十六話 スライムの欲しい物 その2

簡単なあらすじ『プチ男君の欲しい物が分かりません』






再び歩みを止めぐうたらし始めた俺を、プチ男がぷるぷるな拳で容赦無く殴打してくる。


しかしそうされた所で答えが出るはずもなく、俺は悩み続けていた。


暫く座り込んでいるとプチ男の拳の雨が更に激化し、だんだんと俺はイライラしてきた。


とうとうそれが限界に達し、俺はプチ男を放り投げる。


すると、放物線を描いて着地したプチ男はこちらの様子を伺うような動きをした後、余裕そうにぷるぷると震えるではないか、間違いなくこれは挑発している。絶対そうだ。


「……コイツ」


俺と睨み合うさなかにも、プチ男は肉体を駆使して腹の立つ動きを止めずにいる。


「おいプチ男……まさかお前、やる気か?」


俺がプチ男にそう問いかけると、奴が今度は揺れ動く波のような動作を始めた。それは『かかって来いよ』とでも言いたげに見える。


「ふーん……そうかそうか」


俺は拳を握り、ファイティングポーズを取った。本気でやるつもりはないが、少し灸を据えてやらねばと思ったからだ。


いや、でも本気で戦った事がないので今の俺とアイツ、どっちが強いのかは正直分からない。最初は少々強めにいくべきか……


そんな事を考えている間にもプチ男は俺に挑発を続けている。やっぱり本気でいこう。この時俺はそう思った。


構えたまま一歩近付いた俺を見、プチ男はようやくムカつく動きを止めて時計回りに旋回を始めた。脇を締めている右腕からはすぐに攻撃が出せないと判断した上でこちらへと移動しているのだろう。やはりコイツもやる気のようだ。


そして互いに距離を詰め、俺の間合いへと奴が入り込む。


何処かで何かが落下する音が聞こえた。それが開戦の合図……


にはならなかった。その音は俺へと落下してきたミドルスライムの着地する音だったからだ。


「ぎゃああああ!」


「こんな所で何やろうとしてるのよ……」


気付けば何処からか現れたジェリアがミドルスライムに潰された俺を見下ろしていた。


その後、彼女はプチ男を抱きしめ、何故か俺の脇腹へと軽く蹴りを入れた。






ジェリアは街に依頼を見に来た帰りだったようで、剣呑な雰囲気である俺達を発見したのは偶然だったらしい。


そんな彼女に事の次第を説明した所、どうやらプチ男の『例の形』に当てがあるらしく、ジェリアもついてきてくれる事となった。


というワケで俺達は市街地を歩いている。ちなみにプチ男は今、珍しく自分の意思でジェリアの頭の上におり、そこからも分かる通り俺達の仲はこじれたままだ。


「でも、珍しいわね。クボタさんが怒るのもそうだし、プチ男様が怒るのも……やっぱり、プチ男様はウチで」


「それはダメ」


ジェリアが申し出る前に俺はそれを却下する。それはダメだ。それだけはダメだ。


「チッ……まあいいわ。ところでクボタさん。貴方ザキ地方に行ってきたのよね?」


「そうだよ、まあアトラン族の町には入れなかったから魔王城を眺めて帰ってきただけなんだけどね」


彼女の舌打ちはとりあえずスルーし、俺はそう答える。


「そう……でも魔王城を見たのなら、一通り景色も見たのよね?あの、その、そこで大きなスライムとか……見たりしてないかしら?」


「え?見てない、けど?」


「……じゃあやっぱり、あそこしかない。何でもないわ。さ、早く行きましょ」


そう言って彼女は歩を早める。


一瞬悲しそうな表情をしたのは気のせいだろうか?彼女もザキ地方に行きたかったとか?いや、それだけでそんな顔しないか。


ひとまず俺は彼女を見失わないようついて行く事を優先した。


数分後、ジェリアは食料品店の前で立ち止まった。同じく動くのをやめたミドルスライムに膝が当たり、ぼよんぼよんするデカい球体に俺は一応謝罪の言葉を述べる。


「もしかして、ここにあるの?」


「多分、そうだと思うわ」


そう言うとジェリアはプチ男を乗せたまま店内へと入って行った。


残された俺が暇だったのでミドルスライムに付いたゴミを手で一つ一つ取り除いていると、ジェリアが満足そうな笑みを浮かべて戻って来た。どうやら御目当ての品が見つかったようだ。


「あったわよ!」


「本当にあったんだ。ありがとうジェリアちゃん。でも結局、それって何だったの?」


「それはね……コレよ!」


そう言ってジェリアが取り出したのは、ぶつ切りにされた肉だった。


「……はぁ!?わかるワケないだろ!」


確かに今彼女が持っているものは三角形に見えなくもない。しかし部位が違えば形も違うはずだ。恐らくプチ男はコルリスが買ってくる肉が大体この形をしていたので、それで誤った覚え方をしてしまっているのだろう。


それにしても、よくもまあこんな雑なヒントだけで正解へと辿り着いたものだ。やはり彼女はスライムに関して〝だけ〟は一流の魔物使いなのかもしれない。


「まあいいや、本当にありがとうジェリアちゃん。また今度お礼でもさせてもらうよ」


「気にしないで、私こそ貴方達の所に行く手間が省けて助かったわ」


「ん?」


彼女はニヤリとした表情でこちらを見つめている。何か俺達に用でもあったのだろうか?それもこの表情から察するに、俺の嫌がりそうな用件が。


そういえば、彼女が街に来た目的は……


「……まさか!?」


「そうよクボタさん。私、街には『依頼を探しに』来たってさっき言ったわよね?そこで丁度良いのがみつかったのよ」


「そ、そうなんだ。でも俺達はもう少し」


「貴方の申請も終わったし、ようやく一緒に依頼が出来るわね。ね?クボタさん?」


「いや、まだ」


「あ〜、今日は疲れたわ。何故かしら?そっか、貴方達に付き合ったからね!」


「……依頼の内容は?」


こうして、俺はFランクで初となる依頼を受ける事になった。


ちなみに、ジェリアに先程の肉を買った金を返そうとした所、それを拒否され代わりに家に泊める事を約束させられた。


なんでも明日の朝一番に俺達を叩き起こして目的地へと向かい、依頼を開始したいからだと言う……

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