第41話 骨3
食卓にならべられたご馳走。
マーヤの他に族長とナルル、そして部族の何名かが食卓を囲んでいる。
シンプルな味付けで茹でられた肉のスープ。小皿には内臓を発酵させてつくったというヤック。
そして、今回マーヤが心待ちにしていた骨のステーキ。
こんがりと火が通った骨を、ナルルが鉈で縦に両断し、皿に盛り付ける。
全員に食事がいきわたると、ナルルが骨ステーキについて解説してくれた。
「骨を全部食べるわけじゃないのよ。食べるのは中にある骨髄だけ!スプーンですくって食べるの」
ナルルに言われるまま、マーヤはスプーンで骨髄を救う。
よく火が通った骨髄はトロリと柔らかく、匂いを嗅ぐと濃厚な獣の香りが鼻孔をくすぐる。
少量を口に入れた。
まず感じたのは濃厚な油。味自体は薄いが、こってりとした油感と獣の風味が鼻を抜ける。
食べられないほどではない……しかし、特別美味いものでもなかった。
骨の味とはこのようなものなのかと、新たな知見を嚙みしめながら肉のスープを啜る。
こちらは慣れ親しんだ味。
魔王討伐の旅で散々食べた。シンプルな塩味のスープ。
わずかに肉の風味はするが、基本的に塩味だけが口内に広がり味に奥行きが無い。
ふと思い立って、肉のスープと焼いた骨髄を一緒に食べてみた。
マーヤの予感は的中する。
コクばかりで塩気の足りない骨髄と、塩味ばかりで味に奥行きの無い肉のスープは、一緒に口に運ぶことで完成され、今まで食べたことのない複雑な味わいのスープへと変貌する。
「……こりゃ、うめぇな」
思わず出たマーヤの一言に、隣に座っていたナルルがほほ笑む。
「ヤックも食べてみて」
ヤック……内臓の発酵食品を少量スプーンですくい、口に運ぶ。
強烈な酸味と肉が腐ったような匂い。そのあまりのインパクトにマーヤは慌ててスープで流し込む。
その様子に、周囲で見ていた部族の皆は声を上げて笑った。
「強烈だろう? これがやみつきになるんだ」
そう言ってニヤニヤと笑う族長から差し出された馬乳酒を受け取り、口直しをする。
正直、これが食べ物だとは信じられないレベルのインパクトだった。
しかし、クセのある食べ物ほど慣れれば病みつきになることも事実……。
マーヤは馬乳酒を飲み干し、族長に告げた。
「また来るよ。今度はきっとヤックも攻略する」
食卓が笑いに包まれた。
マーヤは不貞腐れた顔で、肉のスープを啜るのだった。
◇
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