十二話 いざ、ザキ地方へ! その2
簡単なあらすじ
『クボタさんはせっかく来たザキ地方でアトラン族の町に入る事が出来ず、魔王城をガン見していました。』
「お客人。今回見せられるのはこれくらいだ、すまないな。またいつでも来てくれ、その時は改めて歓迎させてもらうよ」
そう言って、いつまでも魔王城を眺め続ける俺の肩を叩く者がいた。
その人物は腰まで伸びた赤茶けた髪を口元で交差させ、マフラーのようにしている。そのため俺に見える顔のパーツは瞳だけだが、恐らく美形であるのは間違いなさそうだ。
背丈は俺よりも頭一つ小さいくらいだ。服装はアジアンテイストのワンピースのようなものであるためスタイルがイマイチよく分からないが、時折覗くすらりとしていながらも筋肉の付いた手足を見るからに、この人物は日々肉体強化に努めているのだろうと判断出来た。
紹介が遅れたが、これがアトラン族次期頭首となる人物、『サチエ』である。
俺はてっきり、こうした昔ながらの民族が長に選ぶ人物なら男性……とばかり思っていたが、そうではなかったようだ。確かに言われてみればワンピースのような服がとても良く似合っている。
ただ、名前が和風なのが少し気になる所だが……聞いても多分、変な奴だと思われるだけなので、たまたまだろうと自分を納得させた。
「ははは……そう、ですね。じゃあ、俺達そろそろ帰ります」
俺はサチエにそう告げ、街へと戻るため停留所に引き返そうとしていた……
その時だった。足元から骨だけの獣のような姿をした魔物が現れたのは。
「魔物か!」
魔物を目にした途端、プチ男とサチエは俺を庇うようにして前方に躍り出た。
〝邪魔をするな〟
その時、闇の底から響くような低い声がし、それと同時に魔物は伴っていた人魂のようなものを二人に嗾けた。
どうやら声の主はこの魔物だったらしい。
人語を扱える魔物……この目で見たのは初めてだ。
ある程度知恵がある可能性もあり、どうプチ男に指示を出そうかと俺は悩んだが、そうしている間にも人魂は二人の周囲を敵意を持って旋回する。
その一つがサチエの服に被弾し、当たった箇所が黒く焦げ付くのが見えた。あまり考えている時間はなさそうだ。
……ふと、俺は気付いた。
殆どの人魂がサチエばかり狙っている事に。
(これは、多分〝アレ〟だな。)
俺がアレと言ったのは、プチ男がよくされるちょっと悲しい他の魔物からの態度の事だ。
実はプチスライムという自然界では雑魚オブ雑魚な魔物であるためか、プチ男は野生の魔物にすらめちゃくちゃ舐められる傾向があるのだ。
そんな風にプチ男を舐め腐った相手は必ずと言って良い程攻撃を躱そうとすらせず、ルーといた場合は彼女ばかり狙う。
ただし、そうした愚かな魔物達はそれを逆に利用したプチ男による、簡単に当てる事の出来る渾身の一撃で大半が沈んでいったのだが。
まあこれはカムラ地方での話なので、この魔物にもそれが通用するかは分からないが……とにかく、今の状況を利用しない手はない。
「おい、プチ男!」
俺はそっとプチ男を呼び戻し、今のうちに奴へと全力の一撃を与えるよう指示を出した。
プチ男はそれを理解したようで、すぐさま体を限界まで引き伸ばし、魔物に照準を合わせる。
バチン!
数秒後、音を置き去りにした彼の一撃が魔物へと放たれた。その弾道は早く、鋭く、魔物の存在していた場所へと到達する。
骨が砕け、煙のようなものがそこからあふれ出した。どうやら攻撃は命中し、魔物に致命傷を与える事が出来たようだ。
俺は魔物の最期を見つめる。
そして、ある声を聞いたような気がした。
〝何故だ……英雄よ……〟
という、魔物が発したらしき声を。
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