六十八話 いびつな足音

簡単なあらすじ『夢の中(?)でアルヴァークと約束をし、クボタさんは彼と別れました……』




長いような、短いような。

そんな夢から覚めた俺は、何処かの部屋の中にいた。


「ん?……ここは……あれっ!?」


覚醒した俺はすぐさま起き上がると、自分自身の身体を見、それが〝確かにここにある〟のかを確認するため頬をぺしぺしと叩いた。


確か、俺はドラゴンゾンビとの戦闘中、自称神様に身体を譲った…………それが戻っているという事は、奴は俺に身体を返してくれた、のか。


それに、あの時失ったはずの腕も復活している……以前のものではなく、継ぎ接ぎしたかのような傷跡(?)のある腕ではあるが。


とりあえず、もう全てが終わって何も心配はいらない……という事で、大丈夫なのだろうか?


だが、この部屋には俺しかいない。

よって今は何も知る事は出来ないと気付いた俺は、ひとまず部屋内をきょろきょろと見回した。


そこは草臥れた、八畳程の一室だった。


ドレッサー、絨毯、ソファ。

そこにある全てのものが時の流れに犯され、年老いている。彼等はとうの昔に自身の役目を終えているのだろう。


とはいえ、その物達が贅を尽くして作り上げられた事は今でも尚、はっきりと理解出来た。この凡人である俺にすらだ。その所有者はとんでもない程の金持ちだった……可能性は高い。


その部屋には窓があった。

俺はそれへと近付き、外の景色を眺めてみる。


そうすればここが何処か、分かるかもしれないと思ったからだ。


すると、そこからは荒野を一望する事が出来た。

少し離れた場所にはアトラン族の町のようなものも見える。


少なくとも、ここが『かなり高い位置にある場所』である事と、『ザキ地方である事』は間違い無いだろう。あの独特な雰囲気はアトラン族の町にしか出せないものであるはずだからな……


……そんな情報を掴んだ俺の脳に、ある推測が浮かんで来た。


ザキ地方の、それもかなり高い場所にある部屋。

つまりここは非常に高く作られた建造物。


そんなモノはザキ地方には一つしかないはず。多分。

まさか、ここはもしかすると。



魔王城。

でも、俺が何で……?



そのような事を考えていた時、『この部屋へと接近する何か』の足音……だと思われる、ややいびつな音が聞こえてきた。


〝そこにいる者。目覚めたのだろう?具合はどうだ?〟


どうやら予想通りだったようだ。

そして、その何かは俺のいる部屋の扉の前で立ち止まるとそう言った。それは、何処かで聞いた事のあるような男性の声だった。


その声の主は俺を心配している様子だった。


だったのだが……俺はそれを聞いた途端に、動く事も、口を動かす事も出来なくなってしまった。


何と言ったら良いのだろうか……

その何かの気……とでも言うのだろうか。それが強大過ぎて恐ろしさのあまりにどうする事も出来なかったのだ。


例えるならば、それはあの時ドロップ地方で受けた〝彼女〟のものと同じような…………


〝大丈夫だ、落ち着いてくれ。君に危害を加えるような事はしない。そして私から扉を開けるような事もしない。だから少しずつで良い。少しずつ《これ》に慣れ、その後で返事をしてくれれば良いんだ。私はそれをここで待たせてもらうよ〟


数秒間の沈黙の後に、何かは言った。


彼は扉を挟んだ向こう側で俺がこうなっている事が手に取るように分かるのだろう。自身の強さ故に。


なら正直、何処かに行ってくれた方が良いのだが……いざ会話するとなった時にまたこのような状態になられては困るから、俺に慣れさせておかなければならないんだろうな。


「す、す……すみません……でした。大丈夫、です。目覚めて、います。具合も……悪く、ありません」


その後二十分程してから、俺はたどたどしくではあるが漸く声を発する事が出来るようになった。


たかが声を出すのに二十分も用してだ。

いや、むしろまた気絶しなかっただけマシなのかもしれない。


〝そうか……それは良かった。食い物を持って来たんだ。まずはそれを食べると良い。


だが、その…………悪いが、君が扉を開けてはくれないか?私はな、こういったものを使うのが苦手なんだ〟


俺の声に反応し、彼はそう言った。


そしてその少し調子を狂わされるような、よく分からない事実を聞かされた俺は緊張がやや解れたのか、その後、先程の約半分程度の時間で普段の調子を取り戻す事が出来た。

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