2話 冒険者アッガス
出発当日。私は集合場所である王城前にとりあえず必要なものだけをもってやってくると、そこにはサーカス団の一座でも入っているのかと思うほどの巨大な馬車と、統一性のない鎧を身にまとった男性たちが待っていた。
集合時間十分前に来たのだが……彼らはもうずっと前からここで待っていたかのような様子で、王城前の見張りの兵士と談笑をしている。
数は二十名ほどであり、目前の馬車ほどではないが奥にもまだ馬車が控えている。
「よぉ、嬢ちゃん」
私の到着に気が付くと、兵士と話していた大柄で筋肉質な男が私にそう話しかけてくる。
「あなた達が、ギルドから派遣された護衛団ですか?」
「そういうあんたが、騎士団の最重要人物でいいのかい?」
「重要人物かどうかはわかりませんが、王国騎士団魔道研究局召喚術専門担当官、サクヤ・コノハナと申します」
「あれ? おかしいな。依頼に来た兄ちゃんは確かに最重要人物って言ってたが……まぁしかし王国騎士団の専門担当官といえば、それぞれが上級騎士の地位を与えられているというじゃないか、そのようなお方の護衛をできるとは、恐悦至極ってもんだ」
「えぇ、まぁ……ですがあくまで特別上級騎士扱いなので、一個大隊を率いたりする権利も技術もないですし……その、お恥ずかしながら戦闘は期待しないでいただけると」
「なおのことありがたい!」
「ありがたい?」
頼りないと怒られると思ったが、アッガスさんは嬉しそうに手を叩いて口元を緩ませる。
「あぁ失礼、俺らは卑しい冒険者なもんでね。国からの依頼ってのはいっつも提示してくる金額はいいんだが、何かにつけてケチをつけてくるもんでね」
「あぁ……そうですよね」
騎士はプライドが高い。
それはこの国や世界を守護する第一人者である―――現在は転生者によってその役目が果たせなくなってきつつあるが―――という自負がそうさせている。
身分や生まれ、種族までがそれぞれ異なるこの世界で統率を取るという意味ではその自負は有利に働いているのだが、こういった場合ではその自負がさもしい根性を見せることもしばしばだ。
護衛任務などされた場合など特に「一般人などに守られてなどはいない!自分一人で戦った!」と始まるのが常である。
「今回は非戦闘員の護衛だって聞いて、だから俺たちも喜んで参加させてもらったのさ」
なるほど、機嫌よく門番と話していたのはそれが原因か……。
ちらりとあたりを見回してみても、誰もかれもが浮いた表情で笑っている。
まぁそうか……転生者の脅威が少ないこの国領内の遺跡、しかも外側のスケッチ程度なら余裕でできてしまうほどの安全地帯まで私を護衛するだけ。
しかも上級騎士相当官である私の護衛金には、おそらく局長も団長も結構な金額をはたいたことが見て取れた。
「少し、心配しすぎたかも」
冷静に考えれば、護衛の数も過保護なほど多い……。
弓兵、槍兵は当然のことながら、どんな状況を想定しているのか龍伐士ドラゴンスレイヤーまでいる……。
近くの戦場で、遊撃部隊として参戦するといっても誰も疑わない……それだけの戦力が、私を守るために集結していた。
不安がる私を安心させるために。
「……局長」
「呼んだかい?」
「ひゃあう!?」
不意に、耳元で局長の声が響き渡り、私は素っ頓狂な声を上げてしまう。
通信魔法の一種……騎士団の緊急連絡用の【テレフォ】の魔法である。
「お、おうどうしたんだ? 嬢ちゃん」
私の突然の大声に、アッガスはきょとんとした顔で武器を取り警戒態勢を敷く。
「あ、いえ!? ごめんなさい何でもないです!」
私は慌てて周りの人たちの警戒を解き、耳元にいきなり声をかけてきた男に対して文句を言う。
「きょーくーちょーうー!? なんで私の通信コードを知っているんですか!? ってかいきなり声を出さないでください、びっくりしたじゃないですか!」
「いやーごめんごめん。 ほら、君だけだと不安もあるし、せっかく転生者につながる遺跡を発見したんだ、魔道研究局員全員で情報は共有しないといけないだろう?というわけで研究室から君をバックアップすることになったんだ! あ、ちなみに君のコードは、緊急事態だからっていう理由で騎士団長に教えてもらったよ。 直接頼み込んでも、君、教えてくれないだろうどうせ?」
「少なくとも、帰ってきたときに拳骨を食らうことはなかったとは思いますが」
「やだなぁ、僕だって本意ではなかったさ……あ、ちなみに映像も映っていたんだけどね、君の年と見た目で黒の下着はまだはや……」
「ぶっ殺す」
「おお怖い!これ以上は通信越しに爆破されてしまいそうだし、早々に退散するとしよう、とりあえず通信状況が良好であることが確認できたからね、お見送りを済ませて仕事に戻るとするよ。四日後に再度連絡をするから、寂しいと思うけど」
「できれば二度と連絡をよこさないでほしいんですけど、というか二度と話しかけないでください」
「あらら、予想以上に怒らせてしまったようだが、それはできない相談だねぇ、なんたって僕は君の上司なんだし。でもまあ、これ以上は君の機嫌を害するだけだろうしもう切るよ 僕も忙しいからね。それじゃあよい旅を」
なんて言って、局長は通信機の電源を切った。
「むぐぐ……あのあほ局長は」
私は喉元でつかえた文句を無理やり引っ込めながらもそう呟く。
いつもそうだ……ああやってふざけた態度で私をからかうから、今回もお礼を言いそびれてしまったじゃないか……。
「話は終わったみてぇだな。そろそろ出発するがいいか? 嬢ちゃん」
「あ、すいません。お待たせしました……」
通信が切れたと見たのか、アッガスさんの声が響き、私はわれに返り振り返る。
局長あのアホに対する報復は後々考えるとして、今は任務に集中をしなければ。
「なに、こちらも馬車の最終点検が今終わったところだ……。それじゃあ出発しよう」
「はい……よろしくお願いします」
私はそうアッガスさんに対し頭を下げたのち、ほかの方々が待つ馬車へと乗り込むと。
「じゃあ、出発しますよー」
運転手ののんきな声が響き渡り、同時にゆっくりと馬車は動き出したのであった。
◇ 3
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