78.7話 おザキ様とアトラン族 その3

簡単なあらすじ『前回と同じく、おザキ様とアトラン族達の過去話……ちなみに、もうちょっと続きます』




男が魔王城を立ち去った日の翌日。

今日もまた第二の棲家探しをしようとしていたおザキ様は、〝あるもの〟を見つけました。


それは、魔王城へと向かっているらしき複数の人間達です。


服装を見、彼等がアトラン族の者達である事はすぐに分かりました。


……しかし、どうしてここに向かっているのだろう?

昨日の男が腹を立てて町の者達をけしかけ、報復でもしに来たのだろうか?


だが、例えそうだったとしても自分なら誰一人として死者を出さずに追い返す事が出来るはずだ。


そう考えたおザキ様はゴリアース・プラントにアトラン族の者達を襲わぬよう命令し、城の入り口にて彼等を待ち受ける事にしました。




扉の開かれる音が聞こえます。

やはり、彼等はここを目指して歩いていたようです。


そうして入って来たアトラン族の者達を、おザキ様は前述した通り、待ち構えていました。


自身から溢れる〝気のようなもの〟で失神されても困るので、また昨日やって来た男を観察していた時くらいの位置からでしたが……


すると、アトラン族の者達は互いに目で示し合わせた後に片膝を地につき祈るような姿勢をし、何事かを呟き始めました。


おザキ様は耳を澄ませてその言葉に耳を傾けます。

が、そうしているうち、彼の顔には段々と驚きの表情が浮かび上がってきました。


それは勿論、彼等の話のせいです。

何せ、アトラン族の者達は皆が口を揃えて……


『先日、若い族長候補の者が〝ダマレイ〟と言う素晴らしい名前を貴方様に頂いた事、とても感謝しています。ただ……もし不都合でなければ私達も是非、貴方様から名前を頂きたいのですが……』


とまあ、そのような事を言っていたのですから。




〝……しまった〟


アトラン族の者達の話を聞いたおザキ様は額に手を……翼を当ててそう言いました。


恐らくですが、『先日の男はおザキ様の放った言葉があまりよく聞こえなかった』のだと気付いたからです。


あの時のおザキ様自身もそうであったように……


それで男は何もかもを間違いながら早合点した結果、『自分は守り神様に名前を貰ったのだ!』という解釈をするに至ったのでしょう。


(そして、アイツが他の町人にもその事を告げて……こんな具合か。まあ、何となくは理解したが……何故そうなるんだ)


そう思い、おザキ様は頭を抱えます。


同時に、やはり心優しい彼は『罪悪感』をも覚えていました。


……自分のせいでアトラン族の族長候補が変な名前になってしまいましたからね。


まあ、男に名前を与えたのは(結果的には)おザキ様本人であるとは言え、彼にただの一つも非が無いのは明らかなのですが……




結局、アトラン族に対して少しばかりの申し訳なさを感じたおザキ様はその時に魔王城を訪れていた者全てに名前を与え、町へと帰しました。


すると、またそれを聞いた他の者が魔王城を訪れ……

というような形で、『守り神様に名前を付けてもらう』のは、一種の儀式のようなものとなって町人と、そしておザキ様との間に定着していきました。


ですが当時のおザキ様はまだ、ここに彼等が来る事自体色々な意味であまり良くは思っていなかったのですが……


ただ自分が考えた名前で人々が喜んでくれる事と、毎回彼等が捧げ物を持って来てくれる事には悪い気がしなかったので仕方なく、それを続けていました。


……それに本当の所は。

毎日違う、それもちゃんとした名前を考える事によって、おザキ様は幾分かは自身の傷心を忘れられる事が出来ていたようですからね。


ただそれだけの事とは言っても、当時の彼には必要だったのかもしれません。


(ちなみに、名前は大半が和風のものでした。

つまり、彼等が何処か聞き覚えのあるような名をしているのはおザキ様のお陰(?)だったようですね。


ダマレイを除いて……)


そして月日は経ち、町の者達が全員おザキ様の与えた名前となった頃……儀式は『新しくこの世に生まれ落ちた赤子におザキ様が名前を付ける』というようなものへと変化していました。


その頃のおザキ様はもうすっかり魔王城にも、ザキ地方にも慣れて……


こそいましたが、やはり人々が安易にこの場所を訪れる事を快くは思っていませんでした。


確かに儀式の前日に彼等は狼煙を上げるので、おザキ様はそれを見てゴリアース・プラントや城内にいる魔物達に人々を襲わぬよう言い付けます。


だから、その日だけは魔王城に入る事それ自体は安全なのですが、道中までは彼等を守る事が出来ない……等々、気にしなければならない点は他にも沢山ありますからね。


……というようなワケで、おザキ様はまた新たな悩みを抱えたまま、隣人である彼等との奇妙な関係を続けていました。




そんな時でした。

魔王城に再びあの男……いや、ダマレイが現れたのです。


つづく。

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