78.5話 おザキ様とアトラン族
簡単なあらすじ『これは楽しい空の旅(?)をしている最中のお話です』
そうだ。
サチエのためだ。怖いけどしょうがないのだ。
ここで俺が「頼むから降ろして!」何て言ったらタイムロスが発生してしまう。一刻も早くサチエには治療を受けさせてやらなければならないのだ。しょうがないのだ。
「しょうがないしょうがないしょうがないしょうがないサチエのためサチエのためサチエのためサチエののため」
快適な空の旅(?)の最中、俺はそう念仏のように唱え続けていた。
ちなみに、隣にいるエリマはと言うと。
おザキ様の言い付けをきちんと守って大人しくしていた。実に素直な良い子である。
だかしかし、凄く楽しそうにもしていた。
それは雰囲気だけで充分に分かる程だ。
多分、この子は自力で飛べぬから今の状況が楽しくて仕方がないのだろう……そう考えるとほんの少しだけ、『飛びたくても飛べない奴だっているんだから俺はそんな彼等の分まで楽しまないと!』という気分になってくる。
ほんの少しだけ。
〝……何だか、悪い事をしてしまったようだな。だが君の言う通り『彼』のためなのだ。どうか許して欲しい〟
またおザキ様に謝られてしまった。
いや、どちらかと言えば謝らせてしまった、か。
いくら心を落ち着かせるためとは言え、同乗者がこうブツブツと呟いていたら運転手は謝るしかない……彼は悪意を持ってやっているワケでは無いと言うのに。ただ乗りしているだけの俺は謝られるどころか礼を言わなければならない立場だというのに。
「あ……いやその!僕の方こそなんかすみません……き、気にしないで下さい」
〝そ、そうか……〟
……俺のせいで少し気まずい空気になってしまった。
どうしよう……そうだ!
ならちょっと気になる事もあるし、俺から話を振ってみようか。
そうすればこの空気も幾分かはマシなものに出来るはずだ。良い気分転換にもなるだろうし。
そう考え、俺はおザキ様に話しかける。
…………今にして思えば、この行為こそが意外な真実を知るきっかけであった。
宣言通り、俺はおザキ様に話しかけてみる事にした。
「あの……尾崎さん。一つ聞いても良いですか?」
〝ん?どうした?〟
「確か尾崎さん、さっきサチエの事、『彼』って言いましたよね?
でもサチエは服装的にも、体型的にも一目見ただけじゃ男か女かなんて分かりにくいはず……僕の勘違いだったらすみませんけど、もしかして尾崎さんは以前からサチエの事を知っていたんですか?」
〝ああ。アトラン族の者達は儀式の際、城を訪れるのでな。彼だけでなく、大抵の者は知っているよ〟
そうおザキ様は答えた。
まあ、よくよく考えたら例え儀式が無くとも魔王城とアトラン族の町は隣り合っているようなものなんだし(他に何も無いから)、そりゃあ知っていてもおかしくはないか……
いや、それよりも。
彼等は儀式でここまでやって来るのか……驚きだ。
というか、こんな強い魔物の巣窟みたいな所をよく訪問できるものだ。戦闘能力的な意味でも、精神的な意味でも。
それにしても、そこまでしてやるその儀式とやらは一体どういったものなのだろうか。気になるな。
「そうなんですね。
……あの、もう一つお聞きしたいんですが。
その儀式ってどんなものなんでしょう?
すみません、ちょっと気になっちゃって。
村で子供が産まれるとやる、って言う所までは分かるんですが」
多分、アトラン族がここにやって来る目的と言えばおザキ様しかないはず。だから彼は知っているはずだ。
そう思い、俺は儀式について彼に尋ねてみる。
〝ああ、それはだな……
簡単に言えば、『新しくこの世に産まれ落ちた子の名を私に決めさせる』。それが彼等の儀式なんだ〟
彼はあっさりと教えてくれた。
そうか、そういう事だったのか。
まあ確かに、最強クラスの魔物に名前なんて付けてもらったら……その名には箔が付いて付いて付きまくるのだから、危険な思いをしてでもやる価値は大変ある、いやありまくると言えるだろう。
しかし、アトラン族の行動にもこれまた驚いたが、それを認めたおザキ様にもまたまた驚いた。
やはり本当に彼は優しい……
いやいや、それはちょっとやり過ぎなのではないだろうか?
「なるほど。
…………あの、出過ぎた事を言って申し訳ないとは思うんですけど、尾崎さんはそれで良いんですか?
いやあの、何と言うか……
人間に干渉し過ぎるのは尾崎さん的に良いのかな〜……と思って」
そう口にした後に後悔した。
余所者が少々、出過ぎた事を言ってしまっただろうかと。
恐る恐る、俺はおザキ様の顔色を窺う。
すると、彼は困ったような顔をしていた。
「あ……ごめんなさい。
余所者の僕がそんな余計な事……」
〝いや……良い。言いたい事は分かる。
だがな……厳密に言えば、これは私が始めた事では無いから仕方がないのだ〟
〝フフフ、そうだよ。おザキ様は元々この場所に長くいるつもりもなければ、儀式なんてやるつもりもなかったんだからね〟
その時不意にエリマが口を開き、珍しく(まあ、俺はまだそう言える程彼を知らないのだが)悪戯っ子のような口調で俺にそう話した。
「え、そうなの?」
〝こら、エリマ。余計な事を言うな〟
〝フフフ、ごめんなさい〟
おザキ様がエリマを窘めたのでそれ以上彼に深く聞く事も出来ず、空飛ぶ二匹と一人、そして最初から黙り込んでいるもう一人の間には沈黙が訪れた。
それでは、どうしておザキ様は儀式を続け、またここに残る事にしたのだろう……そこまで聞いたら気になるんだがなぁ。
〝…………クボタ、聞きたいか?〟
突然、おザキ様が沈黙を破ってそう言った。
「えっ!?いや、あの」
〝そうか、なら良い。
その顔は最後まで聞きたがっているそれのような気がしたのでな〟
……図星を突かれてしまった。
「…………すみませんその通りです。
ぜひお聞きしても良いですか?」
〝…………ああ。ただし、サチエには言わないでくれよ?〟
そうして結局、おザキ様は俺に〝ある話を〟してくれたのだった。
彼の過去と、アトラン族の儀式にまつわるお話を。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます