だったんですか局長」
旅先のことは旅慣れているものに聞く。これは冒険をする鉄則であるし、冒険者とはまた違った視点から、この街についての情報が得られるかもしれない。
そう私は少し局長を見直すが。
「あはは、まっさかー。 お外には危険なことがいっぱいなんだよ? そんな危険な場所に僕が出向くはずがないじゃないか。僕が各地のことに詳しいのは、冒険者クッコローの出版してるクッコロ旅行記が愛読書だからに決まっているじゃぁないか!」
「なんだ、うるさいだけの役立たず。いつもの局長ですか」
得意げに話す局長に殺意が沸いた私はそう吐き捨てた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます