四十六話 再び!ザキ地方へ!

簡単なあらすじ『アルワヒネの特訓が嫌になったクボタさんは、それを回避する口実として久しぶりに依頼を受ける事にしました』






アルワヒネに本日の練習の辞退を申し出ると、少し寂しそうにしていたがOKとの返事を貰えた。


そしていざ出発。と、いう時に少女は『あの〜、私も一緒に行っても良いんですよ〜?』みたいな顔(多分)をしていた。もしかして一緒に行きたかったのだろうか。


そして、その様子からやはりアイツも俺達の事を何だかんだ好いてくれていて、そうであるがために厳しく指導(?)していたのは何となく理解した。


なので、連れて行ってやりたい気持ちはあったのだが……


強力な魔物であるアルワヒネが付いて来ると、それこそ実戦練習どころではなくなる。俺達が討伐依頼を受けられる程度の魔物ならばほぼ間違いなく、少女一人でも倒せてしまうのだから。


そう考えた俺は少々可哀想だとは思いつつも少女に留守番を任せ、街の集会所兼酒場へとやって来た。


定期便が来るまで後一時間程だ。

勿論、依頼は既に受諾しているし、緊急招集の知らせも既に出しておいた。なので、それまでにはジェリアもここにやって来るであろう。


魔物達は久々の外食&外出ともあってか、やや興奮気味である。どうやら、まだまだ遠足気分でいるようだ。


……まあ、俺もそうなんだけどな。ついついいっぱい料理とか頼んじゃったし。


「クボタさんっ!!コルリスっ!!」


不意に俺達を呼ぶ、焦りを含んだ声が聞こえた。


ジェリアがやって来たようだ。想定していたよりも随分と早い到着である。


荒い息をした彼女はひどく動揺した様子で俺達のいる席へと駆け寄って来たが、それを見た俺とコルリスが同時に手を合わせ、頭を下げた事により全てを理解し、顔を顰めた。


彼女が何を理解したか……?

それは勿論『俺達がまた緊急招集をそんなに緊急でもない時に使った』事だ。


「もう!〝アレ〟を何でもない時に使うのいい加減やめなさいよ!急いで来て損したわ!」


ジェリアは俺達の真似をしてその意味も分からぬまま手を合わせているルーの隣に座ると、そう言ってぷりぷりと怒り始めた。


……が、ゴメンゴメンと口では言いつつも、『オマエもやった事あるよな?』と訴える四つの目を向けられた事により、彼女の中にあった怒りの炎はすぐに鎮火した。


その後少ししてから、近くの席から「うわぁ」とかいう声が聞こえたのでそちらの方を向くと、なんと窓の外にミドルスライムとチビちゃんが張り付いているのを発見した。


心なしか、心配そうにこちらを覗き込んでいるように見える。そのすぐ後にジェリアから「あの子達も〝アレ〟が届いてから様子がおかしかったの。きっと心配してたのよ」と聞かされ、自分のした予測は正しかったのだと知った。後で謝っておこうと思う。


それとほぼ同時に店員が注文していた料理を持って来たので、何故かずっと窓際にいる二匹のため、俺達はそれを急いで胃に流し込んだ。(一応ドラゴンも入ったのだし、店には入れると思うのだが……腹が減ってなかったのかな?)


それと、これはどうでも良い話ではあるのだが……


ジェリアは提供される料理を見たプチ男とケロ太のぷるつき具合だけでそれが二匹のうち『どちらが、どれを』欲しているのかという事を瞬時に察知して望み通りのモノを彼等の前に置くという微妙に凄い特技を披露した。


あとこれもどうでも良い話だが、何故か俺の料理だけをジェリアは『嘘をついた罰』と称して勝手に半分にし、勝手にその半分を召し上がりやがった。




飯を全て平げ、デカい方達には謝罪を済ませた。


そんな俺達が今いるのは、定期便がやって来るバス停的な場所である。


「フフフ、初めてのザキ地方、楽しみです!早く来ないかなぁ……」


コルリスは楽しげにそう言う。


あ。彼女が先に言ってしまったが……

そう、今日はザキ地方にて討伐依頼を行う予定なのだ。


討伐目標はオークである。

噂によれば、こいつを倒せば「魔物使いとしては一人前、といえなくもなくもない」みたいな称号を得る事が出来るんだそうだ。


そんな称号はこれっぽっちも欲しくはないが、初めてのまともなFランクの依頼という事もあり、俺もコルリスと同じく、胸に高揚感のようなものを覚えていた。勿論、少しばかりの緊張も。


「ところでクボタさん。何で今日の討伐依頼、ザキ地方のオークなんかにしたの?この辺りでもFランクから受けられる討伐依頼なんて沢山あるはずなのに」


ジェリアはそう言う。


確かにチビちゃんがいれば今のランクの討伐依頼など容易い……と思われるし、それに『コルリスの新人研修(?)も兼ねている』という事を考えれば、すぐ行けるカムラ、ドロップ地方等で経験を、回数を重ねた方が良いに決まっている。


……が、これには理由がある。適当に選んだワケではないのだ。


「それはね……」


俺は、彼女達にこの地方の、この依頼に決めた理由を出来るだけ勿体ぶった態度で説明した。

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