現代についていけてないおじさん、若返ってVTuber事務所に就職する。〜最近の若い子達にはついていけない!〜
楠 楓
第1話 おじさん、死す。
「志賀さん、そろそろパソコンの使い方ぐらい覚えてください!」
俺は志賀 恭介。この会社の営業課を勤めて30年のベテランだ。今俺は、後輩に怒られている。何故って? 実は俺は、とんでもない機械音痴だ。ワードだのエクセルだの言われてもさっぱりだ。
「お前な、パソコンの使い方なんて覚えなくても生きていけるんだよ。」
俺が使えるのはスマホがやっとだが、営業成績はずっと一番だ。今の若者はコミュニケーション能力が低すぎる。ゲームばっかりしてるからじゃないのか。
「それじゃあ、俺は先にあがるぞ。」
「はぁ、志賀さんこれ、マニュアルです。これ読んで少し勉強してきてください。」
そう言って、一冊の教本を渡してきた。
それも結構な分厚さの本だ。50のおっさんにこんなの読めって? 途中でおっちんじまうよ。
「はいはい。それじゃ、お先にな。」
「お疲れ様です。」
ちなみに俺は自転車通勤だ。昔はばいくつうきんだったが、健康を気にして最近は自転車に乗っている。
「早く帰って、一杯やるかな。」
俺がチャリを漕いでいると、道端で女性が足を引き摺っているのを見つけた。
よく見るとヒールを履いているが、引きずっている方のヒールの足が折れている。
「おい、お嬢ちゃん。大丈夫か?」
「え、あ、はい。大丈夫……です。」
そうは言っているが、よく見ると服の袖に穴が空いていて、そこから血が出ている。恐らくヒールの足が溝にはまって、コケたとかだろう。
「嘘つけ。大丈夫じゃないだろう。その足を見れば一目瞭然だ。」
この調子だと、自転車を貸しても漕ぐことが出来ないだろう。タクシーでも呼んでやるか? いや、怪我している女性を一人タクシーに乗せるのは不安だ。
……今日の一杯は少し延期だな。
「おいお嬢ちゃん、後ろ座りな。送ってやるよ。」
二人乗りはアウトだが、ここでお嬢ちゃんを一人置いて帰る方が不安だ。
「え、でもそんな、悪いですよ……。」
「いいから乗りな! こんなおじさんに気を使うんじゃないよ。」
そう言うと、お嬢ちゃんは渋々後ろに座った。
悪いね、運転するのがこんなおじさんで。
「で、どこに下ろせばいい?」
「えっと、案内します。」
俺はお嬢ちゃんに従って自転車を漕いだ。
それからしばらく漕いでいると、大きなビルが見えた。
「あ、ここで大丈夫です。」
「了解、お嬢ちゃん、大層なところで働いてるんだね。」
会社の表札を見ると、『アリストレアV』と書かれていた。一体何の会社なんだ?
「お嬢ちゃん?」
「あの、私の相談に乗ってくれますか?」
お嬢ちゃんは泣いていた。俺は只事ではないと思い、近くのカフェで話を聞くことにした。
「何があったんだ?」
お嬢ちゃんは、ポツポツと涙を流しながら話し出した。
「私、ネット配信をしてるんですけど、最近、アンチが多くなって、辛くて……。」
……すまない。アンチってなんだ? あれか? アンチグレアってやつか? まぁよく分からないが、このお嬢ちゃんが苦しんでいるのはわかった。
「そうか……すまんな、俺はおじさんだから、お嬢ちゃんの悩みは理解できん……。
でもな、お嬢ちゃん、社会なんてそんなもんだ。何をしても何か言われるもんだよ。」
お嬢ちゃんは俺の話を静かに聞いていた。
若い子はメンタルが弱いとよく言うが、日本の自殺率は歳をとる事に増えているというのを新聞で見た。
最近の若い子は何で悩むのかはわからないが、悩みの種なんてものは今も昔も大して変わらない。
「お嬢ちゃんは、チャールズ・チャップリンって知ってるか。」
「いえ、知りません……。」
だろうな。俺も映画を一二本観ただけだ。
「もし、お嬢ちゃんがまた辛くなったら、この言葉を思い出しな。
『私は悲劇を愛する。悲劇の底にはなにかしら美しいものがあるからこそ、愛するのだ。』ってな。」
俺が知っている数少ないセリフの一つだ。これで元気になってくれたら嬉しいが……。
そして、お嬢ちゃんは顔を上げた。それはそれは立派な笑顔をしていた。
「ありがとうございます。私、まだ頑張れる気がします!」
元気になってくれたようで良かった。
「おう。負けんなよ、お嬢ちゃん。」
俺はそのままチャリで帰宅することにした。
お嬢ちゃんに連絡先を聞かれたが、断った。俺みたいなおじさん構ってる暇があるなら、もっといい人見つけろってな。
「そんじゃあな、またどっかで会えたらいいな。」
そのまま俺は帰ろうとしたとき、カフェの駐車場に一台の車が突っ込んできた。車はそのまま一人の女の子に向かっていった。
「危ない!」
俺は咄嗟に走り出して、その女の子を突き飛ばした。
しかし、俺はそのまま車に轢かれてしまった。
人の慌ただしい声が聞こえるが、ピクリとも動かない。
まぁ人一人救って死ねるんだ。悪い最期じゃねぇよな……。
----------------------------------------------------------------
こんにちは(*^^*) クスノキです。
他にも小説を投稿しておりますので、是非覗いて見てください。
この小説の投稿は不定期になると思いますが、週2、3話投稿できるよう頑張ります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます