第50話 吹雪
◇
パチパチと音を立てて燃える暖炉の前で、マーヤは凍えた体を温めている。
謎の男に連れられてやってきたのは、木製の簡素な山小屋。
男の素性は知らないが、とりあえずすぐに攻撃されるような事は無さそうだ。
そう判断したマーヤは心置きなく暖炉の前に居座って暖を取っているというわけだった。
一方の男は背負っていた荷袋の中から、何か野生動物の死体を取り出して解体を始めている。
ナイフ一本で手際よく作業は進められ、あっという間に動物の死体はいくつかの肉の塊に仕分けられた。
男は死体の血を貯めていた鉄なべに、解体した肉を放り込み、ついでにいくつかの香草を入れて暖炉の近くにやってきた。
「温まっているとこすまんが、少しどいてくれ」
そして血と肉と香草の入った鉄なべを暖炉の火にかける。
見たことのない料理。
マーヤの好奇心がムクムクと沸きあがる。
「見たことねえ料理だな。アタシも味見させてくれないか?」
「あぁ、別に構わんが……血で肉を煮込んでるんだぞ?気味が悪いとは思わんのか?」
「骨を食う部族もいるんだ。血が食えねえ道理はないだろ?」
マーヤの言葉に、男はこらえられないとばかりにクククと笑った。
「面白い女だ……気に入った」
そして男は小屋の奥から一本の酒瓶を持ってきた。
「スープが煮えるには少し時間がかかる。その間一杯どうだ?」
「そいつぁ素敵な提案だな」
「アタシはマーヤ、旅人だ。アンタは?」
コップに並々と注がれた酒を受け取りながら、マーヤは男に尋ねる。
「マオ……猫族の友人がつけてくれた名だ。猫族の言葉で、意味は ”旅の道連れ”」
「友人がつけてくれた?」
マーヤの疑問に、男……マオは自分の酒を一口のんでから答える。
「かつて俺は何もかも失った。自由も、力も、記憶すらもだ……そんな時ある男たちが俺を救い、名をくれたんだ」
何かを思い出すようにそう語り、マオはゆっくりと酒を飲んだ。
「いい仲間と出会えたんだな」
「あぁ、俺のくだらない人生で唯一価値のある出来事だよ……もうだいぶ昔に皆死んでしまったがな」
しんみりとした雰囲気が流れる。
マオはくいっと酒を飲み干してマーヤの目を見つめた。
「マーヤと言ったか、お前とは不思議な縁があるな」
「不思議な縁? まぁ、吹雪の中で助けてくれたことには感謝してるがよ」
「ふふっ、まあわからないのも無理はない。実はお前と会うのはこれが初めてではないのだよ」
初めてではない?
マーヤは目の前の男をジッと見つめる。
見覚えは無い……物覚えの良い方ではないので断言はできないが、初対面のはずだ。
マオは空になったコップに酒を注ぎながら、ことも何気に真実を告げた。
「俺の二つ名は ”緋色の死神”……こう言えばわかるかな?」
◇
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