第36話 緋色の死神
うっそうと茂る木々の枝葉が日光を遮り、昼間だというのに森の中は薄暗い。
濃い植物の匂いと、野性の動物たちの臭気。
人間の手がほとんど入っていない原初の風景。
その奥地にソレは暮らしていた。
シルエットは人型。しかしその大きさは熊のそれに近い。
隆起した筋肉、強靭な緋色の皮膚。額からにゅっと飛び出た二本角。
かつて”緋色の死神”と呼ばれたその鬼種は、先ほどとらえた鳥を、頭からバリバリと食べていた。
食事を終えた鬼は何かの気配に気が付いて振り返る。
そこに立っていたのは武装した二人の人間。
身の丈ほどの巨大なバトルアックスを構えるマーヤと、片手に小盾、反対の手にショートソードを装備したジェイコブだ。
「よぉ、はじめまして”緋色の死神”。突然で悪いが……テメエを刈るぜ?」
マーヤはにやりと笑うと、バトルアックスの切っ先を緋色の死神に突き付ける。
マーヤは身の丈ほどの大きさがある巨大なバトルアックスをフルスイング。
左上段から遠心力を使って振り下ろされたその一撃は、しかし緋色の死神がしなやかな動きで身を捻って回避する。
攻撃後、隙だらけなマーヤに向かって、緋色の死神はその剛腕を振るう。
腕が霞んで見えるほどのスピード。当たればタダではすまなそうだ。
しかし両者の間にスルリと体を割り込ませたジェイコブが、右手に装備した小盾を腕の下に潜り込ませ、半円を描くようにして死神の一撃を受け流す。
パリィと呼ばれる、相手の攻撃を跳ね返すのではなく、攻撃の方向を逸らして受け流す高度な技術。
ジェイコブのパリィは完璧に成功した。しかし、緋色の死神の剛力はすさまじく、攻撃を受け流した右手がビリビリとしびれる。
そう、何度も攻撃を受けることは無理そうだと、その瞬間にジェイコブは悟った。
「サンキュージェイコブ!」
体勢を立て直したマーヤが、ジェイコブをひょいと飛び越えて、そのまま死神にバトルアックスの一撃を叩き込む。
左肩から右脇腹にかけて袈裟懸けの一閃。
切り裂かれる皮膚と、パッと飛び散る鮮血。
しかしマーヤは顔をしかめる。
傷が浅い。
皮膚は裂けたが、強靭な筋肉に遮られて致命傷には至らない……。
チラリと、背後にいるジェイコブに目配せをする。
その視線に気が付いたジェイコブも無言でうなずく。
やはり相手は強い。正攻法は難しそうだ……。
二人は頷いて、くるりと緋色の死神に背を向け、脱兎のごとく逃走をはじめるのだった。
◇
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